日医ニュース
日医ニュース目次 第1117号(平成20年3月20日)

勤務医のひろば

ノーブレス オブリュージュ

 救急隊が患者搬送を要請しても多くの医療機関が拒否し,患者が死亡するケースが相次いで起きて社会問題になっている.
 私の住む岩手県では,二次・三次救急を受け持つ病院間の距離が八十キロメートル以上も離れているところもあり,受け入れ拒否などとてもできない.当直医師は少なく,専門外であっても対処しなければならない.そこの医師らは地域医療を担っているという使命感で診療している.しかし,地域医療崩壊の大波が打ち寄せ,限界にきている.
 先のガソリン税の論議のなかで,「医師不足の地域から患者を搬送するために道路をつくる必要がある」との答弁があった.賛同したい面も少々あるが,本質をねじ曲げていることは明らかだ.
 次年度は勤務医対策の予算がついたが,われわれの懐に届くほどの効果は期待できない.医療クラークの予算もあるが,すぐに採用できるほどの額ではない─などと悲観,非難ばかりでは,明日の仕事は楽にならない.
 医師の数は,当面増えない.ならば,増えた雑多な仕事を減らし,診療に専念できる環境にし,リフレッシュ休暇を作り出す工夫が必要だ.今いるクラークの活用など,すぐにできそうなことを考えよう.
 また,将来のため,後継者を育てよう.医学生,研修医に疲れた姿を見せ,愚痴,不満ばかり述べ,「こんなことをすると訴えられる」と言うばかりの負の教育では,ついてこない.
 「ノーブレス オブリュージュ」という言葉がある.「地位や身分に相応した重い責任,義務」という意味の仏語だそうだ.地域医療を支えているのは,この精神である.地位も身分もなくても,地道な仕事のなかで,大切なことを教えることはできる.しかし,気高い精神だけでは続かない.陳腐なせりふ,「同情するより金をくれ」か.

(盛岡赤十字病院第一脳神経外科部長 久保直彦)

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