日医ニュース
日医ニュース目次 第1143号(平成21年4月20日)

平成21年度
日本医師会事業計画

 長年にわたる医療費抑制策は,地域医療を崩壊へと向かわせ,平等であるべき医療に地域格差を生じさせた.早急に具体策を講じて医療崩壊の拡大を防ぎ,国民の期待に応える地域医療提供体制を再構築しなければ,国民の日常生活に安心を取り戻すことはできない.
 日医では,平成二十年度も一貫して地域医療の再生を最重要課題として位置づけ,社会保障費年二千二百億円の機械的削減を撤回するよう,関係各方面に対し強力な活動を展開してきた.また,全国の医師会並びに関係団体との強力な連携の下,「地域医療崩壊阻止のための国民運動」を展開し,社会保障の再建を望む国民の声を政府に届けた.
 その結果,平成二十一年度政府予算では,社会保障費年二千二百億円の削減撤回には至らなかったものの,重要課題推進枠から社会保障等に七百七十五億円が充当されることになったほか,年金特別会計の特別保健福祉事業資金から千三百七十億円,道路特定財源から六百億円が充当され,実質的な社会保障費の削減額は,後発医薬品の使用促進による二百三十億円にとどまることとなった.
 しかしながら,社会保障費の削減が限界に来ていることは明らかである.そのため,平成二十一年度も引き続き社会保障費年二千二百億円の機械的削減の撤回,さらに,適正な医療財源確保に向けた社会保障費増額への政策転換を求め,関係各方面に強力に訴えながら,平成二十二年度診療報酬改定を巡る議論に臨む.
 一方,いかなる状況下においても,安全で安心な医療を提供するために最善を尽くすことは,国民の生命と健康をあずかる医療関係者に課せられた社会的責務である.その責務を果たしていくなかで,わが国を世界一の健康・長寿国にまで牽引してきたことは,すべての医療関係者が誇りとすべき大いなる“成果”である.この“成果”をさらに高次なものとしていくために,日医がイニシアチブをとって活動していくことが求められていると確信している.
 そのため,“国民医療を守る”という理念の下,全国の医師会組織並びに他の医療関係職能団体との一層の協働を推し進めていくなかで,国民が安全で安心な医療を受けられるための確固たる地域医療提供体制の再構築に努めていく.
 以上のような基本的な認識に基づき,日医は平成二十一年度事業計画として,各種会内委員会の充実,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の積極的活用はもちろんのこと,「医療政策の提案と実現」「医の倫理の高揚」「医療安全対策の推進」「生涯教育の充実・推進」「広報活動の強化・充実」「地域医療提供体制の確立・再生」などの「当面する重点課題」について,全会員の強い結束・団結のもと,地域に密着した医師会活動を基本として,その関連諸施策の推進を図る.
 また,厚生労働省からの委託事業である日本医師会治験促進センターおよび女性医師バンクの運営についても,さらなる充実・活用を図り,わが国の医学・医療の進歩発展に尽くす.

当面する重点課題

1.医療政策の提案と実現

 米国のサブプライムローンに端を発した金融危機は,世界経済の悪化を招き,わが国においても円高による輸出減,株価の下落など,景気の低迷は深刻な状態にある.大手企業による派遣労働者の大量解雇にみられるように,国民の雇用不安も拡大している.
 一方,社会保障については,「基本方針二〇〇六」に示された「五年間で一・一兆円の社会保障費の伸びの抑制」という政府方針は,社会保障に対する国民の不安が増大するなかでも撤回されていない.
 医療・介護を中心とした社会保障への積極的な投資による雇用誘発等を主張しながら,診療報酬改定を控えた平成二十二年度予算編成に向けて,「基本方針二〇〇九」における社会保障費年二千二百億円の機械的抑制の撤回,そして健全な医療提供体制を支えるための医療費財源の確保を目指す.
 政府の動向に先駆けて公表した『グランドデザイン二〇〇九』に提示した医療政策の実現を図り,国民のための医療提供体制と医療保険制度の実現を目指し,さらに強力な活動を展開していく.
 そのためにも,国民医療推進協議会加盟団体とのさらなる連携・協働を図るとともに,都道府県医療推進協議会の活動を支援し,国民の医療・介護・保健及び福祉の向上に向けた活動を推進する.

2.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進

 医界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,日医が独自に作成した「医の倫理綱領」および「医師の職業倫理指針」を広く周知徹底し,医の倫理の向上を図る.特に,医師の日常的自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供については,医師の責務として一層の普及,定着を促進する.
 また,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理および資質の向上を推進する.
 医の倫理の高揚と医療安全対策の推進のためには,医学部教育並びに医師の生涯教育に倫理教育を積極的に取り入れることが重要である.そのため,欧米諸国の事例も参考にしながら,具体的な倫理教育のあり方について検討を行っていく.

3.生涯教育の充実・推進

 医師の生涯教育は,医療の質の向上,患者の安全確保のうえからも最重要課題となっている.
 日医の生涯教育制度は,創設されてから二十二年が経過する.本制度は,これまで自主申告による自律性に依拠してきたが,学習の達成度評価を受けていないことなどを理由に,制度に対する社会的評価は必ずしも高くはなかった.今日,国民は,医師が不断に学習する姿を目に見える形で求めており,医師はこうした社会的要請にも応えなければならない.医師が生涯教育に取り組む姿勢をより明確に示すことで,医療に対する国民の信頼感が高まるとともに,医療連携など医療提供体制の充実にもつながるものと確信している.
 生涯教育の内容については,各々の診療分野における専門性の研鑽はもとより,「最新の医療情報を熟知して,必要なときには専門医を紹介できる,地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師」を養成するための『生涯教育カリキュラム〈二〇〇九〉』に沿った学習方略を充実させ,会員への周知徹底を図る.今後は履修環境の整備に努め,より多くの会員が生涯教育に取り組むことができる体制を構築する.
 なお,生涯教育を進めるうえで,基本的教材となる『日本医師会雑誌』および同誌の特別号(生涯教育シリーズ)については,生涯教育カリキュラムとより一層の連動を図る.また,在宅学習を進めるためにも,インターネット生涯教育講座(e-learning)等を充実させる.

4.医師会組織の継続的強化

 病院団体や大学医師会等との一層の連携により,勤務医の医師会加入を促進して,医師会組織の強化を図るとともに,過重労働問題等にも積極的に対応する.また,「医師の団結を目指す委員会」答申で指摘された医師の団結のための方策についても,積極的に取り組む.
 女性医師の医師会活動参加を促進するため,会内委員会への女性医師の積極的な登用を図るとともに,女性医師への就労支援策等について,引き続き取り組んでいく.
 平成二十年十二月一日より施行された公益法人制度改革に対しては,新制度に合致した定款諸規程類の検討作業を進めるほか,関係省庁から必要な情報を収集するとともに,医師会事業の公益性に関する要望活動を適宜行うなど,公益認定取得に向けた取り組みを強化する.また,全国の医師会組織が円滑に新制度に移行できるよう,情報提供や担当理事連絡協議会の開催等を通じて連携を図っていく.

5.日本医師会年金の運営強化と会員福祉施策の充実

 医師年金は会員である医師の老後のライフプラン設計上,会員にとって有力な一選択肢として機能している.終身年金でありながら,加入者個々人のライフスタイルに合わせた自由設計を可能とする医師年金は,他に類を見ない制度と言える.
 日医では,この「医師の医師による医師のための年金」を,今後とも運用体制の改善,運営管理の強化および普及の推進を図りつつ,制度の発展・充実に努めていく.
 まず,運用体制については,健全かつ効率的な運用を目指し,中長期的な視野で,適切な資産配分,最適な運用機関選定の検討など,継続的な改善を試みる.
 運営管理面では将来に渡り安定した制度運営を志し,ガバナンスの充実,システム面の拡充,事務処理体制の強化などの検討を進める.
 また,普及推進においては,新規日医入会会員へのアプローチを含めて,ホームページ,白クマ通信,日医ニュース,日本医師会雑誌等の日医の有するメディアを有効に活用することにより,効率的な普及促進を図る.さらに,これまでの活動による効果の検証を行うなど,常に見直しを心掛ける.
 医師年金を取巻く社会状況も変化しつつある.公益法人制度改革に伴う日医の対応に関連して,医師年金もそれに相応しい体制を取るべく検討を重ねつつ,近年施行された改正保険業法への対応を最重要課題として,医師年金制度の維持・存続のため,関連省庁はじめ関係各方面に働き掛けていく.

6.医療分野におけるIT化の推進

 「医師会総合情報ネットワーク」の一環として,日医標準レセプトソフトのさらなる開発,普及をはじめとするORCAプロジェクトの推進を強化し,医療機関の協力のもとに収集したデータを使った医療費動向,受療動向等の解析など,医療政策提言に積極的な活用を図っていく.また,レセプトオンライン義務化,社会保障カード(仮)構想など,医療分野におけるIT化を管理医療・医療費抑制の手段として利用しようとする国の政策に対し,医療提供者としての立場から,真に医療現場にとって有益なIT化についての具体的な提言を行い,対策を講じていく.

7.広報活動の強化・充実

 日医の主張や見解を国民に浸透させるとともに,日医のイメージアップを図ることを目的として開始したテレビCMを用いた広報活動については,徐々にではあるがその効果を発揮しており,国民の日医に対する認知度,期待度は高まりつつある.今後もより多くの国民にテレビCMを見ていただけるよう,提供番組などの検討を行うとともに,より良いCM作りに努めていく.新聞への意見広告については,これまで通り必要に応じて行っていく.定例記者会見については,毎週開催することでマスメディアとの良好な関係を築いていくとともに,その内容を日医ニュース,白クマ通信,ホームページなどを通じて,会員ばかりではなく,国民にも伝え,その理解を深めていく.これら既存の広報手段の充実とともに,BS朝日で放映中の日医提供番組「鳥越俊太郎 医療の現場!」についても,内容や質の向上を図っていく.さらに,「テレビ健康講座 ふれあい健康ネットワーク」では,都道府県医師会の協力のもと,その意向を踏まえながら,医師会活動の紹介を通じて,地域住民の健康増進に努める番組作りを行っていく.
 ホームページは,国民向けの健康情報の提供および利便性の充実を図るとともに,テレビCMの映像配信,定例記者会見,日医ニュース記事の掲載等を通じて,日医の活動や主張を分かりやすく伝え,国民の理解を得られるよう努めていく.また,会員との情報共有化を図るため,各種講習会,シンポジウム等の映像を可能な範囲で配信していく.その他,医療分野における喫緊の課題などについて,適宜ホームページ上でアンケート調査を行うなど,会員や国民の声を収集し,政策や提言への反映を目指す.
 都道府県医師会に対しては,文書管理システムやメーリングリスト,テレビ会議システムなどのさらなる活用により,双方向かつ速やかな情報交換を円滑に行っていく.

8.国際活動の推進

 グローバル・ヘルスを国際活動の主軸として推進する.世界医師会(WMA)に対し積極的な提言を行い,理事国としての責務を果たすよう努める.アジア大洋州医師会連合(CMAAO)についても,その事務局としての役割を果たすため,各国間の情報交換を活発にして,組織の活性化を図る.また,アメリカ医師会等各国医師会との交流を通じて,医療界における共通の課題に対応していく.武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて日医が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.JMAジャーナルは,日医の活動を世界に紹介する英文誌として,内容のさらなる充実を目指す.

9.医療保険制度の充実に向けた取り組み

 中長期的には,地域医療の確保の中で,病院,診療所等の役割分担などの医療提供体制が確立されたうえで,それに対応した診療報酬を設定していく.
 短期的には,平成二十年度診療報酬改定では,病院勤務医の疲弊改善のための財源が不足したため,診療所の財源を病院に移譲させる手法がとられたが,このことによる医療現場の影響も含め,診療報酬改定全体の評価を行ったうえで,次回診療報酬改定へ対応していく.
 レセプトのオンライン請求等については,引き続き義務化撤廃を強く要請していく.IT化に対応できない医療機関を守るための方策をしっかり講じていく.
 「指導大綱」に基づき実施されている指導については,平成二十年十月より地方厚生(支)局に再編されたことによる現場の混乱を含め,問題解決に当たる.

10.地域医療提供体制の確立・再生

 地域医師会との緊密な連携のもと,医療財源の確保を前提に,すべての国民への平等で良質なサービスの提供を目指して,地域における保健・医療・福祉を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた地域医療のさらなる充実を目指す.
 特に,地域における医療提供体制の確立・再生へ向けては,「グランドデザイン二〇〇九」に基づき,全般にわたる改革を進める.
 とりわけ,喫緊の国民的問題となっている医師の偏在・不足に対しては,平成二十年度に実施した「医師確保のための実態調査」結果に基づき,地域における役割分担と連携の推進をはじめ,地域間連携,医師の供給システムの確立,勤務医の就労環境の改善,ドクターバンク事業の推進,医師が安心して診療に従事できる仕組みの確立,女性医師の離職防止・再就業支援等に向けた多岐に渡る対策を講ずる.また,国の医師確保対策へ参画すると同時に,病院団体や大学等関係者との協議を併せて進めていく.
 この他,救急蘇生法や受療行動に関する普及啓発,周産期や小児の救急医療,二次救命処置研修やドクターヘリの推進等の救急医療体制の定着・拡充を図るとともに,新興・再興感染症等の感染症対策の推進,少子化対策,周産期医療の充実,母子保健対策,学校保健対策等「子ども支援日本医師会宣言」の実現を図る.また,小児保健法の制定実現に向けて取り組む.
 さらに,過重労働・メンタルヘルス対策をはじめとした労働者の健康確保対策,特に小規模事業場における産業保健活動を推進する.また,これらに適切に対応するため,これまで七万六千名を超える医師を認定し,地域医療の中に確実に定着してきた「日本医師会認定産業医制度」のより一層の充実を図り,認定産業医の養成のための基礎研修会および生涯研修としての産業医学講習会の開催を通じた産業医の資質向上に努める.
 禁煙推進活動,食品安全に関する情報システムの構築等に努めるとともに,生活習慣病対策としては,特定健診・特定保健指導の推進,がん対策基本法を踏まえたがん検診や緩和ケアの充実等に取り組む.特定保健指導では運動指導における健康スポーツ医の具体的な役割が示されたことから,積極的に健康スポーツ医活動を推進していく.また,糖尿病対策については,日本糖尿病対策推進会議との連携のもとに積極的に取り組む.
 地球温暖化防止や石綿,小児の環境保健などの環境問題は,医療や保健の面において重要かつ喫緊の課題である.特に地球温暖化防止は,今後も継続して二酸化炭素削減のための取り組みを行っていくとともに,都道府県医師会や郡市区医師会に対しても,環境問題への積極的な取り組みを働きかけていく.
 医療廃棄物,在宅医療廃棄物についても,今後の増加に備え,地域医師会を含めた体制整備に努め,環境の立場からも積極的に検討を行う.
 介護保険について,平成二十一年度介護報酬改定率がプラス三%の引き上げとなったことは,過去二回の介護報酬がマイナス改定だったことを踏まえると,一定の評価はできるものの,なお不十分である.報酬改定後の検証作業を通じ,医療難民,介護難民を生じさせないよう,療養病床再編問題の対応を図る.そのうえで,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用に十分関与できるよう対処し,併せて,認知症サポート医の活用に努める.一方,要介護認定,情報の公表制度の適切な運用・実施に向け対応を図る.また,高齢者医療や在宅療養に携わる医師を支援するため,「在宅医療支援のための医師研修会」を開催する予定である.

11.医療関係職種等との連携及び資質の向上

 医療関係職種が担う業務の見直しには,教育の裏打ちと責任の所在の明確化が必要であるとの主張を継続するとともに,看護職等医療関係職種の養成は,一義的に国の責任であることを基本とし,医師とその他医療関係職種との円滑な連携を図り,医療関係者に係る諸問題の改善に努力する.そうしたなかで,助産師の養成増を図るとともに,看護職にあっては社会の高齢化の進展に伴い,医療福祉分野における需要が増加している状況を重く受け止め,看護職の確保に努める.特に,わが国の人口千人当たりの看護職員数がOECD平均並である背景には,地域医療における准看護師の存在が大きいことがうかがえるため,今後とも准看護師養成制度を堅持する.また,潜在看護職員を対象とした調査結果によれば,看護職への復職希望者が多数いることを踏まえ,潜在看護職員の再就業支援を図るなど看護職全体の適正な需給・配置バランスの確保並びに資質の向上に引き続き努める.
 また,介護支援専門員を中心に多職種協働を推進するため,介護従事者等の人員確保と処遇改善を図る.さらに,地域・家族の同意形成を前提として,今後,社会的に重要となる終末期医療における医療関係職種の相互連携の強化を目指す.

12.医業税制と医業経営基盤の確立

 地域医療の再生・維持・確保には,医療機関の経営の安定,経営基盤の充実を図ることが重要であり,予算措置だけではなく,税制面からの支えは必須である.この基本認識のもと,従来からの医業経営に関わる税制のほか,地域医療確保に資する税制など,新たな分野についても積極的に検討を進める.
 平成二十一年度の最重要課題である控除対象外消費税については,広く利害関係者の理解を得ながら,社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度を,従来から提唱しているゼロ税率ないし軽減税率による課税制度を含めた合理的な制度を模索しつつ,適正・公平な制度に改めるよう,引き続き要望し,その実現に努める.
 新制度医療法人への円滑な移行については,平成二十年度税制改正において日医の要望の完全な実現とはならず課題を残しつつも一定の決着をみたが,移行の現状についての評価を行い,今後の対応を検討する.
 地域医療をめぐってはさまざまな問題が山積しているが,とりわけ産科医療,勤務医師不足問題など,引き続き税制による誘導方策等を検討し,地域医療の確保に向け積極的に提言する.
 公益法人制度改革に関連する税制についても,残された課題の解決を検討しつつ,引き続き実現に努める.
 なお,日医の税制要望事項の実現については,従前どおり都道府県医師会,郡市区医師会との協力により,関係各方面に積極的に働きかけを行っていく.

13.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営

 本事業は,医療事故紛争の適切な処理を通じ,医師と患者の信頼関係の構築に資することはもとより,会員相互の連帯のもとに都道府県医師会との緊密な連携により,医療提供基盤の安定化に極めて有用に作用している.また,今日の高額賠償化の現状や管理者責任への備えに対し,「日医医賠責 特約保険」の加入者の増加に努め,健全な制度運営の拡充を図る.

14.診療行為に係る死因究明制度等について

 日常の診療行為の中で起こりうる予期せぬ診療関連死については,現在,医師法第二十一条のもとで刑事訴追という誤った方向となっている.このような事態を是正するため,国において議論が行われ,医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案が出されている.日医は,医師法第二十一条を改正し,警察ではなく,中立的な第三者機関(医療安全調査委員会(仮称))に届出を行い,そこで死因の究明を行うことが,医療の質の向上とともに医療の安全に資するものと考える.したがって,新たな死因究明制度における原因究明と再発予防に向けた取り組みをさらにより良いものとして法制化し,医療の管理を今までのような刑事司法が行うのではなく,専門家集団である医師自らが行う仕組みの構築を目指していく.
 一方,現状の医道審議会における行政処分のあり方が必ずしも良いものではないと認識している.特に業務上過失致死傷罪に問われた個人について,刑事処分がなされた後,行政処分が下されることや医療機関への対応がなされていない等,これらの問題について国に先んじてわれわれの手で方向性を示していきたいと考えている.また,民事責任についても裁判外紛争解決,いわゆるADRなど新たな解決方法についても詳細に検討を行う必要があるため,「医療事故死における刑事責任,行政処分,民事責任の関係と行政処分と民事責任のあり方」について会内で検討を行い,国に対して提言を行っていく.

15.日本医学会とのさらなる連携の強化

 日医と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術の発展と安全で質の高い医療の確保と推進を目指す.
 また,日本における専門医・認定医制のあり方についても,幅広い視点で協議していく.さらに,医学会を通じ,各学会員に医師会活動の啓発を行うことで,相互連携の強化を図る.

16.日医総研の研究体制の充実強化

 日医総研は,社会保障制度論,国民医療費動向などの中長期的な課題と合わせ,短期的な政策課題に対応するための研究体制を一層充実強化させた運営を行う.
 医療のIT化を日医主導で進めるための「医師会総合情報ネットワーク」の重要なコンテンツであるORCAプロジェクトでは,医療事務,介護,特定健診,電子決済,認証局など医療のIT化に関わる各々の分野において,前年度に引き続き開発・普及を行う.特に日医標準レセプトソフトの普及に努め,レセコン市場の一角を占める存在にすべく,平成二十一年度は八千ユーザーの達成を目標としている.
 日レセ操作ができる事務員の総数を増やしていくために,日医認定医療秘書学院の学生などに対し,基礎的な日レセ操作の習得を促すことを目的として,平成二十一年四月に「日レセ操作実務者(認定オペレーター)資格」を創設し,認定試験による認定証の授与を開始する.

17.治験促進センターの着実な運営

 治験促進センターは,医師主導治験を支援し,科学的な証拠に基づく質の高い医療の提供に貢献する.また,全国規模の大規模治験ネットワーク登録医療機関のさらなる連携の強化,研修の提供,企業治験の機会の提供,普及啓発等を通じ,わが国の治験実施基盤の整備を行う.さらに,医薬品等の臨床研究の普及啓発に努める.

18.女性医師支援センター事業(女性医師バンク)の運営

 平成十八年度より厚生労働省の委託事業として立ち上げられた医師再就業支援事業は,平成二十一年度,女性医師支援センター事業と名称を変え,女性医師の就業継続への支援を主眼として,さらなる事業の拡充を行う.
 事業の中核である女性医師バンクにおいては,引き続き積極的な広報活動を行い求職・求人登録者を増やすとともに,医師であるコーディネーターによる,従来からのきめの細かいコーディネート活動を通じて就業成立件数の増加を図るほか,希望に応じて再研修実施施設の紹介や医療機関への再研修の委託なども行う.また,平成二十年度より取り組んでいる保育の問題に関しては,女性医師等復職研修・相談事業の受付・相談窓口の都道府県医師会等による開設を推進するとともに,保育システム相談員については,講習会等を開催して引き続き養成・普及に努める.その他,都道府県医師会や学会等医療関係団体との共催による各種講習会を開催し,多様な女性医師の支援を行う.

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