日医ニュース
日医ニュース目次 第1134号(平成20年12月5日)

日本医師会市民公開講座
「新時代を迎えた感染症〜ワクチン戦略〜」をテーマに

日本医師会市民公開講座/「新時代を迎えた感染症〜ワクチン戦略〜」をテーマに(写真) 日本医師会市民公開講座が,十一月二日,「新時代を迎えた感染症〜ワクチン戦略〜」をテーマに,日医会館大講堂で開催された.参加者は,四九〇名であった.
 内田健夫常任理事の総合司会のもと,あいさつに立った唐澤人会長は,「世界第一の平均寿命,健康寿命を達成した日本にも医療の変革が求められている.しかし,日本の医療は,財政主導の医療政策から脱却できず,地域医療は崩壊の危機に瀕している.日医は,国民の皆さんが安心して医療を受けられる体制を作ることを使命とし,活動している.昨年春,若者を中心に麻しんが流行し,また,近年,H5N1型の鳥インフルエンザの流行と散発的なトリからヒトへの感染発生が報告されたことから,新型インフルエンザの出現が強く懸念される.この講座を通じて,感染症を防ぐために,ぜひワクチンに対する正しい理解をしていただきたい」と述べた.
 つづいて,好本惠元NHKアナウンサーの司会によりシンポジウムが進行し,多屋馨子国立感染症研究所感染症情報センター第三室(予防接種室)室長,五十嵐隆東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授,飯沼雅朗日医常任理事,倉田毅富山県衛生研究所長の各シンポジストがそれぞれの立場で解説した.
 多屋室長は,「減少したとは言え,日本ではまだまだ多くの種類の感染症が発生している.予防接種は,個人を感染症から守ることが基本であるが,周りの人も一緒に守ることができるので,ぜひ受けていただきたい.まず定期予防接種を必ず受けることが重要であるが,任意接種の水痘や流行性耳下腺炎のワクチンなどもぜひ受けて欲しい」と予防接種の大切さを訴えた.また,現在問題になっている麻しんは,罹ると約三割の人に合併症が見られ,なかには肺炎や脳炎を起こすことがある怖い感染症の一つである.しかし,意識調査の結果,高校生の半数以上が知らなかったことや,二〇〇八年度から五年間の時限措置として,中学一年生と高校三年生に相当する年齢の者を対象に定期予防接種を実施しているが,接種率が低く,目標に程遠いことに触れ,必要性を正しく伝えることが重要だと述べた.
 五十嵐教授は,米国を始め,世界百カ国以上が導入しているインフルエンザ桿菌b型(Hib)ワクチンが,まだ日本では導入されていないことから,毎年六百人以上の乳幼児がHibによる細菌性髄膜炎に罹患し,その約五%が死亡し,約二〇%に重篤な後遺症を残していると説明.まもなく国内でも市販される見込みとのことであるが,定期接種にしなければ,乳幼児を守ることはできない,と日本の対応の遅れに危惧を示した.
 飯沼常任理事は,「現在,最も新型インフルエンザになる可能性のあるのはH5N1型の鳥インフルエンザで,そのワクチンはプレパンデミックワクチンとして二千万人分備蓄され,その安全性と効果が検討されている.ひとたびH5N1による新型インフルエンザが発生した場合に,速やかに接種できるような体制の整備が進められている.インフルエンザワクチンは,発症を抑えるというより症状を押さえ込む重症化予防ワクチンとして認識して欲しい」と解説した.また,子宮頸がんの予防が,HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの接種により可能となり,すでに世界百カ国以上で使用され,その有用性が証明されているにもかかわらず,日本ではまもなく認可されるであろうという段階で,欧米に比べかなり遅れていることや,費用の面でも問題があることを指摘した.
 倉田所長は,ワクチンの接種率を高めるには,欧米先進諸国のように,すべて国が費用を負担し,義務として課すことが必要との認識を示した.また,実際に,ワクチンは,感染症による死亡者やその後遺症を激減させており,「自然感染よりはるかにリスクが低ければワクチンを」というのが,先進国の常識的な考え方であるのに比べ,日本はリスクばかりを強調し過ぎる傾向があり,それがワクチンに対する正しい理解を妨げる要因になっているのではないかと述べた.
 本講座の模様は,十一月十六日(日)午後六時から七時まで,NHK教育テレビ「日曜フォーラム」にて放送された.

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