日医ニュース
日医ニュース目次 第1080号(平成18年9月5日)

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の早期実現を

 日医の「『分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度』の制度化に関するプロジェクト委員会(山口光哉委員長)」は,制度原案を取りまとめ,唐澤人会長に手交した(写真下).なお,この制度原案を川崎二郎厚生労働大臣にも手渡し,検討の約束を得た.

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の早期実現を(写真) 分娩に関連して生ずる脳性麻痺に対して,医師に過失がなくても補償を行うとする制度案は,女性が,妊娠と分娩を不安なく迎えることを希望し,分娩に伴い不可避的に一定割合発生する重度障害者とその家族を,速やかに,社会的に救済することにより,生きる権利を平等に確保することを基本理念としている.また,安心して子どもを産むための環境の整備や,無過失・無責の産科医師から分娩事故訴訟による時間的・精神的な負担を取り除き,医師と患者の信頼関係に基づく健全な周産期医療環境を確保することを目的として構築されている.

無過失補償制度に対する日医の取り組み

 日医では,昭和四十七年,故武見太郎元会長が,「『医療事故の法的処理とその基礎理論』に関する報告書」のなかで,「医師として過失がないのに不可避的に生ずる重大な被害に対しては,国家的規模で損失補償制度を創設しこれに対する救済を図ること」という,先見性のある提言を行っている.本年一月には,「医療に伴い発生する障害補償制度検討委員会(プロジェクト)(山口光哉委員長)」が,いわゆる無過失補償制度の問題についての検討結果を取りまとめた答申を行った.答申では,医療に伴い発生した障害に対し,迅速・公平な補償を行う公的補償制度の導入が必須であることを提言.医療行為に関連したすべての障害に適応することが望ましいとしながらも,実現可能で,最も緊急度が高い「分娩に関連した脳性麻痺に対する補償制度」の先行実施を求めた.
 この提言を具体化するために,日医は,六月,「『分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度』の制度化に関するプロジェクト委員会」を設置.同委員会が制度原案を取りまとめ,唐澤会長に答申した.

制度原案の概要

 原案では,生下時体重二千二百グラム以上,または在胎週数三十四週以上で出産した児であって,脳神経学専門の小児科医から,脳性麻痺で身体障害者障害程度等級第一級または第二級に該当すると診断されたものを,原則として補償対象としている.症状が固定する五歳までに,補償金として二千万円を一括払いし,六歳以降は介護料の補償を年金方式で行う.また,十八歳以降は,介護料に加えて,逸失利益(男女全年齢平均年収の八〇%)を補償するとした.
 制度の運営に当たっては,「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償基金(以下,『基金』)(仮名称)」を設置するとともに,基金のもとに,調査,裁定,不服審査,医療事故分析安全の各委員会,ならびに補償基金運営事務局を設ける.基金では,障害者に対して迅速な救済を図るとともに,分娩に関連する脳性麻痺の事故原因の分析・検討を行い,安全対策上有用な事例については,問題点を公表する.
 制度の運営に係る基金総額に関しては,その対象となる脳性麻痺の発生を年間二百五十件と推定し,その他の算出条件(医師に過失がある場合の医賠責保険の対象額の控除,障害者年金等の公的支給額の控除等)を勘案した場合,五年目までが毎年五十億円,六年目から十年目までが三十六億円,十一年目から二十年目までが六十一億円の補償金額が必要になると算出.二十年後の二〇二六年まで,基金総額を年間六十億円(基金機構運用費用を含む)とすれば,制度は機能するとした.
 なお,二十一年目以降の運営に関しては,それまでの実績を考慮し,検討していくことを要望するとしている.
 基金の財源については,制度の趣旨と多額の基金総額を考慮すると,本来,国の予算措置を要する重要課題であり,「骨太の方針二〇〇六」の総合的少子化対策の一環として支出すべきであると指摘する一方,出産育児一時金からの一部拠出や,分娩を取り扱う医療機関・産婦人科医師からの拠出なども考えられるとした.
 また,出産育児一時金の受給が可能となる,妊娠十二週以降まで待ってから,人工妊娠中絶手術を受けることが医師の間で問題となっていることにも着目.人工妊娠中絶に対する支払いは,本来の一時金の趣旨とは異なるとして,その費用を基金に転用すれば,年間二十八億円が拠出できるとした.
 木下勝之常任理事は,八月八日に行われた記者会見で,制度原案の内容について説明し,報道各社に対して,障害補償制度の基本理念とその目的に対する理解を求めるとともに,平成十九年度通常国会への上程,さらには障害補償制度の法制化に向けての協力を強く要請した.

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