日医ニュース
日医ニュース目次 第1150号(平成21年8月5日)

プリズム

誘導

 ある占い師が,若い女性に「あなたのお父さんは,死んでいませんね」と言った.数カ月前に父を亡くしていた女性は「どうして分かったんですか」と驚いた.
 なぜ,当たったのか.この女性は,「いない」をこの世に「存在しない」ととらえたのである.
 一方,父がまだ生きている人にとっては,「死んでない」という風に聞こえるため,これも当たってしまうということになる.結局,この占いは必ず当たることになる.
 次に,一から四までの好きな数字を思ってください.意識せずに選ぶと,多くは三を選ぶ.数字を選ぶ確率は二五%と思われがちだが,実際には三または二を選ぶ確率は八〇%以上であると言われている.「一から四」という表現のなかに「一と四の間の数」という感覚を無意識に決めてしまう傾向にあるからである.
 友人と喫茶店に行き,お水が出てくると目の前のお水を飲んでしまう.そのお水が自分のものだと誰も言っていないのに,誰一人として友人の前にあるお水をとって飲もうとはしない.
 このように,私たちは意識しない所で,さまざまな誘導を受けている.自分の意思で,自由選択で決めたかのように感じていることでも,実は相手の意図する方向や,結果に引き寄せられていることがあるということである.良い「導き」である時はいいが,悪い「誘い」であると大変である.
 日常の生活や会話のなかに,このようなさまざまな誘導があることを,時には意識してみるのも面白いのではないかと考える.

(T)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.