日医ニュース
日医ニュース目次 第1127号(平成20年8月20日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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がん診断と治療における放射性アイソトープの役割―FDGによるPET,放射免疫療法
〈日本核医学会〉

 微量の放射性アイソトープ(RI)を医学に用いる核医学の技術は,この三十年,研究面のみならず,先端医療に大きく寄与している.一九七〇年代より医療用に開発された短半減期核種,99mTcが普及し,骨転移を見つける骨シンチグラフィや心筋血流シンチによる心筋虚血の評価が外来診療にもなじんでいる.
 さらに近年では,病院内に設置されたサイクロトロンにより超短半減期のポジトロン核種が得られるようになり,放射能を効率的に利用する時代へと進展している.なかでもFDG(18F標識フルオロデオキシグルコース)を用いたPET/CTは,体内で生じているブドウ糖代謝の状況を非侵襲的,かつ迅速に描出する.特に,進行がんの診断と治療法の決定に果たす役割は大きく,世界的に普及している.がんの広がりを観察する全身像と病巣局所の代謝状態を把握するPETの結果が病期診断を変え,治療法の変更に役立つことも多い.また,化学療法が中心となる悪性リンパ腫などでは,各病巣の活性の情報が治療の効果判定に取り入れられつつある.このほか,FDGを用いた脳PETは初期認知障害の鑑別に有用性が高く,治療の選択に利用されるべき検査法と評価されている(文献一).
 一方,放射免疫療法と呼ばれる核医学治療も新たな展開を見せている.治療用の放射性核種で標識した単クローン抗体(抗CD20抗体)を悪性リンパ腫の治療に用いるものである.KollerとMilstein(一九七五年)が細胞融合法を開発して以来,放射免疫療法は“がん”を制覇する究極的治療と考えられた.
 本年一月に認可された治療薬,90Y標識イブリツモマブチウキセタン(商品名,ゼヴァリン)は,CD20が存在する腫瘍細胞を標的とする抗体,リツキサンを90Yで標識した製剤である.がん細胞膜に結合したこの抗体は,90Yのβ線でリンパ腫細胞を破壊していく.悪性リンパ腫の再発例(高用量の化学療法とリツキシマブの併用療法後)を対象とした治験の結果(文献二)においても,90Y標識抗体の治療を加えた群では,加えなかった群に比して完全寛解に至る確率が有意に高く,生存期間が延長することが判明している.
 本邦でも,CD20陽性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫とマントル細胞リンパ腫の再発,または難治例を対象に臨床応用が始まる.90Y標識製剤の単回投与という治療法は薬剤の毒性という面からみても有利であり,外来治療も可能である.この六十年間,131I療法は,リンパ腺や肺に転移した多くの甲状腺がんの若者を救っており,これに次ぐターゲット治療として,新たな放射免疫療法に大きな期待がかかる.
 これら医療に掛け替えのない役割を果たす“放射能”をいかに使いこなすか,放射線管理を含めた各専門家のチーム医療のもとに成り立つ技術であり,各人の技量が求められる.
【参考文献】
一, Mosconi L, Tsui W H, Herholtz K, et a1: Multicenter Standardized F-18 FDG PET Diagnosis of Mild Cognitive Impairment, Alzheimer's Disease, and Other Dementias. J Nucl Med 2008: 49; 390-398.
二,Krishman A, Nademanee A, Hung H C, et a1: Phase II Tria1 of a Transplantation Regimen of Yttrium-90 Ibritumomab Tiuxetan and High-Dose Chemotherapy in Patients with Non-Hodgkin's Lymphoma. J of Clinical Oncology 2008: 26; 90-95.

(日本核医学会前理事長・東京女子医科大学放射線科教授 日下部きよ子)

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