日医ニュース
日医ニュース目次 第1113号(平成20年1月20日)

勤務医のページ

座談会(最終回)
「地域医療の崩壊と勤務医」をテーマに

勤務医のページ/座談会(最終回)/「地域医療の崩壊と勤務医」をテーマに(写真)医師の資質向上

 池田 医師の質をどう上げるか,どう確保するか,ということについてはどうでしょうか.
 片桐 医学部からの教育という話も当然ありますが,医師になった時,質をどのように担保するのかと考えると,何らかの基準が必要になると思います.そのようなシステムを組み上げていくためには,場当たり的な対策ではなく,時間とお金を掛けてしっかりと準備してやらなければ,結局,その質が本当に担保されるかどうか,疑問が残ってしまいます.
 良い医療をやっていく,あるいはその医師を育てるのも,時間とお金がどうしてもいるのだと,それに尽きると思います.
 大橋 沖縄県立中部病院(※)の医師や,中部病院出身の医師とも一緒に働いたことがあるのですが,彼らは大学病院の研究畑を卒業した医師と違って,とにかく救急などの実践に強いのです.即戦力になって,専門医を取った時は,一人でかなりハイリスクの患者さんまで診られるようになっています.彼らの臨床レベルはとても高いのです.一方,大学病院にばかり人を集めて研究はできるようになって,論文は書けるようになっても,即戦力としてはどうなのかと,自分の反省も込めて思っています.これだけ医師不足も叫ばれていますし,救急医療などに対応できる医師をトレーニングするべきかと思います.
 小池 今,こんなふうに医師を育てたいという思いで,いろいろなシステムをつくっていただいているのですが,とても空回りしているなという実感があります.
 今日,勤務医がどうして頑張っているかというと,仕事が好きで,やりたいからだと思います.スーパーローテイトでは,一カ月,二カ月の限られた期間で,いろいろな診療科・現場に自分の時間を切り離されて,根がつくれない二年間を過ごすことになります.それは不安定で苦しく,さらには根がないので,非常勤として働くことも気楽にできる時代になってきたのだと思います.医師の質を高める研修で重要なのは,それぞれの若手医師のやりたいことに合わせて根をつくらせることだと思います.
 大橋 私の病院の初期研修医に聞いてみると,自分の進もうと思っていない科においても二年間でローテイトすることは,他科のシステムも分かるので,いいのではないかという意見があります.私の場合,そのまま出身大学の医局に入ったのですが,その後,自分の希望で別の病院に研修に行ったり,アメリカでも臨床をしたり,いくつかを転々としました.その方がほかの施設でのやり方も見ることができますし,何か問題が発生した時に,以前一緒に働いていた先輩や,そこで知り合いになった先生に,電話やメールで連絡を取りながらアドバイスをもらうこともできます.そういうネットワークができたことは,自分のプラスになっているところで,一カ所だけに縛り付けられないメリットだと思います.
 岡村 臨床も研究も重要だと思いますが,臨床はある時期に徹底的に勉強するべきだと思います.それでは,どこで勉強できるかというと,地方の中核病院だと思います.私の病院にくる研修医は,一年でかなりできるようになって帰っていきます.教育機関という意味でも,地域医療を担うという意味でも,中核病院はなくてはならない,絶対につぶしてはならない病院だと思います.

医師会に期待すること

 池田 医師会に何を期待するのか,あるいは,自分は医師会にどうかかわり合いたいかというお話をしていただきたいと思います.
 高橋 医師の置かれている現実を,国民があまりにも知らなさ過ぎると思います.医療の現状の広報活動に,もう少し力を入れてもいいのではないでしょうか.
 小池 医師が医師として働くためには,報酬は少なくても,やりがいという報いが必要だと強く思います.医師はこういうプロフェッショナリズム・理想を持って,こういったことをするからここまでは必要なのだと,国民に迎合しないで,強く訴えていただきたいなと思います.
 大橋 ポリティカルな部分で,行政と医療現場との認識が掛け離れていると思うので,行政に対して,もう少し現実を助言してもらえたらと思います.
 片桐 医師会は,行政等に対してものを言える最もまとまった機関なので,主張すべきことを強く主張していただきたいし,国民に何と言われようと,悪役にならなくてはならない時があると思います.
 また,緊急臨時的医師派遣システムのように,夏の参議院選挙対策で出された思いつきの政策等に名を成さしめることがないよう,地域の声にも耳を傾けながら,取り組みを進めて欲しいと思います.
 高橋 OECDの各国の医療費など,日本は国民負担がこれぐらいあって諸外国はこれぐらいであるとか,データを何回も出すようにして,これだけの費用が必要だということを,国民にも行政にも訴えていかなければならないと思います.諸外国と同様の医療を行うには,これくらいの費用が必要だということを訴えないと,「また医師会は医師の利益を主張している」というような反感を持つ人々も出てくるかも知れません.パチンコ業界の年商が約三十兆円.医療費も約三十兆円です.ですから,パチンコも大切かも知れませんが,医療も大切ですということを国民に理解していただいたらいかがでしょうか.とにかく,情報公開が非常に大事であると思います.
 池田 医療費の問題にせよ,医療の現況を改善していくためには,政治の場でそれらのことが反映されなければならないので,その辺のことにも勤務医はもう少し理解を持って参加して欲しいと思います.
 岡村 新医師臨床研修制度が始まって,厚生労働省が人事権を握っているかというと,そうではない.医局にも,医局員の減少に伴い人事権がなくなってきている.医師会の出番だと思います.
 また,どんな地方でも同じレベルで医療を受けられるという構想,日本の国民皆保険制度もすばらしいと思います.その制度を堅持するために,皆,努力をしているのだと思うのですが,個人の努力だけでは限界だと思います.病院が利益だけを追求していると,どうしてもわれわれ医師は搾取されます.ですから,病院に対しては,利益を追求しなくていいのだという,そのような制度ができるといいと思っています.
 鈴木 本日は,現場の貴重なご意見をありがとうございました.絶対的な医師不足というところで,さまざまな問題が噴出したという感じですね.去年の六月辺りから,ご指摘のありました地域医療の崩壊等に関するマスコミの論調も変わってきています.実際に地域を心配して,このままでは医療がだめになるという,本音を取り上げてもらえるようになりました.これらの声を国民の合意形成として政治に反映させていきながら,また,その先にある医療の質の担保につなげていくように努力したいと思っています.
 池田 ありがとうございました.

(終)

 ※戦後,沖縄の医師不足のなかで設立.昭和四十二年から県の補助により,ハワイ大学医学部と提携.二十四時間救命救急体制の臨床重視のプログラムが有名.

勤務医座談会 出席者
池田 俊彦【司会】(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
大橋 容子(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター)
岡村 麻子(日立総合病院)
片桐 修一(大阪市立豊中病院副院長)
小池  宙(東京医科歯科大学附属病院臨床研修医)
高橋 弘明(岩手県立中央病院神経内科長兼地域医療支援部次長)
鈴木  満(日医常任理事)

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