日医ニュース
日医ニュース目次 第1094号(平成19年4月5日)

第116回日本医師会定例代議員会
会長所信表明
日本医師会会長 唐澤 

第116回日本医師会定例代議員会/会長所信表明/日本医師会会長 唐澤 祥人(写真) 本日は公私共にご多忙の中,早朝より先生方にはご出席賜りまして,誠にありがとうございます.
 また,前年度,私ども執行部を担当させていただきましてより,本会会務運営につきまして,多大のご指導,ご支援をいただきまして,厚く御礼を申し上げます.
 過日の能登半島地震により,石川県をはじめ近隣の地域におかれまして,犠牲となられた方に対する心からのご冥福と,多数の負傷者ならびに被災された方々に心よりお見舞い申し上げる次第であります.余震はいまだ続いており,家屋倒壊や道路の亀裂,土砂崩れなどよって,避難された方々には,断水をはじめ,大きな不便,不安のなかに過ごされております.一刻も早い地震の収束と,復興を祈念申し上げます.
 さて,わが国は,地震をはじめ火山噴火など常にさまざまな自然災害の危険にさらされております.さらに地震の活動期にあるといわれる今日,私たちは国民の健康と生命の確保・維持にかかわる者として,全国各地域の地震やその他の災害発生の予知・予測や対策のための最適な体制が整備されるよう強く期待するものであります.
 この一年間,職務を担当させていただくなかで,さまざまに現在の医療をめぐる状況を俯瞰いたし,また各分野の識者の方々のご意見を拝聴させていただきました.それを踏まえて,今年度の会務運営に取り組んでまいりますうえでの,基本的な行動規範といったものを申し述べたいと存じます.
 先に述べましたように,この国土に生活する者としての基本的な取り組み方として,日常生活上,健康確保あるいは生命の安全のために,予測や予見に基づいた危機管理のためのできる限りの方策やその体制を整備する気構えが,常時必要ではないかと考える次第であります.
 また,同様な意味で,戦災も生命の安全に多大のかかわりがあります.わが国は先の大戦の混乱期より六十年以上が経過しました.この間,今日までわが国は世界平和を希求して核武装を否定し,戦禍のない時代を過ごすことができました.
 そのようなわが国の安定した状況にもかかわらず,今も世界各地で国際紛争や武力衝突が繰り返され,各地域紛争によって,幾多の一般市民が戦乱の犠牲になっており,戦禍を避けた多くの難民が困難な生活を強いられております.ことに幼小児の悲惨な状況は目を覆うばかりであります.
 このようななか,多くの国々にとって,この二十一世紀からどのような時代に向かうのか,今日が文明発祥以来,最重要な時期にあるように思えてなりません.
 先進諸国では科学・技術が大きく進歩しました.東京大学 小宮山宏総長先生は地球エネルギーと環境問題を論じられるなかで,科学的知見について,「先端科学は,医療も含め細分化し,いまや科学の全体像が喪失しつつあり,知識が爆発的に膨張するとともに,すべての分野で科学的知見の構造化がますます必要となってきた」とおっしゃっています.すなわち,「全体像を持つ人間の育成が重要であり,そのことを社会が要請し始めている」とのお話から,「知の構造化」,そして「自律分散協調系」を追求する分野の発祥と発展が最重要という学説を披瀝されました.
 私は,わが国土の自然条件と地球規模の国際的現況についてなぞったお話をしてまいりましたが,今後の日本は,世界中どの国も経験したことのない少子化と同時に,超高齢社会に突入します.エネルギー資源,食料資源に乏しく,予期せぬ自然災害が頻発するわが国にとって,どのようにこの状況を切り開いていくか,諸課題が山積するわが国が,今日までの実績を基にして,いかに世界の期待に応えることができるか,真摯に取り組んでいかなければなりません.
 しかし,わが国がすべての課題を解決するための知見は,世界のどの国にも用意されていないのです.
 わが国は,これから世界のだれも経験したことのない,課題山積のなかに突入します.日本は,世界のお手本になるような課題解決先進国になっていくことが求められているのです.科学技術先進国の日本国民は,今,社会保障制度の確保に最大の関心を持ちつつあります.自国の自然風土に培われた日本文化と,未来の地球的課題に初めて挑戦するスタートラインに立ったと認識することが重要です.
 私は,科学が凝縮している医学の使命は,人間の健康・生命を守るという人間の安全保障に貢献することだと考えています.そのためには,医学・医療を専門分野として「構造化」し,本来の使命を達成できるような「新たな医師像」を描くことが必要です.
 自殺者が年間三万人を超え,親子の人間的つながりが希薄化し,個別的,疎外的で個人の利益追求により価値を認めがちな,社会的連帯感や協調行動が薄れつつある社会状況ですが,医療を担当する者として,国民が高齢になってから一層疎外感を深めていくようなことは正していかなければなりません.高齢まで生き長らえることが喜ばれ,そのこと自体が価値あると認められる社会をめざすことに貢献し,注力することが責務であると感じているところであります.
 そうして,私たちは,日本がこのようなさまざまな人間の生存を未来に約束する健康な社会づくりによって,課題を解決していく方向こそが,ひたすら国際紛争や武力衝突を繰り返す方向以上に,最も世界平和に貢献できることを証明できるはずであり,そのことに力を発揮して行くべきであると考えております.
 本日,お手元にお配りした「グランドデザイン二〇〇七」は,課題解決への第一歩であります.
 社会保障制度の行方が大きく論じられる今日,日本医師会は,その中核にある医療提供体制と国民皆保険制度を堅持し,国民の安心を守り,最善の医療を提供したい,その気持ちから「グランドデザイン二〇〇七」を取りまとめました.
 ここでは,国民のニーズを再認識するというところからスタートしました.国民は医療に対して不安を抱き,それは格差社会,そして高齢期の不安につながっています.一九九〇年代の失われた十年に続く二〇〇〇年代の厳しい改革圧力で,国民は未来に希望を抱いていない状況にあります.国民の希望と幸せは,生命と生計の不安が解消されてこそもたらされます.そして,それを支えるのが社会保障であります.現況のような社会保障が財政危機の責任を負うという発想は,ことの順序が違うということを認識する必要があります.
 常に国民と向き合いつつも,国民と同じ方向を向いているわれわれ医師は,医療のみでなく,医療制度のあり方についても最善を尽くす責務があります.希望を持てる未来を実現するために挑戦し続ける気概を「グランドデザイン二〇〇七」に込めました.
 今回のグランドデザインは「総論」として,大きな方向性を示すことに留めています.今夏までに「各論」を策定し,基本的医療政策として発信したいと考えています.この内容につきまして,機会を改めて,じっくりとご意見,ご批判をいただきたいと思います.
 そして,いかなるときもわが国を支えてこられた国の宝である高齢者を,感謝の気持ちで全国民の総力を持って支える理念を具現化し,礼節を持って応える心優しい福祉国家への扉を開きたいと思います.
 本日上程いたしました各議案の詳細につきましては,只今からの説明と,本日全分野にわたりご質問をいただいておりますので,各審議事項に沿って基本的な課題や会務運営の具体的内容に応じ,ご説明申し上げることとさせていただきたく,お願い申し上げます.
 各議案につきまして,慎重にご審議いただき,ご承認賜りますようお願い申し上げますとともに,今後とも役員が全力を持って活動してまいる所存でございますので,よろしくご理解とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.