日医ニュース
日医ニュース目次 第1098号(平成19年6月5日)

視点

求められる医療費財源の確保

 「次回改定で開業医の初診・再診料下げ」との報道が,国民医療を守る全国大会が開催される当日の五月十八日に,日本経済新聞朝刊の一面を飾った.
 勤務医の開業医への逃散を施策の誤りと認めずに,政府は,開業医憎しと,その収益源を見直すという論調で,七月から中医協で引き下げの検討を始めるとの報道である.
 たまりかねた医療界の激烈な抗議に,すぐさま厚労省は副大臣と保険局長が記者会見を行い,本報道に対する厚労省の考え方として,(1)厚労省は開業医の初診・再診料を引き下げる方針を固めたという事実は全くない(2)平成二十年に予定される診療報酬改定の内容は,今後,中医協で検討する(3)厚労省においては,この報道が事実に反する旨を,全国の社会保険事務局,都道府県主管課および地方厚生局に対し,周知徹底を図っている(4)日経新聞社に対しては,この報道が事実に反する旨,厳重に抗議を行った―という四点を緊急発表した.
 報道では,年代別の医師の平均従業時間のグラフが示され,病院勤務が診療所勤務より長く,診療報酬でも診療所が優遇されていると主張する.情けない.地域医療を守る開業医の従業時間は,診察時間のみではない.崩壊寸前の地域医療をさらに突き崩す恐れもあり,誤認も至れりという気持ちになる.
 勤務医が開業医へ転身するのは,過重労働からの解放と理想の医療提供像への夢の実現からであるが,すぐに蜃気楼であったとの認識に苛まれる.なるほど,診療所での従業時間は,病院よりも短いかも知れないが,昼の診療時間の間には,学校医,産業医,災害医療,そして小児健診や予防接種に代表される市区町村保健事業に協力し,また,介護認定審査,夜間急病診療所への出動,地域医師会活動は診療を終えた夜の時間帯に行われる.開業医の地域医療活動は枚挙に暇がない.活動の最中でも携帯が鳴って,患者の不安に応える毎日が待っている.枕を高くして眠ることもできず,過労死の責は自らが負い,自営業としての厳しい現実もある.
 在宅医療に献身して三十年,ご夫人との旅行を一度もせずに黄泉の国へ旅立った開業医もいる.
 医師が増えれば医療費が増える,したがって,医師は増やさない.増やせないという無為無策が今日の状況を生んだ.妥当な医療財源の確保こそが,地域医療の崩壊を阻止することであるのは言うまでもない.

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