日医ニュース
日医ニュース目次 第1210号(平成24年2月5日)

「社会保障・税に関わる番号制度」について

 政府は,社会保障と税の一体改革を実現するための手段として,「社会保障・税に関わる番号制度」の導入を検討しています.そこで,今号では,この制度が医療者・医療機関にとってどのような影響があるのか,また,今後の日医の取り組みなどについて解説します.

Q.政府の考える制度の具体的な活用法は?
A.例えば,「納税者番号として活用することで正確な所得・資産の把握をして,所得比例年金や給付付き税額控除制度の実現を図る」「長期にわたって個人を特定することで年金記録の管理を行う」「医療保険における記号・番号として活用することで過誤調整事務の負担軽減等を実現するための基盤にする」などを考えています.

Q.どこで検討されてきたのでしょうか?
A.もともとは,民主党が政権を取った後に設置された国家戦略室で検討されていました.その後,「政府・与党社会保障改革検討本部」の設置に伴い,「番号制度創設推進本部」が設けられ,具体的な中身に関しては,「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」で検討が進められています.

Q.どこまで検討が進んでいるのですか?
A.まず,平成22年6月29日に国家戦略室が「中間取りまとめ」を公開して以降,実務検討会で「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会中間整理」(平成22年12月3日),「社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針(案)」(平成23年1月28日,同1月31日検討本部決定),「社会保障・税番号要綱」(平成23年4月28日),「社会保障・税番号大綱(案)」(平成23年6月28日,同6月30日検討本部決定)と矢継ぎ早に方針が示されています.ちなみに,検討本部が大綱を決定した同じ日に,一般公募の結果として「番号」の名称を「マイナンバー」とすることが発表されています.

Q.今後のスケジュールは?
A.一番最近開催された第14回実務検討会(平成23年12月16日)に資料として出されたロードマップ案(別掲)よると「マイナンバー法案」を平成24年通常国会に提出するとしており,番号の利用開始は平成27年からとなっています.また,医療分野に関しては平成25年に「特別法案」を提出することとしていて,「医療等の分野の機微性の高い個人情報について特段の措置を検討」することになっています.また,利用開始までに委員任命に当たって,国会の同意が必要な三条委員会型の第三者機関を内閣府に設置して,罰則の強化で抑止力を向上させるとしています.
 平成27年の利用開始時には,社会保障分野では「年金に関する相談・照会」,税分野では「申告書・法定調書等への記載」等を想定しています.更に,平成28年からは,情報連携基盤と言われるものを用いて,番号個人情報の授受を開始することになっています.
「社会保障・税に関わる番号制度」について(図)

Q.医療者・医療機関にとっての影響は?
A.医療分野に関しては,まず,医療保険者における手続きで利用開始としていることから,例えば保険者間における過誤調整事務での利用が想定されます.この中には,医療保険の資格喪失に伴う受診も含まれることから,医療機関の窓口において非保険者資格の即時確認を行うことが出来るかも知れません.また,将来的には,地域医療連携における患者番号として,医療情報の連携時の患者特定に活用することが出来るかも知れません.
 このように便利になる側面もありますが,この制度には個人情報の漏洩という大きなリスクがあります.この番号を利用するには,IT技術の利用が不可欠です.つまり,情報システムを用いて患者の情報を管理することになり,コンピュータウイルスへの感染,不正侵入,番号の不正利用等が起こると,番号から紐付いて,患者個人のあらゆる情報が漏洩しかねないリスクを背負います.
 また,今回のこの番号は,社会保障と税に関わる番号となっています.負担・分担の公平性の確保の名目の下,個人の所得の多寡で医療に対する制限をかけることも不可能ではありません.つまり,一歩間違えばフリーアクセスの崩壊をも招きかねない制度なのです.

Q.これまでの日医の主張は?
A.最初に番号制度の姿を描いた国家戦略室の中間取りまとめでは,番号の利用範囲をA案(税務分野のみで利用),B案〔更にB-1案(A案に加えて社会保障の現金給付に利用)とB-2案(更に現物給付を含む社会保障情報サービスに利用)に細分化〕,C案(A案,B案も含めて幅広い行政分野で利用)と3パターンに分けていました.
 このため,日医としては,個人情報保護,患者のプライバシーへの配慮,フリーアクセスの堅持の視点から,活用してもB-1案までの利用に留め,それ以上での利用に関しては,法律の整備等,更なる環境整備が整い,国民的議論を行った上で,合意が取れた段階から利用範囲を広げて行くべきと主張していました.
 ところが,検討の場が実務者検討会に移管された後,初めて出された「中間整理」では,このB-1案,B-2案の区分がなくなり,B案としてまとめられた上で,現物給付や医療情報の連携にも利用するという方針となったため,その後の政府や民主党でのヒアリングや意見交換の場においては,繰り返し当初の現金給付までの範囲での利用にすべきと主張しています.

Q.今後の日医の取り組みは?
A.これまでの日医の主張の結果,いくつかの方向性が修正されました.まず,マイナンバー法案の提出の中で,医療分野に関しては特別法案を作るという点があります.これは,医療情報の機微性に鑑みて,きちんとした環境整備を実施すべきという主張が取り入れられた結果と言えます.また,制度の監視機関として第三者機関の設置も明記され,その設置形態が三条委員会(内閣からある程度独立した地位を持った委員会)になった点も成果の一つです.
 ただし,これらが方針として示されたからといって問題が解決出来たとは考えてはいません.例えば特別法に関しては,日医としても積極的にその内容について関与して行く必要があります.
 それ以外にも,例えば,オンライン請求義務化の時のように,非保険者資格確認を医療機関に義務化するようなことがないよう,また,受診抑制を招くような利用がないように等,番号制度が動き出すか否かにかかわらず,これまでと同様に十分な注意が必要と考えています.
 確かに,ずさんな個人特定と情報管理が招いた年金記録問題の教訓や医療のIT化等,避けて通れない時代の趨勢があるなかで,「番号」が全て否定されるものではありません.しかし,「番号」には光の部分だけでなく,影の部分もあり,そこから目を背けることなく,問題点と解決法を明示する必要があります.その影の部分が日本の医療分野や患者にとって不利益をもたらし,それを解決しないままに政府が番号制導入の推進を目指すのであれば,日医は断固として反対の立場を取ります.
 番号制度は,これから国会でも議論が開始されます.政治が不安定な中,どのような形になるかは不明確ですが,日医の主張は一貫していますので,今後ともご支援・ご協力のほどお願いいたします.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.