日医ニュース
日医ニュース目次 第1086号(平成18年12月5日)

視点

医師の「立ち去り」現象と地域医療を考える

 相次ぐ「医療改革」によって生じた医療現場の混迷と将来性に対する不安は,政策的資金抑制とそれに伴った制度への信頼感の喪失が大きな原因と思われる.その結果として,今,わが国のチーム医療から,若い世代の早期退場現象が起こっている.この解決への速効策は,残念ながら見当たらないとは言え,放置できない水準に達してきてしまっていることも,座視できない現実と考えられる.
 昨今のあまりにお寒い現状に対して,国民の側からも不安の声が上がり,プレスの論調もまた,ひところとはだいぶ変化してきている.次世代の担い手が次々と退場する業態に,将来性が見出せるはずはない.へき地をはじめとする地域医療,そして周産期医療の人員不足やチームの撤退などの医師偏在が,極端な勤務医不足をいっそう招いていることは明白であり,医師絶対数の不足まで喧伝される状況に至っている.
 これに特定機能病院中心の特需によって起こっている看護師の不足感が相乗したため,今年度後半は,地域医療を維持しようと試みるメンバーにとっては,きわめてハードな時期を迎えると思われる.
 この現状への対応策として,へき地医療の一定年限勤務義務化や,医師の自由開業制限によって,強制的に勤務医の数を確保しようとする論議が行われている.しかしながら,今日の医療現場において,国民から最も求められているものは,まず,その質の確保であり,へき地医療と言えども,その内容に変わりがあるべくもない.強制によって,いやいや遂行されるようなレベルの医療が提供されたとしても,それは地域住民のニーズに応えるものとは到底なり得ず,いっそう地域医療の混乱を招来する結果に終始するだろう.
 わが国の開業医の果たしている機能は,地域における保険医療の担い手であるばかりでなく,介護保険や保健福祉事業にかかわる審査会への時間外の参加,学校医や予防接種など不採算な政策としての事業に対する協力,看護学校をはじめとする地域におけるコメディカル養成事業などがある.また,初期救急への協力のみならず,今後は地域医師会や中核病院と連携した,健診をはじめとする予防医療と在宅医療への関与がいっそう求められているのである.それに加えて,地域の開業医が高齢化してきている現実を見れば,強圧的な開業禁止案がどれぐらい暴論であるかは明白である.
 これらの項目すべてに関与して,地域に根差した全人的医療が実現できるのは,地域医療をおいてほかにはない.若い世代の医師に見られる地域医療への不参入や,チーム医療からの勤務医の「立ち去り」現象に対しては,既述の認識を共有化したうえで,拙速な対応を避けたビジョンに基づく手立てを,国民とともに行政を巻き込んで実行することが喫緊であると考える.

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