日医ニュース
日医ニュース目次 第1090号(平成19年2月5日)

「日本医師会 女性医師バンク」スタート
―医師の勤務環境の改善を目指して―

はじめに

 ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は,当面見送られた.
 かつて,医師の勤務は裁量労働制そのものであり,当直勤務は言葉どおり,休日や夜間に何かあった時の備えとしての役割のみを負っていた.また,その給与も,主たる勤務先からのそれはアルバイトや謝礼等を前提とし,従とさえ言えるものであった.その状況に根本的な変化が起きている時,多くの医師は高い職業倫理に基づき,今日,地域医療の危機的状況を迎えるまで,それぞれの我慢と努力でその変化に耐えてきたものと考えられる.その忍耐が限界を迎えていることは,多くの方々の感じるところであろう.
 さて,若い医師の女性比率は20年前に比べて,倍増している.この若い女性医師が,継続して医師としてのキャリアを続けられないとすると,医師の勤務環境はますます悪化し,日本の医療は立ち行かなくなるだろう.女性医師の増加を,医療にとってのマイナス要因と考える方もおられるかも知れないが,医療の受け手側の意識は大きく変化し,今,女性医師は社会から求められている.多くの女性医師の力を生かすことで,また,女性医師の勤務環境を改善することから,医師全体の勤務環境の改善への流れをつくることができるのではないか.

医師再就業支援事業(厚生労働省委託事業)

 当初,この事業は離職している女性医師を現場に呼び戻すことを目的として計画されたものである.したがって,女性医師バンクもパート勤務の紹介を主として考えられていた.しかし,医師の職業特性から,一度離職した医師が現場復帰するのは並大抵なことではない.女性医師がそのライフステージを通じて,医師としてのキャリアを継続することを可能にすることが重要である.事業のタイトルは「再就業支援」であるものの,実際は「就業支援」を目的としている.既報(別記事参照)のとおり,事業は,1.女性医師バンク創設・運営,2.長期離職医師の再研修の支援,3.女性医師の勤務環境の整備についての啓発活動―を柱としている.

1.女性医師バンク
 事前登録のFAX受け付けを開始したところ,1月19日現在,北海道から沖縄まで全国各地から求職票請求150件,求人票請求386件があり,これは連日増加している.会員の皆様のご協力に感謝するとともに,その運営に全力で取り組む所存である.このバンクは「求人側・求職側双方に一切の費用負担を求めず,求職者のさまざまな状況に適合した求人先の紹介を行うが,その際,必要があれば就業環境の調整も行う」「求職,求人側に保育についてや駐車場等についての詳細な情報の登録を求める」「就業後の相談も受け付け,必要な支援も行う」ことを特色とし,当面,東西両センターに医師であるコーディネーターを置き,業務に当たる.実際の運営に当たっては,全国の皆様のご協力を仰ぐ場面が数多くあるものと考えるが,さらなるご協力をお願いしたい.1月30日からは,日本医師会女性医師バンクホームページを開設(https://www.jmawdbk.med.or.jp/)したので,求職票,求人票の登録はインターネット上で行うことができるようになる.

2.再研修の支援
 研修を希望する登録者について,個々の事情や専門科に合わせて,就業先が決定する前に行う研修の受け入れ先として,すでに長崎大学医学部・歯学部附属病院 女性医師麻酔科復帰支援機構,東京女子医科大学 女性医師再教育センター,信州大学医学部・附属病院 地域医療人育成センター,千葉県メディカルサポート事業などから,ご協力の約束をいただいている.そのほかにもいくつかの施設からご協力を得られる予定であるが,さらに協力先を増やして,地域や専門科を広げる方向で努力している.また,就業決定時に,希望者には就業先での研修の実施を依頼する.

3.女性医師の勤務環境の整備についての啓発活動
 各都道府県医師会に,今年度中に「病院長,病院開設者,病院管理者等への講習会」の開催をお願いしている.来年度も引き続き開催をお願いする予定である(講習会モデル案については,日医男女共同参画委員会で作成し,都道府県医師会に配布済み).
 その他,個別に,ナショナルセンター,公立病院運営母体,公的病院運営母体等への働き掛けにも取り掛かっている.また,勤務環境整備についての国の取り組みについても,今後,厚生労働省等に働き掛けていく予定である.

4.女子医学生や研修医への支援・啓発
 厚生労働省の事業からは外れるが,日医男女共同参画委員会の事業として,今年度10都道府県で講演会や懇談会をモデル開催,来年度は全都道府県での開催をお願いする予定であり,そのモデル案を来年度初めには,全国にお知らせする予定である.

最後に

 この支援事業は,決して女性医師のみを優遇するためのものではない.女性医師が自分で選び取った「医師」という大切な職を投げ出さずに続けることを求めるためのものである.

「日本医師会 女性医師バンク」スタート/―医師の勤務環境の改善を目指して―(図)

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