日医ニュース
日医ニュース目次 第1092号(平成19年3月5日)

視点

先行する豪州の医療・介護制度からわれわれは何を学ぶか…

 先日,ある視察団の団長として豪州(面積は日本の二十倍で,人口は六分の一)の医療・福祉と関連サービス施設を見学し,多くの危機感を抱いた.その感想を述べさせてもらう.
 ご存知のように,英国では家庭医(GP)が限定されるが,豪州では患者がGPを選び,初診はまず,GPを受診する(救急は別).レントゲン・超音波検査には紹介状が必要である.公的保険である「メディケア(徴収は国税庁が行う)」は,米国(無保険者一五%)とは対照的に全国民をカバー.その恩恵で患者が公立病院に集中,手術には何カ月も待たされる.そのため,私立病院の活動が活発で,民間保険会社が増加し,いわゆる混合診療が行われている(参考までに,消費税は一〇%,食品と医療は非課税).
 高齢者福祉では,施設と在宅介護サービスがあるが,一九五〇〜六〇年に施設を中心とした介護整備(高度な介護は「ナーシングホーム」,軽度は「ホステル」)が進んだ.そして,八〇年代はノーマライゼーション思想に感化され,在宅中心へと方針が変更され,九〇年代は二十四時間体制の在宅サービスが導入された.しかし,近年,後期高齢者人口の増加で,重度の要介護高齢者比率が高まり,「ナーシングホーム」が不足.そこで,九七年に軽度の要介護高齢者のみを受け入れる「ホステル」を「ナーシングホーム」に転換する方針が出され,軽度の要介護高齢者を「在宅サービス」に移行させる流れとなった.
 日本では,今日まで,豪州の進んだ医療・介護システムは良い手本とされ,多くの専門家が豪州を訪れ,研究をしてきた.しかし,わが国で財政主導のもとに断行された「療養型病床」の削減は,豪州のノーマライゼーションの二の舞となり,介護難民の発生を警告するものである.
 二〇〇八年度から創設される七十五歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」には,医療と介護の良好な連携が不可欠であり,フリーアクセスを阻害する「人頭払い制」などの導入を,認めることはできない.さらに,日本では,ケア付介護施設の全高齢者数に占める定員割合が,英国,デンマーク,スウェーデン,米国より低いことにも,注目すべきである.
 これらの現実を直視した時,各国が進めてきた医療・介護制度の現状が,われわれに警鐘を鳴らしていることを無視してはならない.

(国民医療費(人口一人当たり)日本:二四・七万円,豪州:三一・三万円)

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