日医ニュース
日医ニュース目次 第1081号(平成18年9月20日)

第1回WMAアジア―大洋州地域会議
災害への備えと対応と今日の医師および医師会をテーマに

第1回WMAアジア―大洋州地域会議/災害への備えと対応と今日の医師および医師会をテーマに(写真)

 世界医師会(WMA)と日医の共催による,第1回WMAアジア―大洋州地域会議が,9月10,11の両日,都内のホテルで開催された.会議には,WMA・アジア大洋州医師会連合(CMAAO)・東南アジア医師会連合(MASEAN)などから17カ国の関係者が出席し,「災害への備えと対応」と「今日の医師」をテーマに,基調講演と活発な意見交換が行われた.
 なお,これに合わせ,日医特別市民公開講座(後援:WMA)が,10日,日医会館で開催された.(別記事参照12

 会議は,クロイバーWMA事務総長の司会で開会.開会のあいさつには,コブルCPW(WMAのプロジェクトのひとつ)議長,唐澤人会長,レトラッペWMA会長の三氏が立ち,文化・国境を越えた協力体制の充実や,健康・メディカルケアに対する理解の世界的な共有等,会議に寄せる期待を,それぞれ述べた.
 あいさつに引き続き,コブル氏と唐澤会長を座長に,尾身茂WHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局長が,「新型インフルエンザの現状」をテーマに基調講演を行った.

尾身茂WHO西太平洋地域事務局長
尾身氏が「新型インフルエンザの現状」を報告

 尾身氏は,平成十二年の「西太平洋地域ポリオ根絶京都会議」における「ポリオ撲滅宣言」の採択や,SARS制圧対策などに際して多大な実績を上げており,十一月に予定されているWHO事務局長選挙に,日本政府の推薦で立候補している.
 基調講演では,「多様性」をキーワードに,高病原性鳥インフルエンザの現況,ならびにパンデミック(世界的大流行)の脅威とその準備について解説が行われた.
 尾身氏は,最初の多様性として,家禽によるH5N1型ウイルスの感染地域の拡大について説明.平成十五年には,アジアを中心に検出されていたH5N1型ウイルスが,平成十七年には,ヨーロッパやアフリカにも広がりを見せている事実などに触れ,その地理的な多様性を指摘した.また,感染地域の拡大に関連して,感染拡大のメカニズムについても言及.従来考えられていた,渡り鳥による感染だけでなく,家禽の輸出入など,人為的な関与が大きな要因の一つと考えられるとした.
 また,従来,渡り鳥にはウイルス耐性があるものと考えられていたが,平成十七年,中国の青海(チンハイ)で,H5N1型ウイルスに汚染された六千羽を超える渡り鳥が突然死したことなどを例に挙げ,ウイルスの急速な遺伝変異の可能性を示唆.その予知不能な可変性を多様性の一つとして挙げた.パンデミックの脅威とその準備に関しては,高病原性鳥インフルエンザを封じ込めるために実施された対策の比較表(成功した国と失敗した国)が示された.そのなかでは,成功国において見られる共通の対策として,(一)地域社会の認知,(二)動物の監視,(三)汚染家禽の迅速な処分とその補償─が適切に行われていることを指摘した.
 さらに,適切な対策を講じるためには,(1)“兆候”の早期発見とWHOに対する報告(2)状況の正しい評価と意思決定(3)対策の実施─の三つのステップが必要になると説明.特に,WHOに対する報告の遅れで,封じ込めの機会を逃してしまうことを問題視,報告の迅速化が一つの課題であるとした.
 最後に,パンデミックに対する対策のポイントとして,(一)ベトナムやタイでの経験(封じ込めの成功例)を踏まえた対応,(二)初期の兆候を注意深く監視し,迅速かつ思い切った対応,(三)動物の監視レベルの向上など,さらなる課題への対応─を指摘し,結論とした.

ドイツなどで発生した医師によるストライキ

 つづいて,三氏による基調講演が,それぞれ行われた.
 プエンテ氏(ファイザー)は,アメリカ・カナダでの医療に関連する調査結果などについて説明.医師会への評価に関する調査では,医療情報の提供等に関しては比較的重要との回答を得ているものの,全体的な評価は極めて低いことが明らかになったとした.
 ボズウェルCMAAO副議長は,ニュージーランドで現在起こっている問題点などについて講演.患者権利憲章が制定されて十年が過ぎ,その形骸化が目立ってきていることや,六月に起きた若手医師のストライキなどについて説明した.
 クロイバー氏は,ドイツにおける勤務医のストライキについて話をした.ストライキでは,過酷な就業状況をアピールする一方,救急医療は継続するなど,国民の理解を得ることで,最終的には報酬の引き上げなどに成功したことを説明した.
 基調講演の後には,歓迎レセプションが催され,川崎二郎厚生労働大臣,武見敬三・西島英利両参議院議員らも出席し,盛会裏のうちに第一日目が終了した.

各国医師会が意見交換

 第二日目となる十一日は,各国医師会の代表者を中心としたセミオープン形式で会議が行われた.
 コブル氏と唐澤会長のあいさつにつづいて,「地震と津波」をテーマとしたセッションIが行われ,キムCMAAO会長とブレイシャーWMA理事会議長が座長を務めた.
 基調講演者は,都司嘉宣東大地震研究所助教授と山本保博日医大救急医学主任教授.
 都司氏は「地震津波発生のメカニズム」と題して,津波の発生機構やアジア大洋州地域のプレート構造について解説.過去に起きた津波の歴史を紹介し,現在の津波警報発令体制や避難対策について説明した.
 山本氏は「災害発生直後の対応」と題して講演.「阪神淡路大震災発災後七十二時間以内の公助での救出は二〇%以下で,八〇%以上は自助,共助での救出と言われている」とし,自助能力の強化と共に時間的推移に合わせて慢性疾患や心のケアも必要であると訴えた.
 つづいて,シン韓国医師会常任理事が,同医師会の災害救援活動について報告.医療チームを国内外へ派遣したり,国内のNGO諸団体を統括するネットワークを創設するなど,積極的な活動を行っていると述べた.また,「スマトラ沖地震ではインドネシア医師会の協力により迅速な活動ができた」として,WMAやCMAAOを通して形成されているネットワークを,国際的な災害救援活動に役立てることなどを提案した.
 セッションIIのテーマは「感染症」.座長である飯沼雅朗常任理事とボズウェル氏が全体の紹介を行った後,WHO西太平洋地域事務局感染症統括官の葛西健氏が「感染症の危機管理―新型インフルエンザの現状と対策」と題して,基調講演を行った.
 葛西氏は,高病原性鳥インフルエンザに関するWHOの疫学分析やモニター活動を紹介.「ウイルスは年々姿を変え,宿主域も拡大する.新型インフルエンザ対策には,鳥インフルエンザ対策,ヒト新型ウイルスの初期迅速封じ込め,パンデミック対策と三段階がある」とし,「パンデミックが発生したら,地震や台風の際のように隣県や中央からの応援は期待できない.危機管理の基本は事前準備.世界情勢に注意しながら,地域ごとに可能な限りの備えをしておくことが重要である」と述べた.
 セッションIIIでは,「今日の医師および医師会」をテーマに,医師に関するさまざまな調査が扱われた.座長は,ウォンMASEAN事務局長とアルムガムWMA次期会長.
 特別発言として,レトラッペ氏は,「医師会の将来」について発表.医師会で互いに学び,何が社会に必要であるかを考え,立場や権力にぶらさがらずに,患者に多くの情報を提供して正しい判断ができるよう手助けすることが使命であると強調した.
 最後に岩砂和雄副会長が,二日間にわたる今回の会議を総括し,地震・津波等の災害が起こる可能性の高いアジア大洋州地域において開催されたことの意義を評価すると共に,医療に携わる者の基本理念として,ヒポクラテスの誓いとWMAジュネーブ宣言について言及した.
 コブル氏からは,共催を引き受けた日医に対する謝辞があった.

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