日医ニュース
日医ニュース目次 第1110号(平成19年12月5日)

あるべき医療費の増額要求は国民の安全と安心のため

 日医は,11月7日の記者会見で,財政制度等審議会が示した診療報酬引き下げの方針に反論.さらに9日にも,緊急記者会見を開いて,「いわゆる混合診療に関する東京地裁判決」に対する見解を明らかにした.

あるべき医療費の増額要求は国民の安全と安心のため(写真)財政制度等審議会の方針に反論

 財務省の財政制度等審議会(財政審)は,十一月五日,社会保障をテーマに議論を行い,診療報酬の引き下げを求めることで合意.日医が求める五・七%の診療報酬本体の引き上げ要望についても,「約二兆円の国民負担増となり,不適当」とした.
 これに対して,中川俊男常任理事は,七日,「今の医療現場の疲弊した状況の根本的な要因は,長期の医療費抑制策にあるにもかかわらず,あるべき医療費の増額要求を,国民負担増と表現するのはいかがなものか」と批判,引き下げの方針に対する反論を行った.
 同常任理事は,(一)度重なる診療報酬のマイナス改定により,診療報酬全体では一九九八年度に比べて六・五ポイント低下.二〇〇三年以降では経済の伸びを下回り,二〇〇六年度の名目GDP(国内総生産)との差は七・九ポイントに拡大していること,(二)小泉改革以降に着目すると,診療報酬本体だけ見ても,二〇〇七年は消費者物価指数,実質賃金を下回っていること─など,診療報酬が低く抑えられている現状を説明した.
 そのうえで,財政審が「診療報酬が賃金・物価と三・六%乖離しており,この乖離を解消することが先決」としていることについては,「小泉政権下から今までの厳しい医療費抑制の間,診療報酬の伸びは,財政審の示す人事院勧告ではなく,実質賃金で見た場合,実質賃金・物価を一・〇%下回るものになっている(図).仮に人事院勧告と比較するとしても,長期的に見れば,診療報酬本体は均衡している」と反論.また,賃金上昇率,物価上昇率とも年〇・五%を前提とした日医の診療報酬改定要望について「高すぎる」としていることに関しても,この前提は現状を認識し,国の見込みも踏まえたものであると説明.国の見込みは,医療費給付や年金給付費の試算にも使われており,この見込みに問題があるのであれば,財政審はその点を正すべきだと主張した.
 また,医業経営の実態について,財政審は,中医協「医療経済実態調査」の結果を基に,一般病院の収支差額比率が「医療法人では改善」などと述べている.これに関しても,中医協「医療経済実態調査」は,変化の把握に適さない点があるため,日医が,「TKC医業経営指標」を用いて分析した結果,(一)病院・診療所,法人・個人のいずれにおいても,前年比で減収・減益になっていること,(二)経営の安定性を示す損益分岐点比率は民間医療機関で約九五%となり,危険水域に突入していること─などが明らかになっていると反論した.
 財政審は,また,医師の所得に関して,中医協「医療経済実態調査」に基づき,開業医(法人等)は病院勤務医の一・八倍,開業医(個人)は病院勤務医の二・〇倍というデータを示している.この点についても同常任理事は,(一)勤務医師と診療所開設者は,平均年齢で約十八歳の差があること,(二)特に民間の診療所開設者は,事業者としての経営責任をはじめとする,さまざまなリスクを抱えていること,(三)事業主と給与所得者との比較は,両者の税引後の手取り年収を試算しなければ,不可能であること─等を示し,その比較は不相当であると指摘.この件については,日医が実施した「診療所開設者の年収に関する調査結果」を改めて説明し,診療所開設者の年収は必ずしも高いものではなく,むしろ病院勤務医の収入が低いことに問題があると指摘した.
 最後に同常任理事は,度重なる医療費の抑制によって医療現場は疲弊しており,これ以上の抑制は医療の崩壊を招くと主張.財政審が不適当とする五・七%という数字についても,医療を取り巻く環境の悪化や,国民が経済力に見合った医療を受ける権利があること等を踏まえれば,不当な数字ではないとし,今後は,地域医療の崩壊を防ぎ,国民医療を守るためにも,関係各方面に対して,日医の要望に対する理解を求めていくとの考えを示した.

混合診療の解禁には一貫して反対

 十一月九日には,鈴木満・中川俊男両常任理事の出席のもと(写真),厚生労働省内で緊急記者会見を行い,十一月七日に出された「いわゆる混合診療に係る東京地裁判決」に対する日医の見解を発表した.
 中川常任理事は,「今回の裁判は,保険給付であるインターフェロン療法と,保険外である活性化自己リンパ球移入療法を併用した原告が,インターフェロン療法について,療養の給付を受ける権利を有することの確認を求めたものであった.民事訴訟では,特定の給付を命ずる判決を求める訴えである給付訴訟が一般的だが,本件は“確認訴訟”である点で,まれなケースだ」と断ったうえで,今回の判決については,「混合診療の解禁を容認したものではなく,あくまでも法解釈をめぐるもので,判決が示すように,法解釈の問題と,差額徴収制度による弊害への対応や,混合診療全体のあり方等とは,次元の異なる問題であることは言うまでもない」と指摘した.
 また,同常任理事は,今回の判決は,平成元年二月の東京地裁の歯科における不当利得返還請求事件における判決,「治療行為のすべてが,療養の給付の対象外となる」に反するものだが,混合診療の法的根拠があいまいな点については,日医としても問題があると認識していることを明示.国(厚労省)に対しては,混合診療を禁止する根拠が,現在は“保険医療機関及び保険医療療養担当規則”とされているが,まずは,国民に対して分かりやすく“混合診療の定義”を示したうえで,立法的手当てを行うよう求めた.
 さらに,同常任理事は,混合診療の解禁について,医療給付上の格差を拡大するものであり,日医は一貫して反対していると強調.そのうえで,日医の基本的見解として,(一)保険外診療は,事前に有効性・安全性が認められていないため保険外となっており,これを保険と併用することは,問題が発生した場合,患者に不利益をもたらすだけでなく,公的保険の信頼性も損なわれる,(二)混合診療が解禁され,新たな医療技術は自己負担でという流れができると,新たな技術が保険適用されるインセンティブが働きにくくなり,公的保険給付の範囲が縮小される危険性がある,(三)混合診療が解禁された場合の負担は,「保険診療の一部負担+保険外診療の自己負担」となる.しかし,すべての国民に保険外診療の自己負担が可能なわけではなく,仮に保険給付範囲が狭まり,保険外のものが出てくる事態となれば,所得の低い国民にとっては大きな負担となる─との考えを改めて説明した.
 なお,今回の裁判で問題となった活性化自己リンパ球移入療法は,現在,臨床現場で積極的に採用されておらず,このような有効性・安全性が必ずしも確認されていない治療法が拡大されると,かえって,国民・患者の健康が阻害される恐れがあると,その問題点への注意をも促した.

あるべき医療費の増額要求は国民の安全と安心のため(図)

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