日医ニュース
日医ニュース目次 第1117号(平成20年3月20日)

平成19年度母子保健講習会
「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して─2」をテーマに

平成19年度母子保健講習会/「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して─2」をテーマに(写真) 平成十九年度母子保健講習会が,二月二十四日に,「子ども支援日本医師会宣言の実現を目指して─2」をメーンテーマとして,日医会館大講堂で開催された.当日は,強風による交通機関の乱れによって,プログラムの順番を大幅に変更して行われた.
 今村定臣常任理事の司会で開会.午前の講演「子どもの脳を守る」では,山崎麻美国立病院機構大阪医療センター副院長が,主に「虐待による外傷の増加」と「出生前診断の進歩」について言及.虐待に関しては,「子どもとの距離のとり方が分からないこと」や「三歳児神話」「良い子育てをしようとする意識」が母親を追い詰め,その数を増加させていると指摘.医師には,その手助けをするという重要な役割があると述べた.出生前診断については,そこで得られた情報を両親(特に母親)に正しく伝えることが,その後の良好な母子関係の形成にも役立つとし,その必要性を強調した.
 午後には,まず,「母子の心の健康を求めて」をテーマとしたシンポジウムが行われた.
 吉田敬子九大病院特任准教授は,出産後の母親が育児障害を引き起こす要因には,(1)育児・環境要因(2)母親側に見られる要因(3)子どもへの否定的な感情─があるとし,実際に使用している質問票を示して,その発見方法を解説した.
 有田秀穂東邦大教授は,「キレる」人間が社会問題化する一方,うつ病が蔓延している原因の一つには,IT化の進展による運動不足や二十四時間営業のコンビニなどで昼夜逆転の生活をすることによって,脳のセロトニン神経が弱まったことが考えられると説明.その改善策として,リズム運動と日光浴を推奨した.
 村瀬嘉代子大正大教授は,児童福祉施設等の子どもたちを対象に実施した調査研究結果を報告.現代の児童・生徒の思春期をめぐる病理現象に対しては,生物・心理・社会的な多次元からの援助が求められると述べた.
 門脇厚司筑波学院大学長は,子どもたちが他者に無関心になったり,愛着や信頼性を感じなくなったために,社会力(人と人とのつながり,社会をつくる力)が衰弱化していると指摘.いじめ,不登校,児童虐待といった問題もそのために起きているとして,今後は,ヒトの子が先天的に備えている高度な対人関係能力を最大限に稼動させ,多様な他者(とりわけ大人)との相互行為を重ねていく必要があるとした.
 つづいて,遅れて会館に到着した宝住与一副会長が唐澤人会長のあいさつを代読.同副会長は,子どもたちが心身ともに健やかに育っていくためには,医師,医師会,行政がそれぞれの責任と役割を自覚し,積極的な取り組みを行っていく必要があるとの考えを示すとともに,出席者に対して,「本日得られた知識を地域医療の場で活用して欲しい」と呼び掛けた.
 その後,シンポジストとフロアとの間で活発な質疑応答が行われた.
 最後に「医学・医療の品格」と題して講演した久道茂(財)宮城県対がん協会会長は,医師には経営者として,あるいはチーム医療の中心人物として,リーダーの品格が求められるが,医師不足によって,病院全体にゆとりがなくなり,今ではその品格も失われていると日本の現状を危惧.医療崩壊を防ぐためには,その手立てを品格の面から考えることも,一つの方策なのではないかと指摘した.なお,参加者は三百五十一名.

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