日医ニュース
日医ニュース目次 第1117号(平成20年3月20日)

特定健診・特定保健指導(11)
現時点での総括と今後の展望

 四月の制度開始までいよいよ一カ月を切った.実施に向けた取り組みの遅れは多々あり,課題も山積している.そこで,現時点での総括と今後の展望についてまとめてみた.
 今回の特定健診・特定保健指導の背景は,超高齢化社会の進展に伴う医療費増加に歯止めを掛けることが最大の目的である.以前から健康増進計画や健康日本21などによる取り組みが進められてきたが,ほとんど成果がなく,財務省筋から抜本的見直しを強く求められたと推測される.生活習慣病,とりわけメタボリックシンドロームにターゲットを絞り,健診受診率の向上と的確な保健指導の提供で発症の予防と重症化を防ぐことは,国民にも保険者にも,また私たち医療提供者にとっても望ましいあり方と考える.しかし,現状は行政,保険者,健診・保健指導実施者などの関係者が多数存在し,それぞれの思惑が錯そうするなかでの混乱が続いている.
 今回の実施に向けた取り組みは,世界のなかでも急速に高齢化が進展するわが国で,その具体的な対策としての壮大なモデルケースであり,世界の注目を浴びるところであろう.しかしながら,そもそもの制度設計に多くの問題がある.第一に,メタボリックシンドロームのみに注目が集まり,これによって,その他の疾患,特にがんへの取り組みが後退することが懸念される.また,健診受診率の向上は有病者の掘り起こしにつながり,一時的には医療費が増加すると思われる.同時に適切な医療に結び付けるだけの医療経済も含めた基盤整備が遅れている.第二に,保険者に制度として義務化することによる問題がある.すなわち,経済効率が最優先されること,データ管理が集中することによる保険者機能の強化等,保険者主導による運営が医療現場に及ぼす影響が挙げられる.第三に,民間事業者の参入があるが,この点は介護保険における閉鎖空間での社会的弱者を対象としたサービス提供とは基本的に異なっており,適切な監視体制を設ければ,さほど大きな問題にはならないと考えている.
 いずれにしても,的確な健診の実施と効果を上げる保健指導には,現場の医師のかかわりが最も重要であることは言うまでもない.受診者との信頼関係を築き,日常的,継続的な健康管理の提供には,いわゆるかかりつけの医師が最適であり,生涯保健事業としての取り組みを全国的に担保することは,医師会以外にはできない.しかし,すべてを医師が担うことが困難であることも自明であり,多職種との連携と協働が必須である.保険者との間にも信頼関係を築き,より良い成果を上げることが望まれる.いずれにしろ四月からの特定健診実施は,きわめて困難な状況にあるが,今後は特定健診・特定保健指導に取り組むなかで,課題を解決していくことが必要と考えている.

(常任理事・内田健夫)

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