日医ニュース
日医ニュース目次 第1105号(平成19年9月20日)

『グランドデザイン2007―国民が安心できる最善の医療を目指して―各論』を発表

 日本医師会は,『グランドデザイン二〇〇七―国民が安心できる最善の医療を目指して―各論』(以下『各論』)をまとめ,八月二十九日の記者会見で発表した(全文は,日医ホームページに掲載).

『グランドデザイン2007―国民が安心できる最善の医療を目指して―各論』を発表(写真)

 今回の『各論』は,四月に公表された『グランドデザイン二〇〇七―国民が安心できる最善の医療を目指して―総論』が,高齢社会における公的医療保険制度や医療提供体制のあるべき姿などに関する考え方を示したものであったことを踏まえて,より具体的な内容となっている.
 唐澤人会長は,会見のなかで,国民の健康と生命を守る医療は,平時における最も大切な安全保障であり,その理念を体し,国民医療を守る医療政策を策定し,各分野に説明する責任を果たしていくことが日医の役割と使命であるとの考えを示した.そのうえで,各地域の医療が,現在の医療レベルに準拠し,安定的で,安心・安全な心温まる医療が,納得できる価格で国民に提供されることが国民医療であり,それは,地域の医療提供体制と国民皆保険制度を守ることによって確保されるとした.
 一方,医療の現況は,地域により格差が広がり,小児・救急・産科医療などが崩壊しつつあり,周産期医療,高齢者医療などが大きな課題となっていると指摘.そのため,『各論』では,医療崩壊の危機を重く受け止め,個々の課題について,特に「地域」「高齢者」「患者・家族」といった切り口から検討を進めたと説明した.
 その一例として,「終末期医療のガイドライン」を挙げ,「看取り」の問題をめぐっては,医師や家族等にその判断がゆだねられ,医療提供者が混乱し,患者・家族等を精神的に追い詰めることもあるため,医療現場で,終末期の安らかな看取りを実現すべく,この問題に踏み込んで議論したことを明らかにした.
 唐澤会長は,「日医は,医療提供者として,“国民が安心できる医療とは何か”を考えてきた.『グランドデザイン』の総論・各論を通じて,国民各層の方々からご意見,ご批判をいただければと思う」と述べた.
 つづいて,中川俊男常任理事が,『各論』の概略と「終末期医療のガイドライン」について説明した.
 それによると,『各論』は,「第一章 医療の質向上と安全のために」「第二章 医療提供体制と地域医療連携」「第三章 社会の変化に対応して」の三章で構成.第一章では,(一)医療従事者の偏在と不足,(二)医師の教育・研修,(三)医療の安全性の確保,第二章では,(一)高齢者を支える医療提供体制,(二)地域医療提供体制とその連携,(三)健康および予防医療,第三章では,(一)終末期医療のあり方,(二)危機管理の必要性,(三)医療におけるIT化,(四)医療における財源と税制の課題―など,幅広い項目について述べている.

実践に耐え得る「終末期医療のガイドライン」

 中川常任理事は,「終末期医療のガイドライン」の検討状況について,「八月に公表された,日医第X次生命倫理懇談会の中間答申『終末期医療に関するガイドラインについて』は,総論,理念として位置付けており,パブリックコメントを受けて年度内に最終答申が出される予定である(別記事参照).
 一方で,執行部として,終末期医療の現場で実践に耐え得るガイドラインとして提示したのが,『各論』の第三章の『終末期医療のガイドライン』であり,緊急臨死状態で,通常の判断プロセスを経る時間的余裕がない場合も想定して示したつもりである」と説明した.
 『各論』の「終末期医療のガイドライン」では,「終末期」について,広義の「終末期」(最善の医療を尽くしても病状が進行性に悪化することを食い止められずに死期を迎えると判断される時期.主治医を含む複数の医療関係者が判断し,患者もしくは患者の意見を推定できる家族がそれを理解・納得した時点で始まる)と,狭義の「終末期(臨死状態)」(臨死の状態で,死期が切迫している時期)とに分けて定義.さらに,「終末期に向かうまでの類型」として,(1)慢性疾患から長期療養を経て終末期に至るケース(2)急性期治療後に療養期間を経て終末期を迎えるケース(3)急性期治療中に終末期を迎えるケース―の三つに分類した.
 そのうえで,終末期における治療の継続・変更・縮小・中止に関しては,「死亡までにある程度の時間が見込める場合」「一定の終末期を経て臨死状態に入った場合」「急性期治療中に臨死状態に入った場合」のケース別に,患者本人や家族等の意思の確認・記録といった詳細な説明がなされている.
 なお,延命治療の“中止”に関しては,患者と家族等,双方の同意を必要とし,たとえ,患者の臨死状態前の意思が延命治療の中止であっても,家族等が同意しなければ,基本的には,治療を中止することはできないこと,また,いかなる場合においても,治療の中止以上に死期を早める処置(安楽死など)は実施しないことを明記した.
 ただし,「終末期医療」においては,「延命処置および延命治療の中止」が最も大きな検討課題であるが,PVS(Persistent Vegetative State:遷延性植物状態)は,ガイドラインに示した定義に該当せず,また,ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)患者等の問題をガイドラインの対象とするのは,刑法の諸規定等,法律が未整備なわが国の現状では時期尚早であり,十分な時間をかけて議論すべきであるとした.
 同常任理事は,本ガイドラインが,あくまでも「終末期の安らぎ」のためのものであり,決して「医療費の適正化(抑制)」のためのものではないことを強調.今後,さらに検討を重ね,「社会通念として,国民的な合意を得られるようなガイドラインにしたい」と述べた.

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