日医ニュース
日医ニュース目次 第1204号(平成23年11月5日)

第125回日本医師会臨時代議員会
国民皆保険の根幹を揺るがす「受診時定額負担」「TPP参加問題」に反対意見相次ぐ

 第125回日本医師会臨時代議員会が10月23日,日医会館大講堂で開催された.
 当日は,選挙管理委員会を設置することに伴う日本医師会定款施行細則の一部改正など三議案が可決成立した他,代議員から出されたさまざまな質問・要望に対して,執行部から回答を行った(別記事12,詳細は『日医雑誌』12月号の別冊参照).

第125回日本医師会臨時代議員会/国民皆保険の根幹を揺るがす「受診時定額負担」「TPP参加問題」に反対意見相次ぐ(写真) 午前九時三十分,石川育成代議員会議長の開会宣言,あいさつの後,議席の指定,定足数の確認,議事録署名人二名の指名と議事運営委員会委員八名の紹介が行われた.
 次に,原中勝征会長が別掲のとおり,あいさつ別記事参照.つづいて,横倉義武副会長が平成二十三年四月以降の会務概要を報告し,議事に移った.
 まず,第一号議案「平成二十二年度日本医師会決算の件」について,羽生田俊副会長が提案理由を説明.その後,三宅直樹財務委員長より,財務委員会(十月二十二日開催)での審議結果の報告がなされ,賛成多数で可決した.引き続き,第二号議案「日本医師会定款施行細則一部改正の件」,第三号議案「日本医師会代議員会議事規則一部改正の件」が一括上程され,羽生田副会長が,「会長選挙制度に関する検討委員会の答申を踏まえて,選挙管理委員会を設置することに伴い,定款施行細則及び代議員会議事規則の一部改正を行うこととした.また,会長選挙の当選者は有効投票総数の二分の一以上の得票を得る必要があると改めた他,役員選挙の候補者の所信等を日医ホームページに掲載出来るようになる」と説明.審議の結果,いずれも賛成多数で可決した.
 その後,代表質問と個人質問に移った.

代表質問

 (一)改めて国民皆保険制度の意義を考えよう
 近藤太郎代議員(東京ブロック)の国民皆保険制度の堅持を求める質問に対しては,原中会長が回答した.
 同会長は,まず,政府が提案している「受診時定額負担」導入について,現在,導入反対の署名運動を展開中であり,集まった署名は,国会に提出し,きちんと対応してもらうよう全力を傾け努力するとした.
 また,去る九月二十三日開催の国民医療推進協議会総会で,受診時定額負担導入や株式会社の参入に強く反対する決議を満場一致で採択したことを報告するとともに国民運動への更なる協力を要請した.
 同時改定については,前回の改定のように大病院が有利で診療所が不利となる条件を付けないよう強く求めているとした上で,今後も地域医療を守るためにきちんと話をしていきたいとした.
 更に,地域の医療体制については,有床診療所の再興を計画の中に入れるよう提案していることを報告した.
 (二)豊かな長寿社会を迎えるために─二〇二五年に向け医療・介護の更なる充実が求められる
 笠原眞代議員(中部ブロック)からの,豊かな長寿社会を構築するためにどのような医療政策等が必要であるのかを問う質問に,横倉義武副会長は,社会保障の財源は保険料の見直しや税制改革等によって確保すべきとの考えを示した上で,政府の「受診時定額負担」導入の提案は受け入れられるものではないとした.
 また,公的医療保険制度が将来にわたり持続可能であるためには,保険者の統合が不可欠であり,最終的には,保険者を一本化することが必要とした.
 「地域包括ケアシステム」については,急性期医療や在宅医療を支える「慢性期医療」や「地域一般病床」の充実が制度構築の両輪となるとの考えを示した上で,「在宅医療連絡協議会」を立ち上げ検討を始めたことを報告した.
 政府案の病床区分や,見込まれている病床数,介護サービス利用者数については,財政面からの削減ありきという考え方が前面にあるとし,日医として,これまでも各種審議会等でその問題点等を指摘してきていると説明した.
 (三)社会医療法人の認定要件について
 宮本慎一代議員(北海道ブロック)の,社会医療法人,特にへき地医療における認定要件についての質問に,羽生田副会長は,制度発足から四年が経過し,現行要件が適切かどうか改めて検討する場が必要との考えを示す一方で,要件を緩和した結果,必要以上に社会医療法人が増える事態につながる懸念も示した.
 同副会長は,要件の見直しがなされる場合には,へき地医療が改善され,そして,社会医療法人の医療機関が地域に根差し,公益性の高さと地域医療の実情の反映との両立が担保されたものでなければならないとし,厚労省に医療法人に特化した会議を改めて設ける必要があることを指摘した.要件の見直しの議論は救急医療等他の事業にも当然及ぶことになるが,その結果は,多くの社会医療法人の認定につながり,法人税非課税の社会医療法人と,それ以外の経営主体との間で大きな経営格差を生じる危険があり,慎重にならざるを得ないとした.
 更に,日医が,医療に関する税制に対する意見の中で,社会医療法人認定取消時の税制措置を要望していることも報告した.
 (四)もう一度問う!医療・介護同時改定について
 野田剛稔代議員(九州ブロック)の(1)同時改定延期の要請からどのような影響があったか(2)改定要望について(3)全面改定と部分改定が復旧,復興に与える影響への違い─についての質問には,中川俊男副会長が回答した.
 (1)については,中医協委員による被災地視察を実現させ,森田朗中医協会長から「通常の改定は出来ない」という発言を得た他,復興財源として,地域医療再生交付金,いわゆる再生基金が被災三県に上限の百二十億円を優先的に交付され,更に第三次補正予算で七百二十億円が積み増しされることを報告.日医の復興第一の姿勢こそが,野田佳彦総理の「診療報酬は基本的にマイナスはない」という発言をも引き出したと強調した.
 (2)については,十月十二日の定例記者会見で不合理な診療報酬項目を公表したことを説明した上で,今後も,項目については柔軟に見直していく考えを示した.
 (3)について日医の主張する部分改定とは,第一に実調の結果ありきとしないこと,第二に被災地の現状を鑑み,新たな人員配置基準を要件とする診療報酬項目を創設しないことにあるとの考えを示した上で,「同時全面改定見送りの要請は,見送ることが最大の目的ではなく,被災地の復興を確実なものとし,大震災前からの財務省の診療報酬本体引下げ圧力を跳ね返し,地域医療を再生させることだ」とした.
 (五)東日本大震災の経験を踏まえた今後の対応策,放射線に関する風評被害への取り組みについて
 東日本大震災の経験を踏まえた今後の対応策を問う星北斗代議員(東北ブロック)の質問には,横倉副会長が被災医療機関への支援は,診療報酬上の要件の緩和や地域医療再生基金や補助金による復興支援を実現させたとし,更に,三次補正予算では,地域医療再生基金への七百二十億円の積み増しという形で医療復興のための基金が計上されたことを報告.引き続き,柔軟な運用と民間医療機関への十分な配分を,厚労省に働き掛けていくとした.
 また,中央防災会議の下に新設された防災対策推進検討会議の委員に,原中会長が就任することになったことを報告.日医が国の防災行政に参画することで,災害発生前の体制から収束後の地域医療の再建に至るまで,各段階で対策の重要性を国に対して主張出来るようになるとした.
 原発災害については,被災者健康支援連絡協議会において実態調査と健康調査の体制整備等を国に求めた他,会内に放射線災害へのプロジェクト委員会を立ち上げ,福島県知事宛てにオールジャパンの原子力災害に対応するナショナルセンターの創設を要望したことを報告.今後も国民への啓発に取り組んでいく考えを示した.
 (六)医療の新生に向けて医師会を上げた国民運動を
 森洋一代議員(近畿ブロック)の(1)同時改定の見送り以外の戦略的取り組みの有無(2)受診時定額負担反対に向けた徹底的な国民運動展開(3)意識改革を通じた国民皆保険制度の堅持─を求める質問・要望には,中川副会長が回答.
 (1)については,被災地の医療機関は,施設基準,人員配置基準を満たすことが出来ず,医療経済実態調査のデータも医療現場の実情を反映するものではない中で,被災地に負担を強いる通常の改定は出来ないとの理由から,同時全面改定の見送りを要請したと説明.同時改定の見送りは,決して苦肉の策ではなく,冷静な情報分析を行った上で,被災地の復興,医療再生に全身全霊を捧げることこそ,医療再生にかける日医の思いを国民に示すことになるとの考えからの判断であり,一方で不合理な診療報酬項目については是正するとして,理解を求めた.
 また,(2)については,国民を巻き込む形でその導入に反対する運動に取り組んでいく決意を表明.(3)に関しては,日医が医療保険制度の一本化を提案していることに触れ,「これこそ,国民が一つの制度に加入し助け合って医療を守っていこうという国民の意識改革そのものを促すものだ」とし,今後もその実現に向けて,努力していく意向を示した.
 (七)日本の国民皆保険制度を維持するために
 笠井英夫代議員(中国四国ブロック)の日本の国民皆保険制度維持に関する質問には,原中会長が回答した.
 原中会長は,まず,本来の医療は,医師と患者の心の交流,人間的な結び付きであるとの考えを示し,「少子高齢化による将来の人口減,円高や産業空洞化による税収減等の中,医師としての倫理観や喜びを持つことが出来る環境が必要である」と述べた.
 また,国民健康保険の無保険者,保険料未納者等,必要な医療を受けられない国民が出てきている一方,大病院志向により医療資源が適正に配分出来ず,医師の過重労働につながっていると指摘.医療機能の分別を行った上で,受診者に方向性を示していくことが必要だとした.
 更に,同会長は無料で利用出来る救急車を例に挙げ,日本の医療費の安さが,医療そのものの軽視につながっているのではないかとの懸念を示しながらも,日本の素晴らしい医療制度を今後も維持していくための方策や,負担のあり方について,国民と共に考えていきたいとの決意を示した.
 (八)受診時定額負担の導入反対について
 田那村宏代議員(関東甲信越ブロック)の受診時定額負担の導入反対に関する日医の今後の方策を問う質問に対し,羽生田副会長は,まず,患者が受診する度に負担を求める「受診時定額負担」には,断固反対を貫き通す覚悟であると明言した.
 厚労省が,「受診時定額負担は保険免責制とは異なり,医療保険がカバーする病気の範囲は変わらない」と説明していることについても,詭弁であり,しかも自己負担額は保険免責制の場合よりも高くなると切り捨てた.
 また,定額負担は当初は百円であっても,いったん導入されてしまえば引き上げられていくことは明らかだとして,受診抑制による重篤化の危険性を指摘した.
 その上で,同副会長は,日医では公的医療保険の財源は,保険料と公費に求めるべきとして,保険料率の公平化,将来的な公的医療保険の全国一本化などを提言していると説明.実施中の署名運動や,衆参の全ての国会議員を対象としたアンケート調査の実施,十二月九日に日医会館で開催する「日本の医療を守るための総決起大会」等,国民医療推進協議会が展開する「日本の医療を守るための国民運動」への絶大なる支援と協力を依頼した.

個人質問

 (一)地方厚生局の適時調査について
 金井忠男代議員(埼玉県)の地方厚生局の適時調査についての質問には,鈴木邦彦常任理事が回答した.
 原則年一回,届出受理後六カ月以内を目途に行うとされている適時調査は,地方厚生局側の人員不足等により,病院で数年に一回,診療所ではほとんど行われていないのが現状で,それゆえに最大五年間分という不合理で過大な自主返還を求められるケースが頻発しているとの認識を示した.
 また,指導・監査と異なり,学術経験者としての都道府県医師会の立会いが規定されていないことを問題視.届出を行う医療機関が施設基準要件を確認するのは当然としながらも,通知の難解さによる解釈の誤りも多く,一概に医療機関のみの責任とは言い難いため,届出時に遡っての返還は厳しいとの見解を述べた.
 日医としては,調査の遅れの原因が地方厚生局側にあることを踏まえ,個別指導と同様に,自主返還を最大一年間までとするよう厚労省に申し入れているとし,「今後は,厚生局による十分な説明,施設基準の簡素化についても要望,対応していきたい」と述べた.
 (二)TPPへの参加反対を強力に
 田村瑞穗代議員(青森県)のTPP参加反対を訴えていくべきであるとの要望には,今村定臣常任理事が回答.
 同常任理事は,日医が昨年十二月一日の定例記者会見でTPPへの問題提起を行い,以後,一貫して参加に警鐘を鳴らしていることを説明した上で,TPPが例外のない貿易自由化を目指していることから,投資についての規制緩和により病院経営に外国資本の株式会社が参入し,労働分野の規制緩和により外国人医師などが流入する恐れがあることを指摘.株式会社は自由診療か混合診療の全面解禁を求めてくるとして,「日本の公的医療保険は,市場原理主義の下で,お金がないと医療を受けられないアメリカ型になる」と懸念した.
 更に,「政府は,混合診療の全面解禁や株式会社の参入は,TPPの議論になっていないとしているが,今後も議論にならない保障はない」として,今後もTPPへの参加に断固反対していく考えを示した.
 また,原中会長は,「他の分野にまで口を出すことは出来ないが,少なくとも医療に関しては除外するという項目を入れてもらわない限り,議論していなかったものが急に出される可能性がある.気を付けて行動したい」と述べた.
 (三)地域医療支援病院の承認要件の見直しについて
 中田康信代議員(北海道)の地域医療支援病院の承認要件の見直し議論の進捗状況を問う質問については,三上裕司常任理事が回答した.
 同常任理事は,七月六日の社会保障審議会医療部会で,横倉副会長が地域医療支援病院の現状と課題について意見を述べ,(1)かかりつけ医の支援という趣旨に沿って承認要件を見直すべき(2)承認要件を見直した上で,真に必要な病院機能に対してのみ診療報酬財源を投入すべき─との二点を提案したことを説明した.
 紹介率,逆紹介率については,「少なくとも新規の承認は,紹介率八〇%以上という要件に戻す方向で要求していきたい」とする一方,要件を戻すには紹介率の算定式における救急患者への配慮などの課題の解決も不可欠であるとの見解を示した.
 また,医師会代表が参加する運営委員会の機能強化や,在宅医療を行っている医療機関等への支援義務の充実の他,都道府県や地域特性に応じて独自の承認要件を付けられるような仕組みを考えていくとした.
 (四)新公益法人制度施行後の公益目的事業の存続について
 野田健一代議員(福岡県)の新公益法人制度下における医師会立共同利用施設の在り方に関する日医の見解を問う質問には,今村聡常任理事が回答.
 同常任理事は,医師会病院,健診・検査センター,訪問看護等の介護関連施設等,医師会の共同利用施設の運営については,「それぞれの共同利用施設の歴史,会員や地域に果たす役割,収支等を勘案して検討して頂く必要がある」と述べ,医師会病院の公的医療機関への位置付けなど,共同利用施設の運営に関する環境整備については,会内委員会の方針も踏まえて日医として取り組むとした.
 一方,今回の新公益法人制度改革については,医師会がこれまで実施してきたさまざまな健康維持・増進のための公益事業を,行政や地域住民に周知するチャンスだと強調し,日医としても医師会共同利用施設が住民に密着した地域医療提供の主軸を担っていることについて理解を求めていくとした.
 (五)看護教員養成講座の早期開講について
 清治邦夫代議員(山形県)からの,看護教員養成講座についての質問には,藤川謙二常任理事が回答した.
 同常任理事は,看護教員養成講習会の問題について,日医では,国が講習会の受講を規定するのであれば,各都道府県で開催出来る環境を整えるべきと主張しており,通信制の再開や受講期間の短縮を求めてきたと説明.厚労省「今後の看護教員の在り方に関する検討会報告書」では,日医の強い主張を受けて,eラーニング導入の検討が明記され,来年度予算概算要求に盛り込まれたと報告.eラーニング導入により,養成所に勤務しながらの学習が可能となるが,一定程度は集団研修が必要となるので,いかに負担を少なく出来るかが今後の課題だとした.
 更に同常任理事は,国に対して,深刻な看護職員不足にあえぐ現場の声を訴え,看護職員の確保に必要な施策を責任を持って行うよう求めていくと述べた.
 (六)「看護師不足対策について」
 橋本啓一代議員(埼玉県)からの看護師不足対策についての質問には,藤川常任理事が回答した.
 同常任理事は,診療報酬で看護職員数を偏重するあまり,看護職員争奪戦が起きている状況を問題視し,その例として看護職員数で評価される入院基本料等を取り上げ,「今後は,行われた医療の成果等で評価する方向があってしかるべき」と述べた.
 また,看護系大学卒業者の県内就業率が低く,地域の中小病院や診療所の看護職員確保にも役立っていない状況から,「医師会立養成校卒業の看護職員を増員させる政策に転換すべきである」と強調した.
 同常任理事は,また,「都道府県医師会看護問題担当理事連絡協議会」等を開催し,現場の意見を踏まえつつ,厚労省に対して,看護職員の「必要絶対数の確保」について危機感を持った対応を求めるとし,地域医師会にも,都道府県・市町村行政に対して,行政の責任で看護大学だけではなく養成所を開設することを働き掛けて欲しいと要望した.
 (七)「後期高齢者医療制度の廃止に伴う今後の保険制度について」
 猪飼剛代議員(滋賀県)からの,後期高齢者医療制度に関する質問については,保坂シゲリ常任理事が回答した.
 同常任理事は,昨年の厚労省「高齢者医療制度改革会議最終取りまとめ」では,後期高齢者医療制度のみを変更することになったが,政府案は,具体的に決まっていないとの見方を示し,日医としては,高齢者医療確保法の抜本的な見直しを目指しているとした.
 「予防保険」設立の提案については,適切な健診や予防接種等を公平に享受出来る制度は必要であるが,「保険」システムとしての運営には,(1)加入者によりリスクを分散する「保険」に馴染むかどうか(2)安定している状況とは言えない保険者財政の中で,全ての健診や予防接種を医療保険財源で賄うことには大きな問題がある─との理由から,慎重な検討が必要とした.
 更に同常任理事は,健診や予防接種等の十分な財源を確保するため,国民の理解を得ながら,さまざまな場面であらゆる方法を用いて力を尽くす意向を示した.
 (八)来春の診療報酬・介護報酬同時改定への対応について
 診療報酬・介護報酬同時改定への対応を問う碓井静照代議員(広島県)からの質問には,葉梨之紀常任理事が,まず,日医が全面改定は当面見送るべきとした理由について,「東日本大震災で被災した避難民も全国に散らばり,そのレセプト請求は全国から出されている」「被災三県(岩手,宮城,福島)では通常診療は依然として困難な状態にある」「福島県における原発事故はまだ収束に至っていない」等の現状を踏まえたためであると説明.その上で,同常任理事は,全面改定を見送る一方で,「通常診療に支障を来すような不合理な診療報酬項目は改善すべき」ということも求めていることを強調し,理解を求めた.
 (九)日医は医師を守る団体であることを明確にすべき
 加藤智栄代議員(山口県)からは,日医に対して,医師を守る団体であることを明確にすることで,会員を増やし,政治力をつけることで,(1)控除対象外消費税への対応(2)医療事故調査制度の創設─を実現して欲しいとの要望が出された.
 これに対し高杉敬久常任理事は,(1)については,勤務医にも理解を求め,その解消に向けて努力していく意向を表明した.
 また,(2)については,医療事故調査に関する検討委員会が本年六月に取りまとめた答申について,医療団体や全国医学部長病院長会議等に直接その趣旨を説明するとともに,都道府県及び郡市区医師会の担当理事を対象にアンケート調査を実施したことを報告.その集計結果を踏まえて,問題点等の精査を行った上で,創設に向けて第二次の委員会を組織することも考えていきたいとした.
 (十)JMATII,これからの被災地支援のあり方について
 尾治夫代議員(東京都)からは,これからの被災地支援のあり方について,日医が被災現場の医療ニードを的確に把握し,各都道府県に具体的な派遣要請をするようなシステム並びにそれを足掛かりとした全国的な医療支援システムの構築を求める意見が出された.
 これに対して,石井正三常任理事は,医療のコーディネイトは災害時であっても,行政との情報共有の下,基本的には医師会が県レベル,郡市区レベルで担うべきであり,被災した地域の都道府県医師会が災害対策本部の枢要な立場となり,かつ現地のコーディネーター機能を郡市区医師会長が原則担うことが重要だと指摘.その理念を全国に敷衍(ふえん)していくことで全国的な医療支援システムの実現にもつながっていくと考えており,厚労省の災害医療等のあり方に関する検討会や消防審議会等の公の場でその考えを主張していきたいとした.
 (十一)在宅医療をかかりつけ医でしっかりと実施出来る体制作りを
 八木幸夫代議員(鹿児島県)からの,(1)地域包括ケアの構築に向けた地域包括支援センターと在宅医療連携拠点(2)在宅,居宅,居住系施設等の取り扱い─に関する質問には,三上常任理事が答弁した.
 (1)では,各地域の特性に応じた地域包括ケアシステムの構築が求められる中,地域包括支援センターと在宅医療連携拠点の双方が,医療・介護のネットワーク作りのカギだとして,地域医師会が中心となり,これらの仕組みを利用して地域包括ケア構築に尽力して欲しいと要望.日医は,法制度や財政面での基盤を固めるべく,国に対し,各種審議会等で推進のための努力をしていくとした.
 (2)では,厚労省が提唱する,「サービス付き高齢者住宅」と「二十四時間定期巡回・随時対応サービス」等を組み合わせた仕組みでは,モラルハザードが予想されるとし,医療保険同様,移動コスト等を鑑み「高齢者の集住する場所」との見方で報酬の差をつける方法も主張していると説明した.
 (十二)医療保険制度改革について
 松本純一代議員(三重県)からの,医療保険制度改革に関する,(1)制度設計(2)先進医療─についての質問には,高杉常任理事が回答.
 (1)では,日医が昨年十一月,「現行制度の弾力的運用をしつつ,医療保険制度全体の方向性を検討」「現在の国保と協会けんぽを統合」「健保組合等を統合」「完全一本化」の四段階を経て公的医療保険制度を全国一本化することを提案したと説明.財源としては,第一に保険料改革,特に高所得者の応分負担,第二に消費税改革を含む公費を挙げ,新たな患者負担増は絶対に容認出来ないとした.
 (2)では,有効性,安全性が確認され,普遍的と認められた先進医療は,公的医療保険から給付されるべきであり,適正かつ速やかな保険収載に向け,国の審議会等での仕組みづくりに積極的に取り組むとした.更に,公的医療保険の財源は,保険料や公費に求めるべきとして,日医は受診時定額負担には断固反対し,現在の一部負担割合の引き下げも求めるとした.
 (十三)レセプトの縦覧点検について
 加藤雅通代議員(愛知県)の「レセプトの縦覧点検」についての提案には,鈴木常任理事が,初診料の留意事項通知を説明した上で,慢性疾患を決めてしまうことは,逆に,医師の裁量権を狭める恐れがあると指摘した.
 更に,支払基金が,本年四月より予定していた縦覧点検,突合点検については問題点が多く,実施が見合わされているが,今回指摘された件も,事前に診療,支払,公益の三者の話し合いに基づく合意が必要とした.
 支払基金は,縦覧点検,突合点検の実施を強く求めてきているが,日医としては,事前に想定される問題点の改善を改めて要望するとともに,決まったルールの概要,運用等については全会員に対して周知徹底を図りたいとの考えを示した.
 また,電子化にはメリットもあるが,機械的かつ画一的な審査等への注意深い対応が求められるとして,行き過ぎた内容については,支払基金の「苦情相談窓口」,各都道府県医師会,日医まで伝えて欲しいと要望した.
 (十四)医療における消費税問題について
 消費税率が段階的に引き上げられた場合の日医の考えを問う松家治道代議員(北海道)の質問には,今村(聡)常任理事が回答した.
 同常任理事は,現在の制度のままで税率が上がることは地域医療の崩壊につながるとの認識の下,毎年,税制要望の重点課題の一番目に消費税問題を挙げて要望を行っていることを説明した上で,「日医は税率が上がる時は,それが何%であっても,制度の抜本的な改正が必要であると考えている」と述べた.
 また,問題の解決のためには一般国民への理解・啓発も重要であることから,本年八月には市民公開セミナー「医療と消費税」を開催したことを報告.
 今後の対応については,会員に対して一層の情報提供を行うとした他,各代議員に対しては,地元選出の国会議員の理解を得るための働き掛けを求めた.
 (十五)個別指導の在り方について
 個別指導の在り方に関する吉沢浩志代議員(新潟県)の質問に対しては,鈴木常任理事が,集団的個別指導に関しては,(1)対象医療機関を選定する際の類型区分を時代にマッチしたものに改める(2)医師会のピア・レビューと連携した形に出来ないか(3)集団的個別指導後も継続して高点数であった場合の個別指導への連動の改善─等について厚労省と協議していることを報告し,合意に達したものから来年度中に順次改善していきたいとした.
 また,個別指導の対象となる保険医療機関の選定基準である「情報の提供」の問題に関しては,個別指導を実施するか否かは選定委員会で決定されることから,地方厚生局と都道府県医師会との信頼関係の構築が必要だと指摘.
 更に,情報の取り扱いについては,行政がプライバシーを保護した上で医療機関に納得出来る説明が出来ないか検討していきたいとした.
 (十六)都道府県医師会「災害時相互支援システム」の構築について
 JMAT事業を補完する,ブロックを超えた都道府県医師会の災害時相互支援システム構想の実現を求める田中良樹代議員(兵庫県)の質問には,石井常任理事が,来るべき大規模災害に備え組織的に迅速な対応を行うためには,都道府県医師会同士,あるいは医師会ブロック同士の協定に加えて,都道府県医師会と行政との協定が重要だと指摘した.
 今後については,JMAT活動の基礎的条件である,これらの協定内容の平準化を目指して,都道府県医師会を対象としたアンケート調査の結果も参考としながら,会内の救急災害医療対策委員会で検討を続けていくとした他,全国規模での医師会相互協定についても,中央防災会議への参画等,国の防災行政への関与を実現していく中で実現していきたいとした.
 最後に,原中会長,藤森宗徳代議員会副議長からの閉会あいさつが行われ,午後五時二十分に閉会となった.

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