日医ニュース
日医ニュース目次 第1103号(平成19年8月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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日本人を対象とした大規模介入 臨床試験のエビデンス発表
〈日本高血圧学会〉

 高血圧症は,日本人三千五百万人以上が罹患する生活習慣病中最多の疾患である.降圧薬治療による心血管系疾患の抑制効果が証明されているが,日本人でのエビデンスは少ない.薬物への反応性には人種差があり,また,日本人では西欧人に比べ脳卒中が多く,心筋梗塞が少ないという特徴があるので,日本人対象の試験が必要である.
 昨年,「高血圧制圧のための世界的戦略 福岡宣言(URL http://www.congre.co.jp/ish2006/参照)」を行った第二十一回国際高血圧学会で,会場から溢れるほどの注目を集めるなか,わが国における降圧薬の無作為化大規模介入臨床試験結果が発表された.(一)CASE-J,(二)JATOS,(三)JIKEI HEART Study─などである.
 CASE-Jは,ハイリスク高血圧患者(年齢平均六十四歳)四千七百二十八人を対象にARB(カンデサルタン)とCa拮抗薬(アムロジピン)の効果を直接比較した.両群とも134/76mmHgと良好に降圧された結果,一次エンドポイント(心血管系疾患の発症率)に差を認めなかった.
 一方,サブ解析の結果,ARBはCa拮抗薬に比べ,(1)腎機能低下例において腎機能の悪化を抑制し,(2)肥満患者の死亡率を抑制し,(3)心肥大退縮効果に優れ,(4)糖尿病の発症を抑制した.
 JATOSは,高齢者高血圧症の降圧目標値を明らかにするために行われた.年齢平均七十四歳,血圧平均172/89mmHgの四千四百十八人を対象に,Ca拮抗薬(エホニジピン)を基礎薬とした二年間の治療効果をSBP<140mmHg群(136/75mmHg)と140─159mmHg群(146/78mmHg)の二群で比較した.その結果,第一次評価項目の脳心血管疾患および腎機能障害の発症率とそれによる死亡率には,両群間で差を認めなかった.試験期間が二年間と短かったことが結果に影響した可能性は否定し得ない.
 イベント発症に対する背景因子をロジスティック回帰分析すると,約10mmHgの降圧差よりも,脳心血管障害や腎障害,心疾患といった他の合併症,年齢,性がイベント発症に強く関与することが明らかとなった.さらに140/90mmHg未満までの降圧の安全性が確認された.
 JIKEI HEART Studyは,高血圧,冠動脈疾患,心不全,またはこれらの合併のため,従来の降圧治療を実施中の患者(年齢平均六十五歳)三千八十一例を対象にARB(バルサルタン)追加群とARB以外の降圧薬追加群とで比較した.平均追跡三・一年後に一次エンドポイント(特に脳卒中,狭心症,心不全)の発症が,非ARB群と比較し,ARB群で有意に少なかった.血圧は両群とも132/77mmHgまで低下していたことから,上記の有意差は血圧値以外の因子によるものと考えられた.
 以上の試験によって,(1)心血管疾患発症抑制のための降圧そのものの重要性(2)合併疾患による使用降圧薬の使い分け(3)高齢者での降圧および合併症等の包括的な管理の重要性―などが示唆された.今後,日本人を対象としたエビデンスのさらなる蓄積が期待される.

【参考】
一,Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan.
二,The Japanese Trial to Assess Optimal Systolic Blood Pressure in Elderly Hypertensive Patients.
三,Japanese Investigation of Kinetic Evaluation In Hypertensive Event And Remodeling Treatment Study (Lancet 2007; 369: 1431-1439).

(日本高血圧学会理事・横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学教授 梅村 敏)

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