日医ニュース
日医ニュース目次 第1163号(平成22年2月20日)

第XI次 生命倫理懇談会
「高度情報化社会における生命倫理」の答申がまとまる

 第XI次生命倫理懇談会は,唐澤人会長からの諮問「高度情報化社会における生命倫理」に対する答申をとりまとめ,2月1日,久史麿座長から唐澤会長に提出された(写真).

第XI次 生命倫理懇談会/「高度情報化社会における生命倫理」の答申がまとまる(写真) 本答申は,二年間にわたり,本会議六回,作業部会三回の検討を重ね,とりまとめられたもので,(一)はじめに,(二)個人情報保護法について,(三)医療における個人情報・診療情報,(四)遺伝子検査をめぐる倫理問題,(五)情報の質をめぐる問題,(六)IT化の医療現場への影響,(七)医療倫理教育の重要性,(八)おわりに─から構成されている.
 「はじめに」のなかでは,今期の懇談会テーマについて,個人情報保護法の制定が医療現場のIT化にどのような影響をおよぼすのかなどの,情報化社会を迎えて医療人が直面する生命倫理への課題について,識者の意見を参考に議論を行ったことを紹介している.
 (二)では,個人情報保護法の目的は,個人の権利利益の保護のみではなく,個人情報の保護と有用性の適正なバランスを図ることと説明.実際の個人情報取扱いの具体的な仕組みは,ガイドライン等にその多くが委ねられており,医学研究者,医療関係者がガイドライン等の制定と内容の充実のために,積極的に関与すべきとしている.
 (三)では,IT化の推進により,医療機関同士で患者の電子情報を共有することが進むと考えられるため,情報参照や情報参照履歴開示などについて医師・患者双方合意の上での社会的ルールの形成が必要であるとしている.また,匿名化された臨床データの蓄積と公益的・疫学的活用については,医療者・臨床研究者の視点を取り入れた形で,個人情報保護法と整合性のあるガイドラインの整備が急務となるとしている.
 (四)では,遺伝子情報には,遺伝的易罹病性の予見,世代を超えて家族・集団に対し重大な影響をおよぼす可能性などが指摘されており,それを扱う遺伝子検査にも,特別な倫理性や測定当事者の資格等が問われる.
 さらに最も懸念されている事項として,遺伝子検査の質的保証の問題を示し,一部の検査を除けば,検査施設,民間企業等で独自に検査法が開発され,実施されている場合が多く,遺伝子検査の精度管理と基盤整備等に取り組むべきとしている.
 (五)では,医療情報をネットから取得する人が増え続けるなか,発信される情報の質の担保への取り組みが重要であるとし,さらに医師によるインターネット言論について,医師がその被害者となる事例はもちろん,逆に医師が加害者となる事例もあるとして,社会の医師というプロフェッションに対する信頼を損なうことのないよう戒めている.
 (六)では,医学生は電子カルテにアクセスする権利が制限されている場合が多く,病歴作成という重要な学習課題の成果を上げるため,環境づくりが必要であるとしたほか,大学と市中病院をローテーションする若手医師が,その病院固有の電子カルテシステムに対応する必要があり,作業効率面,医療安全面から,医療情報の標準化が推進される必要があるとしている.
 (七)では,現在の学部教育,研修医教育では,高度情報化社会における生命倫理の教育に関して,体系だったものは少ないため,今後,文部科学省や日本医学教育学会などが中心となって,教育体制を整える必要があり,日医も学会等と連携して医療倫理やプロフェッショナリズムの教育のあり方について検討を続けるべきとしている.
 「おわりに」では,進化するIT技術をいかにして個人の情報を守りながら,医療の現場に応用していくのかが医療人に課せられた重要な課題であるとし,欧米諸国にある医師による自律的質管理機構を構築することの必要性が提言されている.
 なお,二月四日,担当の羽生田俊常任理事が記者会見で,答申の内容を公表し,「この高度情報化社会に生きるわれわれに課せられた課題は,情報化社会に適合した,新しい医師・患者関係を作るための具体策の策定であり,積極的に提言していかなければならないと感じている」と述べた.

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