日医ニュース
日医ニュース目次 第1103号(平成19年8月20日)

第3回男女共同参画フォーラム
医師としての社会的使命が果たせる環境整備を

 第三回男女共同参画フォーラムが,「医師の勤務環境の改善を目指して」をメインテーマに,七月二十八日,神奈川県総合医療会館で開催された.参加者は二百十九名であった.

第3回男女共同参画フォーラム/医師としての社会的使命が果たせる環境整備を(写真) 冒頭,あいさつした唐澤人会長は,「政府の第二次男女共同参画基本計画では,『男女の性差に応じた的確な医療の推進』が重点事項として掲げられている.女性医師に対する期待と,担うべき役割がますます大きくなる一方で,出産・育児等を契機に,離職を余儀なくされる女性医師が依然として多く見られる.女性医師が,医師としての誇りを持ちながら,その社会的使命を果たしていくための環境を整備することは,医師不足や勤務医の過重労働等,医療の質・安全の面でも看過できない状態にあることからも重要である.日医としても,女性医師の勤務支援に積極的に取り組んでいきたい」と述べた.
 大久保吉修神奈川県医師会長のあいさつにつづいて,保坂シゲリ日医医師再就業支援事業部長が支援事業(厚生労働省からの委託)について報告した.
 日医では,女性医師としてのキャリアの継続を可能にすることが重要であるとの視点から,(一)女性医師バンクの創設・運営,(二)長期離職医師の再研修の支援,(三)女性医師の勤務環境の整備についての啓発活動─の三つを柱に事業を行っていることを説明.女性医師バンクについては,「本年一月三十日に正式に発足してから約六カ月になるが,登録数は順調に伸び,就業決定数も増加している」と報告.さらに,求職者全体および決定者の傾向,六カ月間の運用のなかで見えてきた諸課題についても解説した(詳細は,別記事参照).
 また,長期離職医師の再研修に関しては,全国各地で受け入れ体制は整えられつつあるが,現実には,場所や離職期間,研修可能な時間など,個々の事情があるので,オーダーメイドの研修が必要であると発言.最後に就業決定者から届いた感謝のメール(本人の承諾済み)を紹介した.
 次に,男女共同参画委員会の中川やよい副委員長,櫻井えつ,小笠原真澄両委員が活動報告を行った.
 「病院長,病院団体および日本医療機能評価機構への働きかけ」としては,「女性医師の勤務環境の整備に関する病院長,病院開設者・管理者等への講習会」用モデルスライドを作成し,各都道府県医師会に同講習会の共同開催を依頼.平成十八年度は全国二十二府県医師会で同講習会を開催した(今年度は,全都道府県医師会で開催予定).
 また,同委員会からの要請により,唐澤会長名で,日本医療機能評価機構に対し,(一)ゆとりのある勤務体制,(二)子育てしながら勤務できる支援体制,(三)休業後の再就業を支援する体制─の三点を「評価項目」に加えるよう求めた要望文書を送付したところ,検討するとの約束が得られたと説明した.
 このほか,昨年度は,モデル事業として,「女子医学生,研修医等をサポートするための会」が,全国十カ所で開催されたことなどを紹介.
 さらに,保育について,現在あるシステムや利用できるサービスを有効に組み合わせ,女性医師の勤務形態を理解し,そのうえで各種制度の利用や手続きに関する情報を提供できるような「育児システム相談員(仮称)」の養成を,医師会が中心となって推進することを提案した.

ラウンドテーブルディスカッション

 ラウンドテーブルディスカッションでは,「女性医師の勤務支援を巡って」をテーマに,三名の演者が講演を行った.
 松谷有希雄厚労省医政局長は,「今後の女性医師の活躍を展望する」と題して講演し,医師数は毎年増加しているものの,特定の地域や診療科等で医師の確保が困難になっていることや,総医師数に占める女性の比率が上昇している状況を説明.平成十六年末で一六・五%であり,現在,二十代の医師の約三分の一,二十代の小児科医の約半数,産婦人科医の約三分の二が女性であることを考えると,女性医師の働きやすい職場環境の整備は重要な課題であるとした.
 また,医師不足問題の背景にあるものとして,(1)大学医学部(いわゆる医局)の医師派遣機能の低下(2)病院勤務医の過重労働(3)女性医師の増加(4)医療にかかる紛争の増加に対する懸念─の四つを挙げた.特に,(3)への対応としては,「女性医師バンク」を設立し日医に委託したことや,離職医師の再就業支援および院内保育所の充実に取り組んでいることに言及.そのうえで,「子どもを育てながら働ける労働環境をどう整備していくのか.時間のフレキシブルな対応,その他いろいろな施策があるが,これらを病院の勤務体系の改革として考えていくことが一つの課題である」と結んだ.
 大谷泰夫厚労省雇用均等・児童家庭局長は,「法で定める産休,育休と望まれる育児支援」について,「わが国の女性の就業状況は,出産・育児を機に離職するケースが依然として多く,第一子出産を機に約七割が離職している.また,女性の育児休業取得率は増加しているものの,まだ少ない」としたうえで,政府が行っている“仕事と家庭の両立支援対策”の概要を解説.産前・産後休業や育児休業,延長保育や休日保育などの多様な保育サービスの整備といった両立支援施策を推進しているとした.
 さらに,少子化対策として,「『子どもと家庭を応援する日本』重点戦略」の策定に向けた作業を進めていることを紹介.“ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)”の実現が政府の最優先課題であり,医療現場においても,女性医師を始めとして,優秀な人材の確保・定着のために,医療界全体の理解と積極的な取り組みが期待されると述べた.
 板東久美子内閣府男女共同参画局長は,「政策・方針決定過程への女性の参画の拡大」について,「わが国の男女共同参画の実態はまだ不十分であり,非正規雇用の増大と収入格差なども女性において顕著である.また,国際的に見ても,わが国は女性の能力が高い割に,政治経済活動でその能力を発揮する機会が十分でない.こうしたことから,政府は,第二次男女共同参画基本計画のなかで,“二〇二〇年までにあらゆる分野で指導的地位に占める女性の割合を,少なくとも三〇%に”という数値目標を掲げている」と述べた.
 さらに,“女性医師が活躍できる環境づくり”は,今や医療にとって切実な問題であり,すべての医師,医療関係者を視野に入れた働き方の見直しや環境・体制整備を進めなくてはならないとした.
 その後の討論では,保坂座長が松谷局長に,離職している女性医師についての全国調査を,厚労省で実施するよう要望した.
 フロアを交えた総合討論では,参加者が現実に抱えている問題などについて,活発な質疑応答が行われた.そのなかで,「女性医師の長期離職に関する実態調査」を,日本で初めて東京医大,川崎医大の二大学で実施する予定であることが紹介された.
 その後,池田俊彦男女共同参画委員会副委員長から,「第三回男女共同参画フォーラム宣言」(別掲)の提案があり,満場一致でこれを了承した.
 最後に,羽生田俊常任理事のあいさつで閉会となった. 

宣 言

 女性医師のキャリアアップを困難にし,その社会的使命を果たすことを阻む全ての要因を除去し,女性医師が,単に育児と仕事を両立させ得るに止まらず,質・量共に,自信と誇りをもって,輝きながら,医師としての使命を達成し得るよう,社会的基盤の整備と施策の実践が極めて重要であり,喫緊の課題であることを,このフォーラムに参集した皆の総意により,ここに宣言する.

平成19年7月28日
日本医師会第3回男女共同参画フォーラム

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