日医ニュース
日医ニュース目次 第1120号(平成20年5月5日)

視点

「後期高齢者医療制度」を国民は本当に受け入れるのか

 平成十八年度の医療制度改革の大きな柱の一つであった「後期高齢者医療制度」が,いよいよ四月からスタートした.
 七十五歳という年齢を境に保険制度が別立てとなるわけである.目的とするところは何か.医療の効率化という美名の下,平成二十二年度に,わが国のプライマリーバランスを黒字化する,若人の経済的負担を軽減するなどの目的のために,姑息な手段として「後期高齢者医療制度」を創設したのであれば,それは大変な間違いと言わざるを得ない.
 後期高齢者の範疇に入られた方々は,確かに複数の疾患を抱えていることが多く,加齢による免疫力の低下のため,いったん病気になると,なかなか治りにくい.また,認知症や廃用症候群(筋肉の萎縮や関節の拘縮),褥瘡などにも罹りやすい特性を有している.したがって,国が言う,「高齢による心身の特性に合わせた医療や介護を提供していく」ことは必要である.しかし,その中身が,後期高齢者の医療費を抑制しようとするものであるならば,決して容認することはできない.
 年明け早々いただいた年賀状のなかに,今年,めでたく喜寿を迎える大先輩の一葉があった.「日本がここまで立ち直ったのは,お年寄りのお陰.手厚く看護せにゃ,と一昔前は言っていたのに,何たる現状(ざま)! そのお年寄りの年金,医療費の抑制に,国は躍起となっている.今年,嬉しくもない喜寿となります.皆さん,こぞってチュー意し,チュー告していきましょう」という,昨今の国の高齢者への施策や社会風潮を慨嘆したものだった.
 第二次世界大戦終結の昭和二十年,日本は至る所で焦土と化し,栄養失調と結核の病で次々と国民が倒れていくなかで,この先輩は,すでに社会の一員として生活苦に耐えながら,ひたすら国の再生のために献身された.このような高齢者の方々の血の滲むような努力によって,戦後わずか二十年にして日本は世界有数の繁栄を誇る国となったわけであり,そのおかげで,私たちは今の豊かな生活を享受できているのである.
 日本人の魂(こころ)のなかでは,ついこの前までは,お年寄りを大切にする心,それがすなわち,人間(ひと)を大切にする心へと繋がっていたのであるが,今,それが失われているように強く感じる.
 老後は,だれもが尊厳をもって,安心で安全な環境のなかで生き,苦しむことなく安らかに死を迎えたいと考えている.そのためには,家族や隣人の支え合い,そして生活のなかに息づいた,地域での医療や介護の“看とり”の仕組みこそが大切だと思う.世界一の高齢社会であるわが国で,国民が高齢者の方々にどう向き合うか,これこそ,品格ある日本たり得る試金石の大きな一つの要素だと考える.世界の注視の真っ只中にあることを忘れてはならない.

(副会長・竹嶋康弘)

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