日医ニュース
日医ニュース目次 第1204号(平成23年11月5日)

第125回 日本医師会臨時代議員会
会長あいさつ(要旨)
日本医師会会長 原中勝征

第125回 日本医師会臨時代議員会/会長あいさつ(要旨)/日本医師会会長 原中勝征(写真) 臨時代議員会の開催に先立ちまして一言ごあいさつ申し上げます.
 三月十一日に発生した東日本大震災に対しましては,発災直後からJMATを組織し対応させていただきましたが,会員の先生方には多大なるご協力をいただきました.この場をお借りして,深く感謝申し上げたいと思います.
 JMATでは,主に,災害急性期以降の災害医療,健康管理を支援してまいりましたが,七月十五日をもっていったん終了とし,現在はJMATIIという形で,被災地のニーズを聞きながら,現地における心のケア,診療・訪問診療,健康診断活動,予防接種などに主眼を置き,被災地の方々が健康な生活を送れるような支援を続けており,既に二百五チーム以上が現地に入られております.
 東日本大震災への対応につきましては,JMATの他,四月二十二日には,政府の被災者生活支援特別対策本部の要請を受けて,「被災者健康支援連絡協議会」を立ち上げました.この組織には,厚生労働省,総務省,内閣官房,文部科学省の関係省庁の方もオブザーバーとして参加していただき,被災地への支援のあり方等について検討を続けております.発足当初は七団体の構成団体でしたが,現在は日赤も含めて三十四団体が所属しております.これまで二回にわたって,福島第一原子力発電所事故への対応,地域医療体制再構築のための諸施策の実施,来るべき災害への対応等について政府に要望を行っております.
 七月二十七日には,私が総理官邸に赴き,菅直人首相(当時)に,会員の先生方はまさにボアンティアの精神で現地に赴かれ,被災地支援を行ったことを直接ご報告申し上げました.翌日には,枝野幸男官房長官(当時)にも同様のお話をし,お二人からは,今回の震災に対する医師会の対応に対する感謝の言葉をいただくとともに,政府として,医師会からの申し出について出来るだけ早く行動したいという返事をいただいております.
 また,会員の先生方始め多くの団体からは,総額十八億八千万円にも及ぶ義援金をいただきました.この浄財は,既に総額十七億六千万円あまりを岩手,宮城,福島,茨城,千葉各県医師会に対して送らせていただいておりまして,残りについては,現在,有意義に活用していただけるよう,配賦先,配賦額を検討しているところであります.

改定に当たり,財務省に三つの申し入れ

 次に,診療報酬の改定に関してですが,五月十九日,日医は,細川律夫厚労大臣(当時)に,福島第一原発事故の問題が収束していない中で,診療報酬の改定に向けた医療経済実態調査等を行うことには無理があるとして,五項目の申し入れを行いました.その中では,改定の見送りを求めるとともに,診療報酬の不合理な部分については,その見直しを行うべきだと主張させていただきました.それ以後も,執行部は政府与党との折衝を続けてまいりましたが,八月二十五日には,野田佳彦首相が,代表選挙に先立つ民主党の「あるべき社会保障と財源を考える会」の意見交換会の中で,基本的には医療費のマイナスはないと明言されました.また,最近,小宮山洋子厚労大臣も,医療費を上げたいと述べられております.このことは,私たちが一生懸命に政府与党に対して,医療費全体の底上げを図らなければ,地域医療は崩壊すると説明してきたことが少しずつ理解されてきた成果であると思っております.
 また,九月二十七日には,財務省主計局幹部が日医会館を訪れ,今度の診療報酬・介護報酬同時改定に当たる希望を尋ねられました.私たちは,(1)医療費の自然増を容認して欲しい(2)ネットによるプラス改定を実施して欲しい(3)入院と外来の比率をあらかじめ決めることはせず,中医協の議論に任せて欲しい─と申し上げました.今まで財務省から,改定に当たって,日医に意見を聞きに来るというのはなかったことで,私たちの意見が財務省に直接通る機会があったということは大変な進歩だと思います.
 診療報酬改定に関連しまして,中医協委員の問題についても述べさせていただきます.
 中医協は発足以来,医師を代表する委員は五名とも日医の推薦に基づき選ばれてきました.ところが,日本歯科医師会の委員による汚職問題を受け,「中医協の在り方に関する有識者会議」が開かれ,医師を代表する五人の委員のうち二名は病院団体から出すことが決定されました.しかし,当時の尾辻秀久厚労大臣がどういう選び方をするにしても,推薦は日医からとされ,これまできていたわけでございますが,民主党政権の発足時に,中医協委員から日医の役員が外されるという事態が起きてしまいました.
 これは,医師会に対する理解不足から起きたことであると思われますが,大変由々しき問題でありました.医師会は,人が生まれてから死ぬまで,いろいろな節目で,人に関わる仕事をしております.また,開業医の先生だけではなく,会員の半数以上が勤務医であり,医師会が医師を代表する唯一の団体なのです.われわれは,政権与党に対し,これらのさまざまな活動を理解してもらうべく,引き続き努力してまいる所存です.
 現政権の医療政策とわれわれのスタンスの問題ですが,自民党時代は部会政治というのがございましたので,一人の意見が必ずしも通るというわけではなかったと思います.ところが民主党政権はまだ政権慣れしていないということもあるのか,特定の強い意見あるいは特定の強い性格の政治家の意見がそのまま党としての意見として出されることがあり,そのことを少し不安視しておりました.しかし,この頃は,私たち執行部と話し合う機会も多くなり,特に医系議員や衆参両党厚生労働委員の先生方とは,日医の理念や取り組みを理解していただくような話し合いを続けております.

受診時定額負担,TPP問題は最重要課題

 次に昨今の最重要課題についてですが,受診時定額負担の問題とTPPの問題が挙げられます.
 受診時定額負担の導入の問題は高額療養費の患者負担軽減策として,税と社会保障の一体改革の中に示されたものですが,患者さんに更なる負担を強いるということは,国民皆保険制度を揺るがす大問題だと考えております.高額療養費の患者負担軽減策を行うことには賛成ですが,その財源は保険料等の見直し等で捻出すべきです.この問題につきましては,現在,その導入に反対する署名活動を実施している他,十二月九日には,日医会館で国民集会「日本の医療を守るための総決起大会」を開催する予定としております.先生方には何卒ご協力のほどお願いいたします.
 TPPの問題につきましては,医療の部分がこのまま施行されますと,私たちが死守している国民皆保険は崩れてしまい,所得によって受けられる医療に格差が生じる社会が生まれてしまうと考えております.このことは隣国の韓国の例を見ても明らかです.先日,藤村修官房長官からは,医療は別とするという発言がございましたが,私たちはこの問題を真剣に考えていきたいと思います.私たちの国民を守りたいという気持ちはTPP推進者であっても,理解していただけるものと考えており,今後も国の動きを注視しつつ,その反対運動を続けてまいります.
 自民党政権時には,経済主義本位の人たちの意見が,国会議員以上の力をもってまかり通っていたわけでございます.私は政権交代をするしかこの国を救う道はないと考え,後期高齢者医療制度の創設という彼らの政策に真っ向から反対することによって,民主党政権を誕生させました.私は,今後もモノからヒトへという政策を掲げ,人を大切にするという政権与党の政策を信じ,これからも社会保障を取り巻く諸問題を一緒に考えながら歩んでいきたいと思っており,十月六日に野田佳彦首相にお会いしたときにその気持ちを直接お伝えいたしました.
 国民を守るという医師としての生命倫理を基調とした医師会活動を今後とも続けていくためには,先生方のご協力が不可欠です.今後ともどうぞご指導・ご協力のほどをお願いいたします.本日はどうもありがとうございました.

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