日医ニュース
日医ニュース目次 第1083号(平成18年10月20日)

第115回日本医師会臨時代議員会
所信表明
日本医師会 会長 唐澤

第115回日本医師会臨時代議員会/所信表明/日本医師会 会長 唐澤祥人(写真) 本年四月一日より私どもが執行部を担当させていただいて,ちょうど半年を経たところであります.この間,各都道府県医師会はじめ代議員,会員各位におかれましては,本会会務運営につきまして,常にご指導とご支援をいただき厚く感謝と御礼を申し上げます.
 また,過日の台風十三号の来襲により多数の死傷者と,家屋の倒壊や,鉄道列車の脱線転覆など多大の被害を被った宮崎県をはじめ九州各地域に対し,衷心よりお見舞い申し上げますとともに,被災された医療機関はじめ被災地の一刻も早い復興をお祈り申し上げます.

医療制度改革関連法案に対峙して

 さて,この半年間の日本医師会にかかわる事業のなかで当初の最大の課題は,今日の地域医療の危機的状況のなか,医療制度改革関連法案の推移をにらみ,対峙し続けることでした.そしてその流れは,今この時点でも同様のかかわり合いと緊張状況をもって継続しております.これら関連法案は財政再建のための削減策を軸に構成されており,国民医療を支える国民皆保険制度,地域医療提供体制に対して多大な影響が予想されることはご高承のとおりです.
 療養病床再編や患者負担増などとともに高齢者医療など多岐にわたる改革が認められるなかで,法案の審議は,大筋に大きな変更のない形で審議を終えました.国会での議決は必定と見込まれる状況の下で,日本医師会にとって,多くの施行細目が盛り込まれる段階までへの関与が最重要課題でありました.本改革法の施行,実施に向け,厚生労働省などの行政官庁から出される広範囲の政省令や通達などへの関与によって,地域医療体制の激変を防止し,受診者,利用者にとって混乱を来さないよう,最大限の働き掛けをしてきたところです.
 そのような状況下,本法案の参議院可決段階において,二十一項目の附帯決議を盛り込むことができ,その後の経過に大きく意見を提言することができましたのは,ひとえに各都道府県医師会あげての支援運動と,各地区選出の関係議員各位,本会関係議員のご理解と献身的なご協力によるものと深く感謝申し上げているところであります.

平成十九年度予算要望について

 その後には時を移さず,経済財政運営と構造改革に関する基本方針,すなわち「骨太の方針二〇〇六」が策定される状況となりました.再度,次年度の予算編成をにらんで,前段の歳入歳出一体改革と言われる分野別の検討段階でも,医療制度に関して,再び保険免責制,高齢者自己負担増あるいは混合診療の導入など,医療保険制度崩壊につながる提案内容について,同様な対処によって素早く排除できたことも,各地区からの強力なご支援と関係各位のご活動によるものと,一連で一体的な運動の重要性を認識しつつ,感謝申し上げます.
 七月は次年度の概算要求の時期に当たり,国民医療,地域医療を担う現場の意見として,厚生労働省はじめ関係官庁へ予算要望を提出,趣旨の説明を行い,同時に政府,与党へも予算要望の趣旨説明を行いました.
 特に喫緊の課題として,医療制度改革関連法の附帯決議に記載された事項でありますが,強力に要望しました項目は,医師の偏在,へき地・離島医療の問題,療養病床の再編の問題,小児科・産婦人科医療をめぐる諸問題,そして勤務医の労働環境や看護の基準に対しての問題など,多くの対応策の実施を迫ったものであります.ご高承のとおり,これらはすでに二十一項目の附帯決議に盛り込まれ,多くが取り組まなければならない項目となっており,今後も強力に働き掛けを行い,現実的な改善策の実施に取り組んでいくものです.

危機の打開を国民とともに

 本年,診療報酬はマイナス三・一六%と大幅な減額改定を受けました.全国の医療機関は,このような状況下で厳しい医療提供を迫られております.民間病院からは,今,収入減と運営を困難とする直近の状況が,データとして刻々と届いております.ことに,産科医療をめぐる諸問題と看護基準の大きな影響,療養病床の再編の問題は,いずれをとっても早急に改善を図らなければならない課題となっております.さらに,地域の医師偏在と不足,勤務医の過重労働状態は,まさに医療提供体制の崩壊を危惧する事態となってきつつあります.
 今こそ,このような地域医療の状況を国民に理解していただく努力を強力に進める必要があると考えております.まさに一刻の猶予もならない事態であり,まず第一になすべきは,あらゆる報道機関に,この現況を説明し,国民医療を守るために誠に憂慮すべき事態であることを国民に知っていただくことであり,鋭意取り組んでいるところであります.
 現在,合計特殊出生率が一・二五を割り,さらに二〇一二年には団塊の世代が六十五歳に到達します.少子化が進行するなかで,高齢者が著しく増加する社会が始まるのです.高齢者が増加すれば,疾病を有する人々が増加することはご承知のとおりですが,疾病の重症化を防ぎ,後遺症や障害を少なくして,社会参加の可能な高齢者を少しでも増やす政策を推進することも大切です.と同時に,産業,経済を中心から支える現役世代が,心身ともに健康で活動できる施策と環境づくりを確保することも重要課題であり,このための事業も推進していかなければならないと思います.

医療費削減策がもたらすもの

 九月に安倍政権が発足し,構造改革路線を踏襲することは明白となりました.ことに,経済財政諮問会議の存続は,規制改革と同時に,財政再建路線の政策に注力するかに思われます.そして社会保障制度についての政策は,全貌はつまびらかではありませんが,年金,医療,介護,福祉など一体的な政策として取り組むと述べられております.極端な医療費削減によって医療提供体制が崩壊しつつあるなかで,すでに医療制度は限界に至っています.今後も国の会計の見直しに当たっては,ぜひとも特別会計に含まれているさまざまな無駄を改善し,国費を捻出する努力に尽力していただきたいと考えるものです.
 日本医師会は,すでに策定に着手しております日医発のあるべき医療制度のための政策を掲げ,会員とともに,国民への説明と理解を求めつつ,新内閣をはじめ多方面に提言することが求められていると考えます.
 日本医師会は,最善の政策を立案し,実現のための戦略を推進し,全国の会員,医療機関の有意義な未来をつくることにより,国民の期待に応え,国民の健康と福祉を守ることに邁進しなければならないと考える次第です.詳細は,本日の代議員各位からのご質問のなかで適宜ご説明申し上げることにしまして,ごあいさつといたします.

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