日医ニュース
日医ニュース目次 第1093号(平成19年3月20日)

竹嶋副会長・中川常任理事
後期高齢者医療制度は保障原理で

竹嶋副会長・中川常任理事/後期高齢者医療制度は保障原理で(写真) 竹嶋康弘副会長と中川俊男常任理事は,「後期高齢者医療制度に対する日医の考え方」について二月二十八日の記者会見で説明した.
 まず,竹嶋副会長は,診療報酬のマイナス三・一六%改定,介護療養病床の十五万床廃止,リハビリテーションの日数制限,七対一入院基本料問題などによって,地域医療を担う地域の病院の閉院,看護師不足や偏在が起こるなど,地域医療は崩壊しつつあることを指摘.これらは,前政権の一方的な歳出削減政策に厚生労働省が追従して起こった現象であり,今後は社会保障費一兆一千億円削減の見直しを含め再検討するべきだと主張した.
 そのうえで,同副会長は,今,課題に上っている後期高齢者医療制度が,高齢者の心身の特性に合ったものとなるようにと考え,今後の議論のたたき台として,日医の見解を発表したものであると説明.「厚労省が打ち出している“施設から在宅へ”という方向性が基本的に間違っているとは言えないが,現状をきちんと見ると,それ以外の選択肢も用意しておく必要がある.財源としては,高齢者には保険原理はなじまず,保障原理の考え方で対応すべき」と述べた.また,日医が一月に公表した「在宅における医療・介護の提供体制―『かかりつけ医機能』の充実―指針」を示し,高齢者の医療と介護に関する三つの基本的考え方と七つの提言について説明した.
 つづいて,中川常任理事が資料を基に説明を行った.
 同常任理事は,近年の診療報酬改定における相次ぐマイナス改定により,医療の安全性を確保することがきわめて困難になっていること,さらにその動きに追い討ちをかけるように示された「骨太の方針二〇〇六」で,社会保障費を五年間で一兆一千億円削減することを企図していることを問題視し,この方針が実施されれば,日本の医療が崩壊しかねないとの認識を明らかにした.
 現在,厚労省が進めようとしている後期高齢者医療制度に関しては,(1)財政主導(2)地域間・個人間格差への配慮が欠落(3)後期高齢者の心身特性への配慮が不足(4)単身高齢世帯・老々世帯の激増への考慮不足(5)認知症等で高齢者の自己決定が困難であることへの認識不足(6)終末期医療の選択肢が限定的―などと批判.日医としては,後期高齢者医療の激変を避け,医療と介護の一体的提供を目指し,二〇一二年診療報酬と介護報酬の同時改定を目安に,同制度を完全施行するのがよい,と訴えた.
 制度の創設に当たっての日医の基本的な考え方としては,(1)七十五歳以上を対象に,保障原理で運営(2)財源は公費割合を段階的に引き上げる(3)保険料は応能負担で,一部負担金は一律に(4)地域ごとの特例診療報酬は避ける(5)急性期と慢性期の急性増悪は出来高払い(6)「後期高齢者=在宅医療」論からの脱却(7)病床数を維持しつつ居宅環境を整備(8)終末期医療には多様な選択肢を―の八項目を示した.
 保障原理での運営については,後期高齢者では,疾病の発症率,受療率,医療費が急速に高まり,保険原理では機能しにくい.そこで,公費負担割合を九割に引き上げ,一割を保険料と自己負担で賄うことを提案している.
 また,厚労省案が,「一般」にも「後期高齢者」にも公費負担を考えているのに対して,日医案では,「一般」は保険原理(保険料と自己負担のみ)で,「後期高齢者」は保障原理で進める考え方を示した.

竹嶋副会長・中川常任理事/後期高齢者医療制度は保障原理で(図)

 一方,終末期の診療報酬体系については,急性期と慢性期の急性増悪は出来高払い,慢性期については,出来高と包括化の選択性で行くべきであるとした.ただし,包括化の場合も,技術報酬系,薬・材料報酬系,在院報酬系をまたぐ包括化は行わない,とした.また,今日,在宅医療が困難な七十五歳以上の世帯が急速に増えている現状を紹介し,居宅環境が整備されない状況での,療養病床の急激な削減策に警鐘を鳴らした.
 さらに,終末期医療の基本的理念については,(1)本人と家族の意思の尊重(2)医療提供者の倫理に基づく最善の医療を逸脱しない.そのうえで,(3)多様な看取りの形を提供していきたい,とした.

竹嶋副会長・中川常任理事/後期高齢者医療制度は保障原理で(図)

 最後に,同常任理事は,今日,急速に広がっている格差問題にも言及.地域別保険料や特例診療報酬の導入は,かえって地域間格差を拡大する危険性が高く,また,高齢者の収入は,現役時代の稼得能力を反映するため,一部負担の増加は,受診抑制が発生するなど,健康における個人間格差が拡大する可能性が高いことなどから,その是正策として,国庫負担を中心に公費負担割合を引き上げることの必要性を強調.そのうえで,保険料の設定は,より慎重であるべきだと,述べた.
 なお,今回発表した「後期高齢者医療制度に対する日医の考え方」については,二月二十二日の自由民主党社会保障制度調査会医療委員会ならびに,三月八日の公明党の関係団体等からのヒアリングに,竹嶋副会長と中川常任理事が出席し,詳細な説明を行った(資料は,日医ホームページ参照>>こちら).

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