日医ニュース
日医ニュース目次 第1099号(平成19年6月20日)

視点

在宅医療

 多くの会員が「在宅医療はできない」と言う.介護する側に立った視点,医師である立場からも「無理」と言う.そこで,医療を受ける一人の人間の立場に立ち,「九十歳になり,安らかな最期を迎える自分,本人の立場では」といった視点から医療のあり方を見直してみたい.
 以前は「在宅医療」しか選択できなかった.入院するお金がない,入院したくても病院が少なかった時代もあった.次第に「なぜ入院させないのだ」と世間から批判されるようになっていった.「命は地球より重し」をスローガンとして,医療技術,延命治療が進歩していった.病院医療が普及し,病院医療中心の地域医療となってしまった.訪問診療はなくなり,時間外診療もなくなり,そのような業務は病院に移行していった.病院で亡くなる率が九割となってしまった.
 今,高齢者で「胃ろう」の造設患者が急速に増えている.予後予測に基づく適応について,不開始の選択についても考え,議論する時期がきた.「食べられなくなったら,どうするか」に対応して,点滴,高カロリー輸液,経鼻経管栄養等の処置が行われ,「スパゲッティー現象」「抑制」といった本末転倒とも呼ぶべき医療現場が,老人医療において創出されてきた.地域医療,急性期医療の担当者,また多くの国民には見えていない,見ようとしない現実,眼を覆いたくなる実態がある.地域医療や急性期医療を担う医師も,自分の問題として,医療人として,また高齢化していく国民も,この現実を直視すべきではなかろうか.
 高齢者医療に共通する重要なことは,障害や病理だけに着目するのではなく,人間と向き合い,生き物としての生理,残存能力,潜在能力,自然治癒力と向き合うことが大切なのではないか.医療の科学の分野には限界がある.しかし,医療における人文学への対応には限界はない.尊厳,安心を創造していく医療の行きつく先に「在宅医療」が見えてくる.「在宅医療であるべき」論は危険である.しかし,選択肢の一つとして「在宅医療」を保障することは,医療人の使命である.
 会員の方々には,「われわれの仲間で,こつこつと在宅医療に取り組んでおられる医師がいる」ということを知っていただきたい.新たなシステムを構築し,支援していきたいものである.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.