日医ニュース
日医ニュース目次 第1154号(平成21年10月5日)

「新しい医学の進歩」〜日本医学会分科会より〜

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レーザー診断治療とナノテクノロジー
〈日本レーザー医学会〉

 一九六〇年にMaimanがルビーレーザーの発振に初めて成功して以来,半世紀になる.レーザー技術の発展によりレーザー光が医学に応用されるようになり,わが国でもレーザー医学研究が盛んに行われるようになった.日本レーザー医学会は,医用レーザー研究会を母体として一九七九年に設立され,二〇〇九年に新しく日本医学会に加盟した学会である.会員数は千四百九十五名で,医学系と工学系で構成され,機関誌として『日本レーザー医学会誌』を発刊している.
 レーザー医学は,内視鏡の発達と導光ファイバーの開発により二十世紀末に目覚しい発展を遂げた.例えば,レーザーの高エネルギーを応用し組織を蒸散するがんの内視鏡的焼灼(しょうしゃく)法や,腫瘍選択性光感受性物質と低出力レーザーを用いた光化学反応による光線力学的治療法(PDT)などが確立し,各領域で現在臨床応用されている.また,組織に低出力レーザーを照射することにより内因性蛍光物質から発生する蛍光を捉える自家蛍光診断やフォトフリン,レザフィリン,5-ALAなどの外因性光感受性物質の蛍光を捉える光線力学的診断法(PDD)が,呼吸器,消化器,脳神経外科,皮膚科など各領域で,がんの診断を中心に盛んに研究されている.
 眼科では,レーザーを用いた画期的診断法として光干渉断層装置(OCT)が開発され,網膜疾患の診断法として普及している.OCTに関しては,内視鏡診断への応用が現在臨床研究されており,管腔臓器における早期がん診断法としても開発が進められ,オプティカルバイオプシーが可能になる時代が近い将来到来する.
 二十一世紀に入り,米国ではナノテクノロジーを国家的戦略研究目標としたことから,わが国でも多くの予算が配分されるようになり,現在最も活発な科学技術研究の分野となっている.細胞組織工学や遺伝子工学などのバイオテクノロジーとナノテクノロジーを融合化させた細胞の超微細な操作や加工,ジェノミックスやプロテオミックスの検出などを行うナノメディシンが今後の診断治療法として期待されているが,この基盤になるのがフォトニクス/レーザー技術である.
 本学会でも,医工連携によるナノメディシンを用いた細胞制御・操作技術に関する研究が大きな注目を集めている.フェムト秒パルスレーザーなどを用いた細胞機能制御・分化の抑制・単離・抽出,再生医療への応用,高分子ミセルやフォトメカニカル波を用いたナノドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発,更には自由電子レーザーの細胞組織工学への展開が最近のトピックスとなっている.
 レーザー光を応用したナノテクノロジーは,画期的な診断法の開発や,現在行われている治療の有効性や安全性を飛躍的に高めることを可能とし,今後の医学の発展には不可欠な技術である.日本レーザー医学会は,医工の密なる連携を推し進め,医学の発展に貢献し続けていくことを責務としている.

【参考文献】
一, 奥仲哲弥:「PDTの適応拡大と将来」特集によせて.日本レーザー医学会誌 27: 31, 2006.
二,菊池 眞:バイオフォトニクスとレーザー医学の現状と将来展望. 日本レーザー医学会誌 25: 27-37, 2005.
三,鈴木─吉橋幸子ほか:大阪大学自由電子レーザー研究施設における医学生物学応用.日本レーザー医学会誌 27: 109-115, 2006.

(日本レーザー医学会・東京医科大学茨城医療センター呼吸器外科教授 古川欣也)

(「新しい医学の進歩」は,今回で終了させていただきます.ご愛読ありがとうございました)

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