日医ニュース
日医ニュース目次 第1131号(平成20年10月20日)

日本医師会 かかりつけ医うつ病対応力向上研修会
うつ病の早期発見・早期治療による自殺対策の推進を目指して

日本医師会 かかりつけ医うつ病対応力向上研修会/うつ病の早期発見・早期治療による自殺対策の推進を目指して(写真) 日本医師会かかりつけ医うつ病対応力向上研修会が,四百三十五名の出席者を集めて,十月五日,日医会館大講堂で開催された.
 本研修会は,かかりつけの医師に,うつ状態・うつ病診療の知識・技術,および精神科等の専門の医師との連携方法等について理解してもらい,早期発見・早期治療による一層の自殺対策の推進を図るとともに,厚生労働省の「かかりつけ医うつ病対応力向上研修事業実施要綱」に定められている標準的なカリキュラムに基づき,各都道府県で実施される研修会の参考例を示すために,日医で初めて開催されたものである.
 研修会は,三上裕司常任理事の司会により開会.開催に当たってあいさつした唐澤人会長は,「十年前から年間三万人の自殺者がおり,日医としても大きな課題としてとらえている.自殺の動機の六三%が健康問題であり,その中でもうつ病が多いと言われている.うつ病は,精神症状だけでなく,身体症状を有することが多いため,内科を初めに受診することが多く,かかりつけの医師の役割が重要になると考えている.本日の研修会で,うつ病診療の知識・技術ならびに精神科等の専門の医師との連携方法等についての理解を深めてもらい,日頃の診療に役立てて欲しい」と述べた.
 その後,舛添要一厚労大臣(福島靖正厚労省精神・障害保健課長代読)のあいさつの後,以下の講演が行われた.
 (一)「基礎知識」編「うつ病の基礎知識:自殺のリスク評価に焦点を当てて」では,高橋祥友防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門教授が,昨年の自殺者数は三万三千人,未遂者は三十万人以上いると言われているが,自殺未遂歴が最大の自殺危険因子であると指摘.
 その他の危険因子としては,精神障害の既往,サポート不足(未婚・離婚・職場での孤立等),性別(既遂者は男性に多く未遂者は女性に多い),年齢(男性の中高年に多い),喪失体験(経済的損失,病気やけが等),他者の死の影響,事故傾性(事故を防ぐのに必要な措置を不注意にも取らない),身体疾患の既往などが挙げられると説明した.
 また,うつ病にかかった人が最初に受診する診療科は,内科(六四%),婦人科(一〇%),脳外科(八%),精神科(六%),心療内科(四%)の順に多く,うつ病のゲートキーパーは,日頃から身近で診療を受けている精神科以外の他科の先生方であると強調.自殺のキーワードは「孤立」であり,「絆と気づき」で自殺を予防することが重要になるとした.
 (二)「診断」編「うつ病の診断」では,神庭重信九州大学大学院医学研究院精神病態医学教授が,うつ病の基本症状としては,抑うつ気分,興味・喜びの喪失などが挙げられるとし,その他の症状としては,食欲減退,あるいは増加,不眠,あるいは過眠,動作が鈍い,あるいはじっとしていられない,疲労感・気力の減退,思考力・集中力の減退,無価値観・罪責感,死についての反復思考が考えられると説明した.
 さらに,うつ病の症状を整理する際には,「感情障害」「欲動障害」「思考障害」「身体症状」の四つに分けて考えると理解しやすいとし,その際には,うつ病は,活動低下,元気がないというイメージでとらえられやすいが,基本的に気分障害であるということを念頭に置くことが肝要であるとの考えを示した.
 (三)「治療とケア」編「うつ病治療と周囲の対応」では,白川治近畿大学医学部精神神経科学教授が,うつ病患者へのアプローチとしては,話を聞くこと,うつ病は治ることを理解してもらうこと,休養が第一であること,薬の必要性の理解などがあると指摘.薬物療法に関しては,三環系抗うつ薬,SSRI,SNRI,スルピリド等を挙げ,その副作用などについて解説した.
 また,うつ病の診療にかかわるに当たっては,(1)抗うつ薬を過信しない(2)患者の置かれている状況・生活歴を丁寧に聞く(3)精神科紹介のためのルールをつくっておく(4)相談出来る精神科医を持つ―ことが大切になるとした.
 (四)「連携」編「うつ自殺対策におけるかかりつけ医と精神科医の連携(富士モデル事業の実践)」〔(1)「富士モデル事業の概要」(松本晃明静岡県精神保健福祉センター所長)(2)「かかりつけ医の立場から」(渡辺俊明医療法人社団一衛会田子浦クリニック副院長)(3)「精神科医の立場から」(石田多嘉子財団法人復康会鷹岡病院院長)〕では,静岡県富士市で行われている「うつ・自殺予防対策富士モデル事業」についての紹介があった.
 富士モデル事業は,富士市医師会の全面的な支援と地元の全精神科医療機関の協力,さらには公的総合病院の協力により運営されている,かかりつけ医・産業医から精神科医への紹介システムであり,対象患者を「不定愁訴を訴える外来患者」から「不眠が継続している患者」と変更した結果,精神科への紹介件数が増加していることなどの説明があった.
 また,ポスターやTVCM等の広報活動による睡眠キャンペーンを実施したことにより,富士市の自殺者数が減少傾向となったことについても報告があった.

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