日医ニュース
日医ニュース目次 第1199号(平成23年8月20日)

視点

介護職員等によるたんの吸引等の実施に関する諸問題について

 介護職員等によるたんの吸引や経管栄養等の医行為については,当面やむを得ず必要な措置(実質的違法性阻却)として法的に不安定な状況下で実施されてきたが,本年六月,社会福祉士及び介護福祉士法の改正が行われ,研修を受けた介護職員等にこうした医行為実施が認められることとなった.
 この件は,昨年度より「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」において法整備の検討を行っていたが,試行事業結果の検証が済んでいないまま性急に法改正が行われたことで,利用者及び介護従事者の安全と安心を担保するには程遠い,誠に遺憾な内容となっている.
 厚生労働省は,今回の法整備を現場の実態に即したとしているが,試行事業の結果から,特養入所者など「不特定多数の者」では「人工呼吸器装着のたん吸引」のケースがほとんどなく,十分な実地研修が出来なかったことが判明した.七月に開催した検討会で示された対象行為や研修カリキュラム等の厚生労働省令案は,障害者などの「特定の者」については個人のニーズに合わせて重点的に実地研修を行うため特に問題ないが,「不特定多数の者」については,「人工呼吸器装着のたん吸引」等の実地研修の機会を確保することが出来ない状況から,新カリキュラムで養成予定の介護福祉士は実地研修未修で国家試験を受験することになるなど,検証結果を待たず法改正したことにより,養成体系への矛盾が生じることとなった.
 そもそも事例が少ないのであれば,本人や家族,主治医,看護・介護職などの連携の下にケアマネジメントを適切に行えば,医行為が可能な施設や訪問看護などで対応出来るのではないか.ケアマネジメントがなおざりなまま医行為を介護職に行わせるというのは,「安い」費用で済ませようとする意図が感じられ,介護保険の理念からみて本末転倒といわざるを得ない.こうした状況では安全性の確保が出来るとは到底考えられず,現場での混乱が生じることは明白である.
 また,新介護福祉士とその他の介護職の実地研修修了の認定方法について,省令案では異なる仕組みが示されたが,質の標準化の観点から,全て都道府県知事が責任を持って認定するシステムとすべきであると考える.
 省令案は八月にパブリックコメントが行われ,その後公布となる予定であるが,厚労省には,現場のニーズと安全性を踏まえた内容の再考を望むとともに,日医でもその行方を注視していく所存である.

(常任理事・三上裕司)

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