日医ニュース
日医ニュース目次 第1078号(平成18年8月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

26
広範囲胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術
〈日本胸部外科学会〉

 胸部大動脈瘤は,胸部大動脈の最大径が三十五ミリ以上に拡大した病態であり,発生頻度は十万人当たり六〜十人/年(解離性大動脈瘤:一〜二人/年/十万人,真性大動脈瘤:四〜五人/年/十万人)である.発生頻度は高齢社会の到来と食生活の欧米化によって増加の一途をたどっており,日本胸部外科学会による胸部大動脈瘤手術症例数調査でも,二〇〇二年:七千三十六例,二〇〇三年:七千百三十四例,二〇〇四年:八千百五十九例と明らかに増加傾向にある.
 外科的治療の基本的術式は人工血管置換術であるが,最近,ステントグラフト内挿術が増加し,前述の調査によるその症例数は,二〇〇二年:四百五十一例,二〇〇三年:五百三十二例,二〇〇四年:六百六例となっている.
 このようにステントグラフト内挿術が増加してきている最大の理由は低侵襲性であり,最近は広範囲胸部大動脈瘤症例にも,その応用が適応されている.
 上行大動脈から胸部下行大動脈,また胸部下行大動脈から腹部大動脈に及ぶ広範囲胸部大動脈瘤に対する手術は侵襲が大きく,特に高齢者,合併症を有する症例の手術成績は不良で,入院死亡率は二〇〜三〇%である.このような背景から,前者に対しては一期手術としてエレファントトランク法を用いた上行弓部大動脈置換術を行い,二期的には,経皮的にステントグラフトを胸部下行大動脈からエレファントトランク内に挿入固定するハイブリット・アプローチ法を用いることにより,二年生存率八五%と良好な成績が報告されている.また,同様の症例に対して,小窓(フェネストレーション)付きステントグラフトを用いて上行大動脈から胸部下行大動脈まで一期的にステントグラフトを留置する方法もある(図A,B)

図 A:術前三次元CT画像
  B:術後三次元CT画像
上行・弓部大動脈から胸部下行大動脈にかけて広範囲にステントグラフトが留置されている.
A B

 後者の胸腹部大動脈瘤に対しては,一期手術として腹部切開を行い,腹腔動脈,上腸間膜動脈,両側腎動脈に小口径人工血管でバイパス手術を行い,二期的には,経皮的にステントグラフトを胸部下行大動脈から腹部大動脈に留置する方法を用いる.
 広範囲胸部大動脈瘤の一治療法としてステントグラフト内挿術は有用であると思われるが,本法の歴史は浅く,ステントグラフトの移動,グラフト周囲リーク,大動脈穿孔,塞栓症,急性大動脈閉塞等の問題点と合併症の危険性もあるため,慎重な経過観察が重要である.

(東北大学大学院医学系研究科心臓血管外科教授 田林晄一)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.