日医ニュース
日医ニュース目次 第1114号(平成20年2月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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透析患者の心血管障害に関する話題
〈日本透析医学会〉

 わが国の透析患者数は,二十六万人を超え,五百人に一人の割合である1).治療成績は諸外国に比し良好であるが,粗死亡率は年間一〇%弱で,一般住民に比し不良である.死亡原因の半数を心血管合併症が占める.透析患者では,糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの古典的危険因子に加えて,体液量過剰,貧血,カルシウム・リン・ビタミンD代謝異常,交感神経過緊張などの非古典的危険因子を多く伴っている.長期透析患者では動脈硬化が著明で,透析アミロイドーシス,血管石灰化などの特徴的な合併症も生じる.
 最近,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)という概念が提唱され,世界的に末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)に対する関心が高まっている.ESRDは,患者個人,家族にとって重大な生活の質の低下をもたらすばかりでなく,社会・経済的負担が大きい.発展途上国においては透析療法が未発達であり,ESRDは死を意味する.ESRDの原因となり得る肥満,メタボリック症候群,糖尿病が増加しており,二〇一〇年のわが国の透析患者数は三十万(全世界では二百十万)人にのぼると予想される.
 CKDはESRDの原因であるばかりでなく,それ以上に心血管障害(脳卒中,心筋梗塞)の発症危険因子でもあり,急性心筋梗塞発症者の約三分の一がCKDである2).CKDステージが一から五へと進行,すなわち糸球体ろ過量(glomerular filtration rate:GFR)が低下するほど,入院率,死亡率,心血管障害の発症率が高まることが証明されている.CKDでは古典的危険因子以外に,GFRの低下に伴い非古典的危険因子の関与が大きくなる.最近,CKD患者を対象に貧血,脂質代謝障害の治療効果について注目すべき前向き研究が報告された.
 CKDに合併する貧血(腎性貧血)は造血ホルモンであるエリスロポエチン(最近ではerythropoiesis stimulating agent:ESAと称する)投与により,輸血の必要性が激減し,目標ヘモグロビン値へ比較的容易に到達可能である.しかし,CKD患者では(透析患者および非透析患者とも),ESA投与によりヘモグロビンを高めに維持しても生命(腎)予後の改善が証明されない3).患者の年齢,合併症の有無にもよるが,目標ヘモグロビン値は12g/dLまでとされている.2型糖尿病による透析患者を対象にスタチン系薬物でLDLコレステロールを低下させても生命予後改善効果が認められない.これらの研究結果は,CKDの早期発見,治療の重要性を示唆していると考えられる.

【参考文献】
一,図説:わが国の慢性透析療法の現況(二〇〇五年十二月三十一日現在).日本透析医学会統計調査委員会,二〇〇六年(東京).
二,Sarnak MJ, Levy AS, et al: Circulation 2003; 108: 2154-2169.
三,Singh AK, Szczech L, et al: N Engl J Med 2006; 355: 2085-2098.

(日本透析医学会評議員・統計調査委員会副委員長・琉球大学医学部附属病院血液浄化療法部准教授 井関邦敏)

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