日医ニュース
日医ニュース目次 第1167号(平成22年4月20日)

平成22年度
日本医師会事業計画

 わが国では,昨年九月に政権交代が行われた.新たに与党となった民主党は,そのマニフェスト等で,累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車をかけたとの認識から,総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで引き上げることを掲げていた.
 日医としては,地域医療の中核的担い手である病院勤務医師の過重労働の改善をはじめ,身近な医療機関が健全に存続し,景気低迷のなかでも国民が経済的負担を心配することなく,いつでも医療機関にかかれる社会に戻さなくてはならないとの思いから,(一)診療報酬を大幅かつ全体的に引き上げること,(二)患者一部負担割合を引き下げること─の二点を挙げ,その実現に向け全力で関係各方面へ働き掛けを行ってきた.
 その結果,平成二十二年四月の診療報酬改定では,全体で〇・一九%,本体一・五五%,医科本体では一・七四%引き上げが実施された.診療報酬全体でプラス改定となったのは平成十二年以来十年ぶりであるが,しかし,期待に反する小幅な改定であったため,地域医療の崩壊を阻止するには不十分なものであると言わざるを得ない.
 このため,日医は,いつでも,どこでも,だれもが普遍平等に安心して医療を受けることが出来る国民皆保険制度の堅持と地域医療提供体制の再構築に向けて,適正な医療財源による十分な医療費の確保とともに,患者一部負担割合の引き下げの実現に向けて,今後も強力に訴えていく.
 また,日医は従来から,他の産業に比べて雇用誘発力の大きい医療・介護分野への投資こそが,日本の内需拡大を支え,成長社会の実現に繋がるとの主張を行ってきた.
 政府においても,昨年十二月三十日に閣議決定した『新成長戦略(基本方針)』のなかで,ライフ・イノベーションによる健康大国戦略として,「医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成(新規市場約四十五兆円)と雇用の創出(新規雇用約二百八十万人)」を掲げている.
 将来を展望しにくいわが国の現状を切り開くためには,医療関係者としても,安心と真の豊かさを国民生活に取り戻すための積極的な行動が求められている.
 日医としては,国民の生命と安心を守る組織としての責任と誇りをもって,“医の本道”に立ち,医療現場の諸課題を改めて整理しながら,国民生活を支えるためのあるべき医療の実現に向けて,引き続きエビデンスに基づく政策提言を行うことで,わが国の再生に寄与していく.
 以上のような基本的な認識に基づき,日医は平成二十二年度事業計画として,各種会内委員会の充実,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の積極的活用はもちろんのこと,「医療政策の提案と実現」「医の倫理の高揚」「医療安全対策の推進」「生涯教育の充実・推進」「広報活動の強化・充実」「地域医療提供体制の確立・再生」などの「当面する重点課題」について,全会員の強い結束・団結のもと,地域に密着した医師会活動を基本として,その関連諸施策の推進を図る.
 また,厚生労働省からの委託事業である日本医師会治験促進センター及び女性医師支援センターの運営についても,さらなる充実・活用を図り,わが国の医学・医療の進歩発展に尽くす.

重点課題一覧

1.医療政策の提案と実現

 昨年九月に発足した民主党政権は,そのマニフェスト等で,累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車をかけたと認識し,社会保障費削減の撤回,医療費の増加を掲げていた.
 日医は,政権交代に揺らぐことなく,一貫して医療費抑制政策が医療崩壊を引き起こしたことを示したうえで,緊急提言として,「診療報酬の大幅かつ全体的な引き上げ」と「患者一部負担割合の引き下げ」を主張してきた.
 しかし,平成二十二年診療報酬改定で示された改定率は,医療現場に希望を与える水準ではなかった.
 日医は,今後も,勤務医と開業医の分断,病院と診療所の配分の見直しといった構図に陥ることなく,診療報酬のあり方について,踏み込んだ主張をしていく.
 手段としては,医療現場の第一線の総力を結集し,エビデンスの高い医療政策を,直接政府そして与野党に提言していく.また,これまで以上に記者会見などを通じて社会に情報を発信し続ける.
 さらに,多様な価値観を認め,最善の医療を目指して是々非々で政策判断をしていくため,『グランドデザイン二〇〇九』を確実に更新,進化させていく.また,日医主導で,対外的に影響力をもち,意見の異なる立場の医療関係者が同じ土俵で議論出来る開かれた場を設定することを検討する.

2.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進

 医界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,日医が独自に作成した「医の倫理綱領」および「医師の職業倫理指針」を広く周知徹底し,医の倫理の向上を図る.特に,医師の日常的自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供については,医師の責務として一層の普及,定着を促進する.
 また,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理および資質の向上を推進する.
 さらに,医の倫理の高揚と医療安全対策の推進に向けて,すでに各都道府県医師会や郡市区等医師会で実践している自浄作用活性化や倫理向上に向けた取り組みを日医として支援するべく,日医会内の会員の倫理,医療安全,生涯教育等に係る委員会が連携し,定例的に情報発信・情報交換する場を設けるなど,具体的な方策を検討し,実施する.

3.医師会の組織強化と勤務医活動の支援

 臨床研修医も含めた勤務医の意見を広く吸い上げるための方策を講じ,病院団体や大学医師会等との一層の連携のもと,勤務医の医師会加入推進に努め,医師会組織の強化を図る.また,勤務医の労働環境改善のため,勤務医の精神・肉体両面の健康支援の推進,医療政策への提言等に積極的に取り組む.
 国民医療の向上を図るために,開業医や勤務医といった立場の違いを超えて,すべての医師が日医に結集するための方策についても検討を進める.
 女性医師の医師会活動参加を促進するため,会内委員会への女性医師の積極的な登用を図るとともに,女性医師への就労支援策等について,引き続き取り組んでいく.
 平成二十年十二月一日より施行の公益法人制度改革に対しては,日医が担う公益性の深化と医師会組織の強化という視点をもって,各種事業のあり方や定款諸規程類の見直しについての検討を引き続き行っていく.また,全国の医師会組織が円滑に新制度に移行出来るよう,ホームページ内の専用コーナー等を用いた情報提供や担当理事連絡協議会の開催等を通じて一層の連携を図っていく.
 公的研究(主に厚生労働科学研究)に,日医の役職員が研究者(研究代表者あるいは研究分担者)として携わる場合,その研究の公正性,信頼性を確保するために,研究者の利益相反について適切に管理する.

4.生涯教育の充実・推進

 医師の生涯教育は,医療の質の向上,患者の安全確保の上からも最重要課題となっている.
 日医の生涯教育制度は,創設されてから二十三年が経過するが,これまで,学習の達成度評価を受けていないことなどを理由に,制度に対する社会的評価は必ずしも高くはなかった.国民は,医師が不断に学習する姿を目に見える形で求めている.こうした社会的要請にも応えるために,本年度から,制度の改定を実施する.
 その基本的方向性を示すものは,『生涯教育カリキュラム〈二〇〇九〉』にある一般目標「頻度の高い疾病と傷害,それらの予防,保健と福祉など,健康にかかわる幅広い問題について,わが国の医療体制の中で,適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的視点から提供できる医師としての態度,知識,技能を身につける」である.
 今回の改定は次の三点,すなわち(1)単位に時間的概念,学習項目としてカリキュラムコードを導入(2)三年間に三十単位と三十カリキュラムコードを取得した場合,三年間の有効期限付きの認定証を発行(3)自己学習には達成度評価を導入である.
 それに伴い,より多くの会員が生涯学習に参加出来るように,履修環境の整備に努める.特に自己学習では,『日本医師会雑誌』(特別号を含み年十四号発行)の読後解答,インターネット生涯教育講座などe─ラーニング教材の視聴後解答などにより,単位とカリキュラムコードの取得を容易にする.
 医師が生涯教育に取り組む姿勢をより明確に示すことで,医療に対する国民の信頼感が高まるとともに,医療連携など医療提供体制の充実にもつながるものと思われる.
 制度改定実施後も,より効果的で効率的なシステムの確立を目指し,適宜,制度の評価・改善に努める.また,本制度は医師全体を対象としていることから,ホームページなどを通じて広報し,日医に未加入の医師から申告がある場合にも,会員と同様の対応を行う.なお,郡市区等医師会並びに都道府県医師会が一括申告を行う場合,今回の制度改定に沿った事務手続き軽減化ソフトを配布し,申告の円滑化を図る.

5.日本医学会とのさらなる連携の強化

 日医と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術の発展と安全で質の高い医療の確保と推進を目指す.
 また,日本における専門医・認定医制のあり方についても,幅広い視点で協議していく.さらに,日本医学会を通じ,各学会員に医師会活動の啓発を行うことで,相互連携の強化を図る.

6.医療分野におけるIT化の推進

 「医師会総合情報ネットワーク」の一環として,日医標準レセプトソフト(以下,日レセ)のさらなる開発,普及をはじめとするORCAプロジェクトの推進を強化し,医療機関の協力のもとに収集したデータを使った医療費動向,受療動向の解析など,医療政策提言に積極的な活用を図っていく.
 また,医療分野におけるIT化を管理医療・医療費抑制の手段として利用しようとする国の政策に対し,医療提供者としての立場から,真に医療現場にとって有益なIT化について具体的な提言を行い,対策を講じていく.

7.広報活動の強化・充実

 日医の主張や見解を国民に浸透させるとともに,日医のイメージアップを図ることを目的として開始したテレビCMを用いた広報活動については,徐々にではあるがその効果を発揮しており,国民の日医に対する認知度,期待度は高まりつつある.今後もより多くの国民にテレビCMを見ていただけるよう,提供番組などの検討を行うとともに,より良いCM作りに努めていく.新聞への意見広告については,これまで通り必要に応じて行っていく.定例記者会見については,毎週開催することでマスメディアとの良好な関係を築いていくとともに,その内容を日医ニュース,白クマ通信,ホームページなどを通じて,会員ばかりでなく,国民にも伝え,その理解を深めていく.これら既存の広報手段の充実とともに,BS朝日で放映中の日本医師会提供番組「鳥越俊太郎 医療の現場!」についても継続し,さらなる質の向上を図っていく.さらに,「テレビ健康講座 ふれあい健康ネットワーク」では,都道府県医師会の協力のもと,その意向を踏まえながら,医師会活動の紹介を通じて,地域住民の健康増進に努める番組作りを行っていく.
 ホームページは,Webサイト評価に基づき,トップページをはじめ,システムを含む大々的なリニューアルを図り,子どもの事故やけがの対応方法を掲載した「白クマ先生の小児診療所」等,国民向けの健康情報の提供を充実させるとともに,テレビCMの映像配信,定例記者会見,日医ニュース記事の掲載等を通じて,日医の活動や主張をわかりやすく伝え,国民の理解を得られるよう努めていく.また,会員との情報共有化を図るため,各種講習会,シンポジウム等の映像を可能な範囲で配信していく.その他,医療分野における喫緊の課題などについて,適宜ホームページ上でアンケート調査を行うなど,会員や国民の声を収集し,政策や提言への反映を目指す.
 都道府県医師会に対しては,都道府県医師会宛て文書管理システムやメーリングリスト,昨年末にシステムを刷新したテレビ会議システムなどのさらなる活用により,速やかかつ円滑な情報交換を行っていく.

8.国際活動の推進

 グローバル・ヘルスを国際活動の主軸として推進するために世界医師会(WMA)等の国際機関,各国医師会などとの連携を深める.WMAに対し積極的な提言を行い,理事国としての責務を果たすように努める.アジア大洋州医師会連合(CMAAO)についても,その事務局としての役割を果たすため,新興感染症等についての各国間の情報交換を活発にして,組織の活性化を図る.また,アメリカ医師会等各国医師会との交流を通じて,医療界における共通の課題に対応していく.武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて日医が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.JMAジャーナルは,日本の医療と日医の活動を世界に紹介する英文誌として,内容のさらなる充実を目指す.

9.医療保険制度の充実に向けた取り組み

 いつでも,どこでも,だれもが普遍平等に安心して医療を受けることができる国民皆保険制度の堅持と地域医療提供体制の再構築に向けて,適正な医療財源による十分な医療費の確保とともに,患者一部負担割合の引き下げの実現に向けて,今後も強力に訴えていく.
 また,平成二十四年度の診療報酬と介護報酬の同時改定に向けて,まずは平成二十二年診療報酬改定の検証・評価を行ったうえで対応していく.
 さらに,レセプト電子請求について免除・猶予が拡大されたが,電子化については現場の混乱が少ないように対策を講じる.

10.地域医療提供体制の確立・再生

○「連携と継続の地域医療体制」の再構築に向けた取り組み

 地域医師会との緊密な連携のもと,医療財源の確保を前提に,すべての国民への平等で良質なサービスの提供を目指して,地域における保健・医療・福祉を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた,診療所や病院によって担われる地域医療のさらなる充実を目指す.
 特に有床診療所は,多様な役割・機能を担い,地域の実情に合わせて柔軟に運営されるものであり,それらの活用・強化とともに,有床診療所の意義や重要性について情報発信していく.
 また,「連携と継続の地域医療体制」の再構築に向け,今後行われる医療計画(四疾病五事業)の改定,次期医療法改正等を見据え,『グランドデザイン二〇〇九』に基づき全般にわたる改革に向けての取り組みを進める.

○医師の偏在・不足の解消に向けた取り組み

 喫緊の国民的問題となっている医師の偏在・不足に対しては,地域における役割分担と連携の推進をはじめ,地域間の広域連携,勤務医の就労環境の改善,ドクターバンク事業の推進,医師が安心して診療に従事できる仕組みの確立,女性医師の離職防止・再就業支援等に向けた多岐に渡る対策を講ずる.また,国の医師確保対策へ参画すると同時に,病院団体や大学等関係者との協議をあわせて進めていく.

○救急災害医療の拡充に向けた取り組み

 救急災害医療については,地域連携の推進に加え,救急蘇生法や受療行動に関する市民への普及啓発,周産期や小児の救急医療並びに小児救急電話相談事業の定着,ACLS(二次救命処置)研修の推進,ドクターヘリの拡充を図るとともに,震災等の災害医療対策の充実にも努める.

○公衆衛生の向上・少子化対策への取り組み

 新型インフルエンザA(H1N1)への対応を総括・検証し,今後の鳥インフルエンザ(H5N1)のような高病原性の感染症に対する取り組みを積極的に推進する.あわせて,適切な予防接種体制の構築を含め,わが国の新興・再興感染症等の感染症対策の全体の推進を国に働きかけていく.
 少子化対策,周産期医療の充実,母子保健対策,学校保健対策等「子ども支援日本医師会宣言」の実現を図るとともに,小児保健法の制定実現に向けて取り組む.
 また,過重労働・メンタルヘルス対策をはじめとした労働者の健康確保対策,特に小規模事業場における産業保健活動を推進し,かつ,これらに適切に対応するため,地域医療のなかに確実に定着してきた日本医師会認定産業医制度のより一層の充実を図り,産業医の資質向上に努める.
 増加傾向を続ける自殺への対応として,日医は精神保健福祉施策全般に対して積極的に関与するとともに,「かかりつけ医うつ病対応力向上研修会」の開催等を含め,会員に向けた自殺対策への取り組み,国民に向けた啓発活動を展開していく.
 さらに,禁煙推進活動,健康食品安全に関する情報システムの全国展開等に努めるとともに,生活習慣病対策としては,特定健診・特定保健指導の推進,がん対策基本法を踏まえたがん検診や緩和ケアの充実等に取り組む.あわせて,特定保健指導や日常診療における健康スポーツ医活動の推進を図る.また,糖尿病対策については,日本糖尿病対策推進会議との連携のもとに積極的に取り組む.

○環境問題・医療廃棄物に係る取り組み

 医療や保健の面においても重要性を増しつつある環境問題に対しては,日医の取り組み姿勢を表明した「環境に関する日本医師会宣言」を基に取り組んでいく.特に,小児の環境保健対策や医療機関における化学物質管理の推進,病院・診療所による二酸化炭素削減に向けた取り組みの推進等を重点的に実施していく.
 医療機関から排出される廃棄物への対策については,在宅医療廃棄物や新興感染症等への対策を含め,「特別管理産業廃棄物管理責任者」資格取得講習会の推進等により地域医師会や医療機関を含めた体制整備に努め,環境の立場からも積極的に検討を行う.

○介護保険制度の充実に向けた取り組み

 介護保険については,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用および地域ケア会議に十分関与出来るよう対処し,あわせて,かかりつけの医師の認知症への対応力向上を推進し,認知症サポート医の活用に努める.また,昨年度実施の報酬改定後の検証作業を通じ,来る平成二十四年度の介護報酬・診療報酬の同時改定に向けて制度や報酬の見直しに関して,検討を開始する.
 一方,要介護認定については,主治医意見書の重要性について,再認識し,情報の公表制度については,適切な運用・実施に向け対応を図る.
 なお,高齢者医療や在宅療養に携わる医師を支援するため,在宅医療支援のための医師研修会については,そのあり方に関して再検討を行う予定である.

11.健診・保健指導の向上に向けた取り組み

 平成二十年度から特定健診・特定保健指導が開始されたが,これらを中心にさまざまな健診・保健指導等が適切に実施,運営され,予防医療として質の高い保健事業が継続的に提供されることが望まれる.そのためには,各種保健事業が客観的かつ公正に評価されることが必要であり,あわせて国民に対する健康維持や生活習慣病予防の啓発につながる評価体制の構築を図らなければならない.
 日医は,これらの実現のために病院団体,健診団体等と協議を重ねてきたが,本年二月二十二日,関係団体とともに「日本医学健康管理評価協議会」を立ち上げ,その第一歩を踏み出した.
 本協議会は,日医のほかに,(財)結核予防会,(社)健康評価施設査定機構,(社)全国労働衛生団体連合会,(社)全日本病院協会,(社)日本総合健診医学会,(財)日本対がん協会,(社)日本人間ドック学会,(社)日本病院会,(財)予防医学事業中央会が加盟し,学識経験者を加えた体制で当面運営される.
 今後は,保健事業によって国民の健康がより高いレベルで維持・増進されるよう,健診関係団体等が質の高い実施機関を育成するための各種支援,さらには保健事業における新たな評価手法の開発や学術的評価に係る事業,保険者の評価事業,保健事業に関する調査研究などを段階的に展開していく.

12.医療関係職種等との連携及び資質の向上

 医療関係職種が担う業務の見直しには教育の裏打ちと責任の所在の明確化が必要であるとの主張を継続するとともに,国民の医療への信頼と医療安全の確保を大前提として,医師によるメディカルコントロールのもとで,医師とその他医療関係職種との円滑な連携を図り,チーム医療を推進する.
 そうしたなかで,看護職等医療関係職種の養成は,一義的に国の責任であることを基本とし,助産師の養成増を図るとともに,看護にあっては社会の高齢化の進展に伴い,医療福祉分野における需要が増加している状況を重く受け止め,看護職員等の確保に努める.特に,わが国の人口千人当たりの看護職員数がOECD平均並である背景には,地域医療における准看護師の存在が大きいことがうかがえるため,今後とも准看護師養成制度を堅持し,准看護師・看護師等学校養成所に対する支援を行う.また,潜在看護職員には看護職への復職希望者が多数いることを踏まえ,昨年度より実施している「潜在看護職員再就業支援研修モデル事業」の結果を基に,全国の潜在看護職員の掘り起こしを推進するなど看護職全体の適正な需給・配置バランスの確保並びに資質の向上に引き続き努める.

13.医業税制と医業経営基盤の確立

 地域医療の再生・維持・確保には,そのインフラである医療機関の経営の安定,経営基盤の充実を図ることが重要であり,医師の保険診療における医療行為が適正に評価されない現在,予算措置だけではなく税制面からの支えは必須である.この基本認識のもと,従来からの医業経営に関わる税制のほか,地域医療確保に資する税制など,新たな分野についても積極的に検討を進める.
 本年度の最重要課題である社会保険診療に対する事業税非課税措置については,政府税調において本格的な検討がなされる見込みであるが,低廉な診療報酬が続くなか,見直しが行われれば医療機関の経営存続を危ういものにし,結果として地域医療の衰退あるいは崩壊を招きかねないことから,全医療機関の課題としてその存続を引き続き要望する.
 いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置),医療用機器の特別償却制度等の租税特別措置についても,政府税調において俎上に上ると見込まれるが,その存続・延長が医業経営,すなわち地域医療確保に不可欠として,引き続き要望する.
 控除対象外消費税については,社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度を,従来から提唱しているゼロ税率ないし軽減税率を含めた合理的な制度を模索し,関係各方面の理解を得ながら,適正・公平な制度に改めるよう,引き続き要望し,実現に努める.
 新制度医療法人への移行については,昨年度においても日医の要望の完全な実現とはなっていないため,引き続き移行の現状を評価し,今後の対応を検討する.地域医療をめぐっては問題が山積しているが,引き続き税制による誘導方策等を検討し,地域医療の確保に向け積極的に提言する.
 なお,日医の税制要望事項の実現については,新たな税制改正プロセスを踏まえ,都道府県医師会,郡市区等医師会との協力により,関係各方面に積極的に働きかけを行っていく.

14.日本医師会年金の運営強化と会員福祉施策の充実

 医師年金は老後のライフプラン設計上,会員にとって有力な一選択肢として機能している.医師年金は終身年金でありながら,加入者個々人のライフスタイルに合わせた自由設計を可能とする,他に類を見ない制度といえる.しかしながら,医師年金を取巻く社会・経済の環境は刻々と変化している.そのような状況に適宜対応することは当然として,とりわけ,公益法人制度改革に伴う日医の対応に歩調を合わせ,日医の事業として,それにふさわしい体制を取るべく検討を重ねる.そして,平成十八年四月に施行された改正保険業法への対応を最重要課題として,医師年金制度の維持・存続のため,関連省庁はじめ関係各方面にさらなる働きかけを行うこととする.
 日医では,この「医師の医師による医師のための年金」を,今後とも運用体制の改善,運営管理の強化および普及の推進を図りつつ,制度の発展・充実に努めていく.
 具体的には,本年度は五年ごとの制度見直し時期に当たり,運用体制・運営管理両面について検討し,その結果としての具体的な改善・強化策を推進していく.まず,運用体制については,健全かつ効率的な運用を目指し,中長期的な視野で,適切な資産配分,最適な運用機関選定の検討など,継続的な改善を試みる.運営管理面では将来に渡り安定した制度運営を志し,ガバナンスの充実,システム面の拡充,事務処理体制の強化などの検討を進める.普及推進は日本医師会が有するメディア,すなわち,ホームページ,白クマ通信,日医ニュース,日医雑誌等を有効活用することにより,その効率化を図る.

15.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営

 本事業は,医療事故紛争の適切な処理を通じ,医師と患者の信頼関係の構築に資することはもとより,会員相互の連帯のもとに都道府県医師会との緊密な連携により,医療提供基盤の安定化に極めて有用に作用している.また,今日の高額賠償化の現状や管理者責任への備えに対し,「日医医賠責 特約保険」の加入者の増加に努め,健全な制度運営の拡充を図る.

16.診療行為に係る死因究明制度等について

 平成十八年に発生した福島県立大野病院事件をきっかけに,日医は,医療事故責任問題検討委員会を立ち上げ,医師法第二十一条を端緒とする,医療事故による死亡事例に対する刑事司法の誤った流れを改善するための方策を検討してきた.そして,この委員会の提言をもとに,厚生労働省が主催した関係組織の代表による検討会における議論の結果,平成二十年六月に医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案等が示された.
 この大綱案は,医療事故による死亡事例は,医師法第二十一条を改正し,警察ではなく中立的な第三者機関(医療安全調査委員会(仮称))に届け出て,そこで死因の究明と再発予防を行い,悪質な事例は警察へ通知する仕組みとしたものである.
 しかし,昨年の九月に民主党政権になったことで,医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案のままで法制化は不可能となり,代わって,今後は民主党案が議論されると思われる.
 一方,大綱案が発表された以降,日医は,平成二十年四月から大綱案の考え方を深める目的で,刑事罰の後追いであった行政処分のあり方を変え,刑事罰の前に,まず,再教育を中心とした行政処分を行うシステムのあり方を医療事故に関する責任問題検討委員会で議論し,本年三月に提言をまとめたところである.
 そこで,今後,民主党案が議論されるに当たっても,医療事故による死亡事例に対しては,制裁を目的とした刑事罰中心の処分ではなく,これまで日医が検討してきたような,医療界の自律的な判断に基づく,医師の再教育を中心とした支援型の行政処分が法制化されるよう,修正のための取り組みを続けていく.

17.日医総研の研究体制の充実強化

 日医総研は,国民に選択されるEBMに基づいた医療政策の企画・立案に努め,社会保障制度論,国民医療費動向などの中長期的な課題とあわせ,短期的な政策課題に対応するための調査・研究体制を一層充実強化させた運営を行う.
 医療のIT化を日医主導で進めるための「医師会総合情報ネットワーク」の重要なコンテンツであるORCAプロジェクトでは,医療事務,介護,特定健診,認証局など医療のIT化に関わる各々の分野において,前年度に引き続き開発・普及を行う.特に日レセの普及に努め,レセコン市場の一角を占める存在にすべく,本年度は一万ユーザーの達成を目標としている.
 日レセ導入数の順調な増加に鑑み,日レセユーザーからの任意送信に基づいた,レセプトデータの収集・分析を行う「定点調査研究事業」を本格的に開始する.あわせて,同じ仕組みを使用した「感染症サーベイランス」事業も開始する.

18.治験促進センターの着実な運営

 治験促進センターは,医師主導治験を支援し,科学的な証拠に基づく質の高い医療の提供に貢献する.また,全国規模の大規模治験ネットワーク登録医療機関のさらなる連携の強化,研修の提供,企業治験の機会の提供等を通じ,わが国の治験実施基盤の整備を行う.さらに,医薬品等の治験・臨床研究の普及啓発に努める.

19.女性医師支援センター事業(女性医師バンク)の運営

 平成十八年度より厚生労働省の委託事業として立ち上げられた医師再就業支援事業は,昨年度,女性医師支援センター事業と名称を変え,女性医師の就業継続への支援を主眼として,さらなる事業の拡充を行ってきた.
 事業の中核である女性医師バンクにおいては,本年度も引き続き積極的な広報活動を行い,求職・求人登録者を増やすとともに,医師であるコーディネーターによる,従来からのきめの細かいコーディネート活動を通じて就業成立件数の増加を図るほか,希望に応じて再研修実施施設の紹介や医療機関への再研修の委託なども行う.また,女性医師等相談窓口事業についても都道府県医師会等における窓口の設置・運営を支援し,昨年度から実施している各医師会主催の講習会等への託児サービス設置の補助についても引き続き実施する.その他,都道府県医師会や学会等医療関係団体との共催による「女子医学生・研修医等をサポートするための会」の開催等,多様な女性医師の支援を行う.

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