日医ニュース
日医ニュース目次 第1091号(平成19年2月20日)

平成18年度在宅医研修会
在宅療養者が安心できる在宅ケア支援システムの構築を

 日医として初の試みとなる在宅医研修会が,「在宅での看取り(がん以外の認知症,脳卒中等による死)」をテーマに,二月四日,日医会館大講堂で開催された.会場は,五百八十三名もの受講者で超満員となった.

平成18年度在宅医研修会/在宅療養者が安心できる在宅ケア支援システムの構築を(写真) 本研修会は,“施設から在宅へ”の流れが加速するなかで,地域をひとつの病棟と考え,多職種協働により「在宅療養」を支える重要性に鑑み,在宅医療に携わる医師の知識・技術向上と研鑽等を目的に開催され,五つの講義と全体ディスカッションが行われた.
 木安雄氏(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)の司会で開会.冒頭のあいさつに立った,天本宏常任理事は,「日医では,在宅医療に関する初めての指針“在宅における医療・介護の提供体制─『かかりつけ医機能』の充実─指針”を,一月に発表した.指針では,高齢者の尊厳と安心を創造し,暮らしを支援するという意味で,『地域の中で健やかな老いを支える医療』という視点を強調した.
 次年度以降も,このような研修会を開催し,在宅医療の推進に取り組むとともに,在宅医に対する研修カリキュラムの確立等に向けて,日医の意見をまとめていきたい」と述べた.

講 義

 引き続き講義に移り,池上直己氏(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)は,「これからのがん以外の在宅での看取り」と題する講義を行った.
 池上氏は,死に至るまでのプロセスを三つに類型化.第一のパターンを,死亡する約二カ月前までは心身とも機能が保たれ,その後,急速に機能が低下する“がん”など,第二のパターンを,二〜三年の経過で鋸状に機能が低下する“心・肺・肝の不全”など,第三のパターンを五年以上の経過で,徐々に機能低下する“認知症・老衰”など─と分類し,「超高齢社会においては,第三のパターンが増加するため,在宅医の役割が重要になる」と述べた.
 また,終末期の延命医療については,一般国民の意識調査の結果を示しながら,司法の障壁にも言及した.
 池上氏は,一九九五年の横浜地裁の判決によると,延命中止の要件は,(一)治療不能な病気に冒され,回復の見込みがなく死が避けられない,(二)治療行為の中止を求める患者の意思表示が治療行為中止の時点で存在―等とされているが,「治療不能な病気」は厳密に定義しにくく,「治療行為中止の意思表示」も現実には難しいので,家族の「推定的意思」を認めることになっていると説明.
 今後の課題として,本人・家族の意思を確認する方法の定型化など,司法当局と合同で法的ガイドラインの作成を行うべきとの考えを示した.
 また,すべての医師が,終末期ケアに対する基本的な知識を修得できるよう,在宅医に対する研修・認定制度を確立する必要があると述べた.
 黒岩卓夫氏(医療法人社団萌気会萌気園浦佐診療所所長)は,「一般の診療所が実施可能な在宅医療について」と題して講義を行った.
 黒岩氏は,在宅医療制度の歩みや現状を解説し,「介護(制度)は生活を支え,医療(制度)は健康を支えるものであるが,両者の役割分担を明確にして連携することが大切である」と述べた.また,魚沼市の浦佐診療所や上村医院,新田クリニックなどを例に挙げて,診療体制や在宅患者の統計を紹介し,実際の在宅患者について症例報告した.黒岩氏は,「在宅医療(ケア)は人間の生き死にというドラマに立ち会えて,自分の人生にとっても大いに役立つ.専門外でも,その力を十分に生かすことができるので,積極的に在宅医療に携わって欲しい」と,在宅医療への参加を勧めた.
 また,「在宅医療は二十四時間体制と地域連携が大切であるが,夜間等の緊急往診は,日常的なケアの工夫と患者・家族との良い関係で,ほとんどなくすことが可能である」と述べた.さらに,平成十八年四月の診療報酬改定において新設された「在宅療養支援診療所」の意味は,在宅ケアにおける診療所の役割の重要性と使命感を,行政が主として開業医にアピールしたものであり,それにいかに応えるかが,今後の課題であると強調した.
 野中博氏(医療法人社団博腎会 野中医院院長)は,「在宅医療を推進するための地区医師会の役割について」をテーマに講義を行い,治療・診断のみならず,利用者の健康・生活支援にまで及ぶ医師の役割について説明.同時に,「なじみの地域」「なじみの医師」が利用者に対して持つ力を医師が再認識し,地区医師会とともに「なじみの環境」を整備していくことの重要性を指摘した.
 また,「在宅療養支援診療所」の設置に関しては,設置に対する医師の意思を支援するのが地区医師会の役割であるとする一方で,在宅療養支援診療所だけが,在宅医療に従事すればいいという機運があることを危惧.利用者にとって重要なのは,在宅療養支援診療所自体ではなく,「なじみの医師」であることを強調した.
 生活習慣病予防や介護予防については,一次予防の段階から国民の健康を考えていくことが地区医師会の重要な役割であると指摘.地域包括支援センターへの積極的な関与はもちろんのこと,医師らが同センターに連絡を取るための簡潔な連絡様式の作成など,地区医師会として検討して欲しいと述べた.
 さらに,日医が平成十六年に発表した“高齢者医療と介護における地区医師会の取り組み指針”を紹介し,その内容について,再度,地区医師会として検討するよう提案した.
 山崎章郎氏(ケアタウン小平クリニック院長)は,「在宅療養者が安心できる在宅ケア支援システムについて」と題する講義を行った.
 山崎氏は,施設ホスピスでの勤務から学んだこととして,(一)症状コントロールの大切さ,(二)インフォームド・コンセントの大切さ,(三)チームケアの大切さ,(四)ボランティアとの協働,(五)スピリチュアルケアの重要性─などを挙げたうえで,「約五十日とされる施設ホスピスでの平均在院日数を患者がどう生きるのかが重要な視点になる」「一言の会話が患者の余生の生き方を大きく左右する」ことなどを解説するとともに,施設ホスピスのケアのあり方が,がん以外の患者にも十分普遍化できることを,自身が実感した経験などを交えて説明した.
 また,山崎氏は,適切なチームケアを行うためには,チームが,情報を随時共有できる物理的距離の近さが必要と指摘.氏の診療所も参加している,デイサービス,訪問介護,訪問看護,訪問診療等の機能を一カ所に集約した「ケアタウン小平」における,二十四時間体制の訪問診療・訪問看護の取り組みや看取りの現況などを紹介した.
 米満弘之氏(医療法人社団寿量会熊本機能病院理事長)は,「在宅医療の推進─地域リハビリテーションの観点から─」をテーマとして,リハビリテーション医療のポイントや,在宅における地域リハビリテーション医療のかかわりなどを中心に講義を行った.
 米満氏は,高齢者リハビリテーション医療には,(一)予防的活動,(二)治療的活動(急性期,回復期),(三)介護的活動(維持期,終末期)─があり,それぞれの目的に合ったリハビリテーション医療を適切に実施することが必要であると説明.終末期リハビリテーションにおいては,「最期まで人間らしさを保証すること」が大切であるとした.
 また,これからの高齢者リハビリテーション医療を,(一)脳卒中モデル,(二)廃用症候群モデル,(三)認知症モデル─に分類し,その特徴や対応を説明.高齢者の生活自立をどう支援していくのかが重要な視点になると話した.
 地域リハビリテーションに関しては,保健・医療・福祉の枠組みをはずし,医療連携から地域連携まで,“かかりつけ医”を中心とした新たな枠組みの構築が必要と指摘.“かかりつけ医”には,「介護保険に積極的にかかわると同時に,住民の生活自立支援を行い,地域の街づくりにおいても中心的な役割を担うことを期待したい」と述べた.
 全体ディスカッションでは,出席者から提出された質問に対し,各講師を中心に回答を行った.
 最後に,天本常任理事が閉会のあいさつを行い,盛会裏に終了した.

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