日医ニュース
日医ニュース目次 第1148号(平成21年7月5日)

視点

今回の新型インフルエンザ対策から何を学ぶか

 六月十二日,WHOは新型インフルエンザの警戒レベルをフェーズ6に引き上げた.インフルエンザウイルスは,ビザやパスポートなしに国境を越え,瞬時に世界中を駆けめぐったのである.
 今回の新型インフルエンザは,四月末,メキシコと米国で“豚インフルエンザ”が発生したことに端を発した.メキシコでは多数の死者が出たとの報道があり,四月二十七日にWHOは緊急委員会を開催し,翌二十八日に警戒レベルをフェーズ3から4に引き上げた.これらに対応するため,直ちに日医は唐澤人会長を本部長とした「新型インフルエンザ対策本部」を設置し,私は対策本部副本部長に任命された.われわれは,厚生労働省や地域医師会等と情報を共有しつつ対応に努めた.
 二十九日にはWHOが警戒レベルをフェーズ5に引き上げ,日医も緊急時に迅速に対応することが求められた.日医の対策本部副本部長として新型インフルエンザの動向に対応するため,私も五月十三日からイスラエルで開催された世界医師会の中間理事会への出席を断念した.
 五月十六日に神戸で国内発生の一例目が確認され,神戸,大阪を中心とした患者拡大期においては,個人防護具(PPE)の整備,発熱外来への出動,インフルエンザの迅速診断キットの不足,タミフル・リレンザの流通ルートなど,多くの問題が指摘された.新型インフルエンザによる臨時休校(幼稚園・小・中・高・大学)は,五月二十二日には最大の五千百三十五校に及び,関西地域における混乱は社会経済問題にも及んだ.このようななか,多くの地域医師会が積極的な対応によって,地域独自の活動展開の主導的立場をとり,地域住民の健康の確保に大きく寄与されたことに心から敬意を表したい.
 今回の新型インフルエンザは弱毒性であったが,国の行動計画やガイドラインが強毒性のウイルスを想定したものであったため,過剰反応ではないかとの批判も飛び出した.もし新型インフルエンザの毒性に応じた対応が示されていれば,このような混乱は避け得たと考える.
 岐阜市医師会では一九九九年より,独自にインターネット入力によるインフルエンザのリアルタイムサーベランス事業を行っており,患者の発生数,欠席クラス数,学級閉鎖などを含め,地域の患者発生状況をいち早く把握することに役立っている.現在,この事業を県下全域に拡大させる計画が進んでおり,今後このような対応が全国ネットで行われれば,迅速な対策の遂行に極めて有用な手段となると思われる.
 世界的には南半球を中心に患者数は激増しつつある.さまざまな角度から今回の対応を検証し,今秋以降の第二波に備えることが国やわれわれ医療提供者の課題であり,責務でもある.

(副会長・岩砂和雄)

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