日医ニュース
日医ニュース目次 第1215号(平成24年4月20日)

平成24年度
日本医師会事業計画

 大きな傷跡と深い悲しみを残した東日本大震災から,一年が経過した.日医では,都道府県医師会のご協力の下,発災直後よりJMAT活動をはじめとする支援を行ってきたが,被災地域の復旧・復興は,いまだ道半ばと言わざるを得ない.被災された方々が生活と心の安寧を取り戻せるよう,今年度も医療を通じた被災地域の復興支援に,全力で取り組んでいく.
 未曾有の国難に見舞われ社会の絆を強く必要としている今こそ,持続可能な社会保障体制を確立していくことは,国家が負うべき当然の責務である.現在,高齢社会が進展するわが国の社会保障のあり方として,「社会保障と税の一体改革」の議論が進められている.必要な改革は進めていかなければならないが,同時に国際的に高い評価を得ている現行制度の良い面は継続しなければならない.
 そのため,一部の新自由主義者の主張する過度の規制改革や,国民皆保険を崩壊させかねないTPPをはじめとする国家間の経済協定の締結交渉では,経済格差による医療格差を生じさせないという,国民皆保険の精神を守ることを政府に強く求め,その保障が確約出来ない協定には断固反対する.
 そして,半世紀に亘り国民の生命と健康を守り続けてきた国民皆保険の意義と成果を検証し再評価を行い,将来に向かって制度が維持されるよう,国民や政府及び与野党に対し広く政策提言を行うとともに,高齢社会先進国として高齢化が進む世界に対し,社会保障のあり方を発信していく.
 過度の医療費抑制により崩壊が危惧された地域医療は,医療人の献身的な働きによりその機能はかろうじて保たれている.そうした状況を改善し,地域医療提供体制の拡充に向けて,適正な医療財源による医療費の確保と,控除対象外消費税等医療に関する税制のあり方について,政府関係各方面に強力に訴えていく.
 医療提供体制のあり方については,平成二十五年度を目途に,地域医療計画の見直しが検討されてきたが,各地域の医療資源はさまざまな違いがあるため,国は基本的な事項につき方針を定め,それぞれの地域が地域医師会を中心として主体的に取り組むべきである.
 これらの政策遂行が円滑に行われるためには,国民の生命と健康を預かるわれわれ医師が,医療現場の詳細な分析をエビデンスとした提言を,広く国民に発信し,社会保障を取り巻く諸問題の解決に向けて,政府と協働していくことが重要である.
 この協働の中で,政府が誤った政策をとるようなことがあれば,それを是正し,わが国を正しい方向へと導くことが肝要であり,そしてそれこそが,われわれ医師会の存立使命の一つであると確信する.
 そのためにも,日医,都道府県医師会並びに郡市区等医師会が相互に連携を深め,“医の倫理と国民のための医療”を共通の活動理念として一致団結し,国民にとって本当に必要な医療提供体制の実現を目指していく.
 以上のような基本的な認識に基づき,日本医師会は平成二十四年度事業計画として,各種会内委員会等の提言機能の充実と,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)の積極的活用はもちろんのこと,「医療政策の提案と実現」,「医の倫理の高揚と医療安全対策の推進」,「生涯教育の充実・推進」,「広報活動の強化・充実」,「地域医療提供体制の確立・再生」などの当面する重点課題について,全会員の強い結束・団結の下,地域に密着した医師会活動を基本として,その関連諸施策の推進を図る.また,日本医師会治験促進センター及び女性医師支援センターの運営についても,更なる充実・活用を図り,わが国の医学・医療の進歩発展並びに医療提供体制の拡充に尽くす.

重点課題

1.東日本大震災への対応

 被災地域の復興に当たっては,“まちづくり”の中心に医療提供体制を考慮することが重要であり,必要な提言を関係各方面に行っていく.
 また,被災した会員並びに医療機関の支援を通じて,被災地域における医療体制の再構築を図り,もって地域の復興に寄与していく.そのため,政府並びに関係各方面に対し,財政的支援並びに税制上の支援を引き続き要望していく.
 一方,医療支援を目的としたJMATIIの派遣や被災者健康支援連絡協議会の活動を通じて,多面的かつ継続的な支援策を講じていく.
 福島第一原子力発電所事故により,会員にも甚大な被害が発生しており,事故の終息や今後の見通しが不透明な中,東京電力及び関係各所に対し会員への損害賠償が適切かつ迅速に行われるよう,必要に応じ要望等を行う.
 また,福島第一原子力発電所事故に端を発する全国的な電力不足問題については,計画停電の実施に備え,地域医療提供体制の維持のための通電対象医療機関の拡大等も含め,関係省庁や電力会社に対し,全国の医療機関が医療提供に支障を来さぬよう求めていくとともに,都道府県医師会への情報提供に努める.

2.医療政策の提案と実現

 平成二十二年六月に閣議決定された「新成長戦略」の下,政府は,医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業として明確に位置づけた.これ以降,医療の営利産業化に向けた動きが急展開している.
 更に,日本の医療分野に市場原理の導入を求めてきた米国は,TPPにおいて,日本の公的医療保険を議論の対象とすることを示唆している.
 日医は,医療・介護には雇用創出効果はあるものの,経済成長の牽引産業としての役割を担わせることは誤りであり,それを期待した途端,医療・介護は営利産業化へ突き進むことになると苦言を呈してきた.
 規制制度改革やTPPの流れがこのままいくと,混合診療の全面解禁や株式会社の参入等,医療の市場化を容認する考えが広がり,公的給付範囲の縮小,所得によって受けられる医療に格差がある社会となることは明らかである.
 日医は,国民皆保険を堅持するという決意の下で,公的医療保険の給付範囲を拡充していくこと,すなわち全ての国民の医療を守ることを念頭に,これまで以上に,強い姿勢で政策提言を行っていく.
 そのため,医療現場の総力を結集し,エビデンスに基づいた医療政策を,直接政府そして与野党に提言していく.また,国民の理解を得るため,これまで以上に記者会見などを通じて広く情報を発信し続ける.
 そして,あるべき国民のための医療提供体制と医療保険制度の実現を目指す上での,中長期的な新たな「グランドデザイン」の作成を強力に推進していく.

3.医の倫理の高揚と医療安全対策の推進

 医療界の秩序と国民の医療に対する信頼を確保し,医学・医療を真に人類の幸福に寄与するものとするために,日医が独自に作成した『医の倫理綱領』及び『医師の職業倫理指針』を広く周知徹底し,より実践的な医の倫理の向上を図る.特に,医師の日常的自浄作用,患者の個人情報の保護,診療情報の提供については,医師の責務として一層の普及,定着を促進する.
 また,患者の安全確保と医療の質の向上を最優先課題として,医療安全確保対策,会員の倫理及び資質の向上を推進する.
 更に,医の倫理の高揚と医療安全対策の推進に向けて,既に各都道府県医師会や郡市区等医師会で実践している自浄作用活性化や倫理向上に向けた取り組みを支援するために,日医内の会員の倫理,医療安全,生涯教育等に係る委員会が連携し,定例的に情報発信・情報交換する場を設けるなどの支援策を引き続き検討し,実施する.

4.医師会の組織強化と勤務医活動の支援

 医師会は,わが国の医師を代表する唯一の団体である.折しも,新公益法人制度への移行を控えた変革の時期であり,新制度移行後も,医師会が医療界における強力なオピニオンリーダーとして存在感を持ち続けていくためには,医師会間の一層の連携強化と公益性の深化を図っていくことが必要不可欠である.
 そうした認識の下,日医が平成二十五年四月一日に公益社団法人に移行出来るよう,具体的な手続きに取り組んでいく.
 全国の医師会の新制度への移行支援に向けた取り組みとしては,ホームページ内の専用コーナーを用いた情報提供等を通じて,一層の連携を図っていく.
 一方,医師会の目的である国民医療の向上を図るためには,開業医や勤務医といった立場の違いを超えて,全ての医師が日医に結集するための方策が待たれる.
 そのため,病院団体や大学医師会等との一層の連携の下,臨床研修医も含めた勤務医の意見を広く吸い上げるための方策を講じる.
 また,勤務医の労働環境改善のため,プロジェクト委員会の開催や各都道府県医師会でのワークショップ研修会開催を支援し,勤務医の精神・身体両面の健康支援の推進についても,積極的に取り組む.
 更に,将来の日本の医療の担い手となる医学生に対し,情報提供等を通じた支援を行う.
 その他,女性医師の医師会活動参加を促進するため,会内委員会への女性医師の積極的な登用を図るとともに,女性医師への就労支援策等について,引き続き取り組んでいく.

5.生涯教育の充実・推進

 医師の生涯教育は,医療の質の向上,患者の安全確保の上からも最重要課題となっている.
 日本医師会生涯教育制度は,創設されてから二十五年が経過し,これまで数次にわたる制度改正を行い,その質的向上と充実を図ってきたが,国民は,常に医師が不断に学習する姿を目に見える形で求めている.
 医師が生涯教育に取り組む姿勢をより明確に示すことで,医療に対する国民の信頼感が高まるとともに,医療連携など医療提供体制の充実にもつながるものと思われる.こうした社会的要請に応えていくためにも,平成二十二年度に『日本医師会生涯教育カリキュラム〈二〇〇九〉』に基づく改正を実施した日本医師会生涯教育制度について,多くの医師が日本医師会生涯教育認定証を取得出来るよう広く周知し,制度の定着を図る.
 併せて,より多くの会員が生涯学習に参加出来るよう,日医雑誌の生涯教育「問題解答」やe─ラーニングの充実など,引き続き履修環境の整備に努める.
 また,本制度は医師全体を対象としていることから,ホームページなどを通じて広報し,日医に未加入の医師から申告がある場合にも,会員と同様の対応を行う.
 なお,都道府県医師会,郡市区等医師会が一括申告を行う場合,引き続き事務手続き軽減のための支援ソフトを配布し,申告の円滑化を図る.
 平成十五年度より実施している臨床研修制度における「指導医のための教育ワークショップ」を引き続き日医主催で二回実施する他,都道府県医師会が開催する「指導医のための教育ワークショップ」についても支援を行っていく.

6.日本医学会とのさらなる連携の強化

 日医と日本医学会が相携え,わが国の医学・医術の更なる発展に貢献するとともに安心・安全で良質な医療の確保と推進を目指す.日本医学会が主催するシンポジウム,公開フォーラム等に積極的な支援を行う.
 また,社会性の高い問題に当たっては,緊密な連携の下に適正な対応を図る.
 更に,日本医学会を通じ,各学会員に医師会活動の啓発を行うことで,相互連携の強化を図る.

7.医療分野におけるIT化の推進

 ORCAと共に,医療事務,介護,特定健診,認証局など医療のIT化に関わる各々の分野において,平成二十三年度に医療IT委員会によって具体的な方向性が示された.その中では,セキュリティ基盤の確保として,日医認証局の活用推進,ORCAプロジェクトの維持管理及び一層拡大したユーザーの要望に応える体制の維持可能性を確保するために,協力費の徴収等に関する提言がなされている.本提言を参考にしつつ,今後は次の展開に向けた更なる普及と開発に向けた取り組みを行う.
 また,医療分野におけるIT化に関しては,内閣官房をはじめとしてさまざまな提案がなされているが,これらが,管理医療・医療費抑制の手段として拙速に進められないよう,医療提供者としての立場から,真に国民の医療にとって有益なITはいかなるものなのか,具体的な提言を行い,対策を講じていく. 

8.広報活動の強化・充実

 日医の主張や見解を国民に浸透させるとともに,イメージアップ戦略の一環として開始したテレビCMを用いた広報活動により,徐々にではあるが国民の日医に対する認知度は高まりつつある.
 今後はより多くの国民に日医を更にイメージアップしてもらうため,媒体をテレビCMだけではなく,他の方策も含めた戦略を考えていく.新聞への意見広告については,これまで通り必要に応じて行っていくが,国民の目に触れる機会を増やすことも必要と考え,平成二十三年度に引き続き,一面を使った広告のみならず,囲み広告等についても行っていく.
 定例記者会見については,原則,毎週開催することでマスメディアとの関係構築に努めるとともに,その内容を日医ニュース,白クマ通信,動画配信を含めたホームページなどを通じて,会員だけでなく,国民にも伝え,その理解を深めていく.
 また,若手記者(一般紙・業界紙)を中心に,医療に関わる諸問題への理解を深めることを目的に,定期的なランチミーティングを引き続き行うこととする.
 これら既存の広報手段の充実とともに,BS朝日で放映中の日医提供番組「鳥越俊太郎 医療の現場!」についても,質の向上を図っていく.
 更に,「テレビ健康講座 ふれあい健康ネットワーク」では,都道府県医師会の協力の下,その意向を踏まえながら,医師会活動の紹介を通じて,地域住民の健康増進に努める番組づくりを行っていく.
 日医ホームページは,Webサイト評価に基づき,トップページをはじめ,システムを含む大々的なリニューアルを行った.今後は,各コンテンツの検証,更新頻度など,会内横断的に進めていく.ホームページをいかに見てもらうかに関しても,「国民に向けた発信」を主眼に,日医の活動や主張を分かりやすく伝え,理解を得られるよう検討するとともに,検索サイト等の情報を基にアクセス数の拡大に向けた努力を行う.また,会員との情報共有化を図るため,各種講習会,シンポジウム等の映像を可能な範囲で配信していく.
 都道府県医師会に対しては,都道府県医師会宛て文書管理システムやメーリングリスト,平成二十一年末にシステムを刷新したTV会議システムなどの更なる活用により,双方向かつ速やかな情報交換を円滑に行っていく.

9.国際活動の推進

 グローバル・ヘルスを国際活動の主軸として推進するために国際機関や各国医師会との連携を深める.
 世界医師会(WMA)に対しては,理事国として引き続き積極的な提言を行っていく.
 アジア大洋州医師会連合(CMAAO)では,その事務局として,各国間の情報交換を活発にし,組織の活性化を支援していく.
 更に,国際保健検討委員会においては,災害対策を含め,国際的に共通する医療をめぐるさまざまな問題と共に,わが国の地域医療を国際保健の見地からも検討していく.
 武見国際保健プログラムに関しては,応募,選考などを含めて日医が主導的運営を行い,引き続きハーバード大学公衆衛生大学院との協力関係を維持していく.
 JMAジャーナルは,わが国の医療と日医の活動を世界に紹介する英文誌として,内容の更なる充実を目指す.

10.医療保険制度の充実に向けた取り組み

 平成二十二年十一月に公表した「国民の安心を約束する医療保険制度」実現に向けた取り組みを実行していく.
 また,次回診療報酬改定に向けて,まずは平成二十四年度に実施された診療報酬と介護報酬の同時改定の検証・評価を行った上で対応していく.
 今後の超高齢社会では,地域に密着した医療の充実が益々必要になることから,中小病院,有床診療所と共に,ワンストップサービスが可能な日本型診療所を活用し,入院や施設の利用も併用した日本型在宅医療がより一層推進されるよう,関係各部署間の連携を密にし,対応していく.
 指導,監査,施設基準の適時調査の運用の見直しについては,現場の混乱を縮小するために,引き続き厚生労働省当局と協議を行い,改善を図っていく.また,地方厚生(支)局間にある運用の差異についても是正するよう働き掛けを行っていく.

11.介護保険制度の充実に向けた取り組み

 介護保険については,地域医師会が地域支援事業,地域包括支援センターの運用及び地域包括ケアシステムの構築に向けて取り組みが開始出来るよう対処し,併せて,かかりつけの医師の認知症への対応力向上を推進し,認知症サポート医の活用に努める.
 また,平成二十四年度の診療報酬・介護報酬の同時改定後の報酬に関して,問題点等の検証作業を開始する.
 なお,高齢者医療や在宅療養に携わる医師を支援するため,在宅医療支援のための医師研修会を開催する予定である.

12.地域医療提供体制の確立・再生

○ 連携と継続の地域医療体制の再構築に向けた取り組み
 連携と継続の地域医療体制の再構築に向け,「五疾病五事業」や在宅医療に関する医療計画の改定,及び次期医療法改正などを踏まえ,地域医療を担う診療所・病院や在宅などの医療連携の更なる推進に向けた取り組みを進める.
 そして全ての国民への平等で良質なサービスの提供を目指して,地域における保健・医療・福祉の連携を推進し,「かかりつけ医機能」を中心に据えた,診療所や病院によって担われる地域医療の更なる充実を目指す.
 特に有床診療所は,地域住民の身近にあって,専門性の高い医療と緊急時の医療,在宅医療の後方支援など多様な役割・機能を担っている.地域の実情に合わせて柔軟に運営されており,その活用・強化とともに,その意義や重要性について情報発信していく.
○ 医師の偏在・不足の解消に向けた取り組み
 喫緊の国民的問題となっている医師の偏在・不足に対しては,地域における役割分担と連携の推進として,予防・急性期・回復期・慢性期・在宅等の切れ目のない医療体制,救急医療体制や多職種間連携等の推進を図る.
 また,地域間の広域連携,勤務医の就労環境の改善,ドクターバンク事業の推進,医師が安心して診療に従事出来る仕組みの確立,女性医師の離職防止・再就業支援等に向けた多岐にわたる対策を講ずる.更に,国の医師確保対策へ参画すると同時に,病院団体や大学等関係者との協議を併せて進めていく.
○ 救急災害医療の拡充に向けた取り組み
 救急災害医療については,初期・二次・三次救急医療体制及び後方体制の充実と地域連携の推進に加え,救急蘇生法,電話相談事業や受療行動に関する市民への普及啓発,周産期や小児の救急医療対策の推進,救急蘇生法の指針の改定への対応を含むACLS(二次救命処置)研修の推進,病院前救急医療(ドクターヘリ・ドクターカー)の拡充を図る.
 震災等の災害医療対策については,東日本大震災における活動結果を踏まえ,JMATの充実方策を更に検討し,体制整備を行う.また,情報通信における連携や国の防災行政における医療の位置付け強化に努める.
○ 公衆衛生の向上・少子化対策への取り組み
 わが国の予防接種行政の遅れを解消し,より多くの予防接種の定期接種化を実現するために予防接種法の改正を国に強く働きかけ,適切な予防接種体制の構築,新興・再興感染症等の感染症対策の全体の推進を図る.
 また,国の新型インフルエンザ行動計画並びにガイドラインの改正に合わせ,鳥インフルエンザ(H5N1)のような病原性の高い感染症への対策を積極的に検討する.
 少子化対策,児童虐待の防止,周産期医療の充実,乳幼児・母子保健対策,学校保健対策等「子ども支援日本医師会宣言」の更なる推進を図る.
 社会問題化している自殺への対応として,日医は精神保健福祉施策全般に対して積極的に関与するとともに,「かかりつけ医うつ病対応力向上研修会」の開催等を含め,会員に向けた自殺対策への取り組み,国民に向けた啓発活動を展開していく.併せて,地域医療計画に「精神疾患」が加えられたことを踏まえ,体制の整備,適切な運用等を検討し,国に働き掛けていく.
 更に,健康食品安全情報システムの展開等に努めるとともに,生活習慣病対策としては,平成二十五年度の特定健診・特定保健指導の制度見直しを見据え,真に国民のためのよりよい健診等の確立に取り組む.
 がん対策については,新たながん対策推進基本計画を踏まえたがん検診等の充実に取り組む.また,糖尿病対策及びCOPD対策については,それぞれ日本糖尿病対策推進会議,日本COPD対策推進会議との連携の下,国民への啓発,医療連携の推進に積極的に取り組む.その他,特定保健指導や日常診療における適切な運動指導の実施とともに,スポーツ基本法に則った安全で効果的な運動・スポーツの実践のため,健康スポーツ医活動の推進に取り組む.
○ 産業保健活動の推進
 小規模事業場の労働者の過重労働・メンタルヘルス対策のニーズの増加が今後予想されることから,労働者の健康保持増進を図るため,地域産業保健センター事業並びに産業保健推進センター・メンタルヘルス対策支援センター事業の円滑な実施に向け,産業保健委員会において,産業保健活動のあり方について検討を行い,環境整備に取り組む.
 また,産業保健活動推進全国会議を開催し,日医,厚生労働省,都道府県医師会等の関係団体の情報共有を図り,産業保健事業の推進に努める.
 更に,地域医療の中に確実に定着してきた日本医師会認定産業医制度のより一層の充実を図るために,産業医学講習会や研修会等の開催により,産業医の資質向上に努める.
○ 学童期前の保健と学校保健への取り組み
 学童期前の集団生活,特に保育園における保健医療のあり方について,乳幼児の心身の健全な育成を図るための施策の推進を図る.
 また,学校においては,児童生徒のインフルエンザの感染拡大をはじめとして,生活習慣病の若年化やアレルギー疾患の増加,メンタルヘルス,性の逸脱行動や薬物問題など,多様化・深刻化する諸問題への対応が求められていることから,地域医療の一環としての学校保健活動の推進を図る.
 更に,福島第一原子力発電所の放射線漏出事故による子どもへの健康影響について,文部科学省や独立行政法人放射線医学総合研究所等と協力しながら,学校医への教育機会の提供や,各種施策の提言等を行っていく.
○ 環境問題・医療廃棄物に係る取り組み
 環境問題に対しては,環境保健委員会を中心に,その活動の礎に「環境に関する日本医師会宣言」を据え,特に,小児の環境保健対策や医療機関における化学物質管理の推進,病院・診療所における二酸化炭素排出削減に向けた取り組みを推進するとともに,熱中症をはじめとする環境に起因する健康影響について,都道府県医師会への情報発信や医師の生涯教育に努める.
 医療機関から排出される廃棄物への対策については,在宅医療廃棄物や新興感染症等への対策を含め,「特別管理産業廃棄物管理責任者」資格取得講習会の推進等により地域医師会や医療機関を含めた体制整備に努め,環境の立場からも積極的に検討を行う.
○ 臨床検査精度管理調査の実施
 安全で質の高い医療を提供するためには信頼性の高い臨床検査が不可欠であることから,臨床検査の質の向上を図るため,臨床検査精度管理調査を実施するとともに報告会を開催する.また,参加施設の増加を図る.

13.医療関係職種等との連携及び資質の向上

 医療関係職種が担う業務の見直し,特に看護職員の業務範囲については,現行の保健師助産師看護師法の下で「診療の補助」としての業務を整理していくべきである.新たに厚労大臣による看護師の認証制度を創設し,「特定行為」を法令上に位置付けることは,実質的に一般看護職員の業務縮小,ひいては地域医療の崩壊につながることから,その必要はないことを引き続き主張し,看護職員全体の資質の向上に努める.また,医師によるメディカルコントロールの下で,他医療関係職種とのチーム医療を推進する.
 国が策定した第七次看護職員需給見通しは,必ずしも供給面が十分なものとは評価出来ない.適正な需給・配置バランスの確保,特に供給数の実現のためにも,看護職員の養成は,一義的に国の責任であることを基本とし,看護師等養成所運営費補助金の増額や各種規制の柔軟な運用を引き続き求めていく.また,かねてより要望していた専任教員の通信教育については,平成二十四年度厚生労働省予算にその導入に向けての費用が盛り込まれたことから,今後は,養成所や受講者本人の負担の少ない現実的な制度となるよう求めていく.
 今後とも准看護師養成制度を堅持し,准看護師・看護師等学校養成所に対する支援を行う.

14.医業税制と医業経営基盤の確立

 地域医療の維持・再生・確保には,そのインフラである医療機関の経営の安定・充実を図ることが重要であり,診療報酬が不十分である現在,予算措置だけではなく税制面からの支えは必須である.この基本認識の下,医業経営に関わる税制の他,地域医療確保に資する税制などについて検討を進める.とりわけ,事業税非課税措置・四段階制等については,その存続のため必要に応じデータ収集・分析等を行う.
 社会保険診療に対する事業税非課税措置については,政府税調において前年度に続き検討が行われる見込みである.医師の医療行為が適正に評価されずに診療報酬の抑制が続くなか,事業税非課税措置の見直しが行われれば,医療機関の経営を危ういものにし,延いては地域医療の衰退や崩壊を招くことから,その存続を引き続き要望する.
 四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置)についても,政府税調において検討が行われる見込みであり,開業直後や小規模医療機関及び零細・高齢医師による医療機関の事務負担軽減を通じ地域医療を支える制度として,引き続き存続を要望する.
 新制度医療法人への円滑な移行については,平成二十年度税制改正において日医が要望したが完全実現とはならず一定の課題を残しており,今後は移行の現状についての評価を行い,対応を検討する.
 医業税制にとっての最重要課題は,社会保険診療報酬等に対する消費税が非課税とされ診療報酬の手当て等の対応が不十分であるために,医療機関に多大な負担が発生している,いわゆる控除対象外消費税問題である.社会保障・税一体改革素案(平成二十四年一月六日閣議報告)において,日医が要望していた第二要望が部分的に実現し,非課税制度のまま,高額の投資に係る消費税負担に一定の手当てを行うなどの改善案が示されたものの,抜本的解決には程遠く,引き続き,仕入税額控除が可能かつ患者負担を増やさない制度となるよう,その実現に努める.
 なお,税制要望については,今後とも都道府県医師会,郡市区医師会との協力により,関係各方面に積極的に働きかけを行っていく.
 医業経営の安定化を図るため,緊急保証制度などについて,厚労省等から実態調査の協力依頼があった場合は,積極的に対応する.また,独立行政法人医療福祉機構は,医療機関にとって重要な政府系金融機関であることから,会員の利便性向上を働きかけるとともに連携を図る.なお,今後の医業経営に関する情報収集のあり方について,日医独自の実態調査の必要性等について検討を行う.

15.日本医師会年金の運営強化と会員福祉施策の充実

 医師年金が,平成二十四年度に取り組むべき第一の課題は,いわゆる再改正保険業法に基づく,医師年金の認可特定保険業者申請手続きである.昨年五月に新業法が施行され,申請手続きの期限は平成二十五年十一月末となったが,医師年金としては,本年十月を目途に,主務官庁となる厚労省から特定保険業者の認可取得が出来るよう,申請の準備を進めていく.
 次に,年金の資産運用体制については,平成二十二年十月に全面的な見直しを実施したが,今年度も安定的かつ効率的な運用を心掛け,中・長期的な視点で,適切な資産配分や最適な運用機関選定などを継続的に検討していく.併せて,年金制度の運営・管理面においても,将来に亘って安定した制度運営を目指し,既述の申請準備と平行して,ガバナンスの充実,システム面の拡充,事務処理体制の強化などの検討を進める.
 普及推進については,再改正保険業法の施行並びに特定保険業者の認可がとれるまで,その活動を控えてきた.しかし,認可されたあかつきには,これまでの活動による効果の検証を踏まえ,新たなパンフレットの作成,ホームページ,白クマ通信,日医ニュース,日本医師会雑誌等を有効に活用して,効率的な普及促進を図る.
 全国医師国民健康保険組合連合会と定期協議を行い,医師国保がおかれている現状と諸課題に関し,意見交換を通じて共通認識を深める.
 また,全国医師協同組合連合会とも定期的に協議し,当面する共通課題での意見交換を行うとともに,医師協同組合のない地域での設立援助等について方途を探る.
 更に,全国の医師信用組合とも連携し,相互補完を図る.
 その他,会員(家族・従業員も含む)が,全国のホテルに特別割引価格で宿泊できるサービス等の拡充を図るとともに,ハンドブックを作成し周知を図る.

16.日本医師会医賠責保険事業の安定的運営

 本事業は,日医の社会的責任として行うものであり,医療事故紛争の適切な解決を通じ,医師と患者の信頼関係の構築に資することはもとより,会員相互の連帯の下に都道府県医師会との緊密な連携により,医療提供基盤の安定化に極めて有用に作用している.また,今日の高額賠償化の現状や管理者責任への備えに対し,「日医医賠責特約保険」の加入者の増加に努め,健全な制度運営と拡充を図る.

17.医療事故調査制度の創設について

 いわゆる診療関連死に伴う診療担当医の刑事処分のあり方に関する国における検討は,平成二十年度に厚労省が医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を示して以降,しばらく議論が頓挫していたが,平成二十三年八月に厚労省に設置された「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」において再開されている.
 一方,日医ではこの問題を継続的に検討し,平成二十三年六月には医療事故調査に関する検討委員会が「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」と題する報告書を原中勝征会長に答申した.その後,この報告書の内容について,日医から全ての都道府県医師会,郡市区医師会や医療関係団体,学会等を対象に意見収集等を行った.
 今後,日医では,それらの意見,提案を踏まえ,また,他の医療関連団体や学会等とも連携しつつ,報告書の提言を基本に,より具体的かつ精緻な制度の提言に向けて活動を進めていく.
 更に,あるべき医療事故調査制度の実現を視野に入れ,既に実施五年を過ぎた「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を運営する日本医療安全調査機構への財政面・運営面からの支援についても,各学会等と連携し,取り組んでいく.

18.日医総研の研究体制の充実強化

 日医総研は,国民に選択されるエビデンスに基づいた医療政策の企画・立案に努め,社会保障制度論,国民医療費動向などの中長期的な課題と併せ,短期的な政策課題に対応するための調査・研究体制を一層充実強化させた運営を行う.また,成果に応じた研究員の評価の実施に,なお一層努めるとともに,研究成果の会員への還元にも努める.
 ORCAプロジェクトは,その中核となる日医標準レセプトソフトの利用が一万医療機関を超えた.今年度は更なる普及を図るとともに,電子レセプトを使った点検の強化への対応,感染症サーベイランスなど医療機関の協力の下に収集したデータを使った,国民の目線に立つ医療政策提言に積極的な活用を図っていく.セキュリティ基盤の確保として,日医認証局の活用も併せて推進する.プロジェクトの維持管理及び一層拡大したユーザーの要望に応える体制の持続可能性を確保するために,協力費の徴収など具体的な方策を検討し,関係各部署との調整を図りながら進めていく.

19.治験促進センターの着実な運営

 治験促進センターは,医療上必須または革新的な医薬品等を国民に速やかに提供するため,医師主導治験の実施を支援し,科学的な証拠に基づく質の高い医療の提供に貢献する.また,わが国の治験を活性化するために,関連する環境整備として,大規模治験ネットワーク登録医療機関の更なる連携の強化,研修の提供,企業治験の機会の提供を行う.更に,国民に対して,医薬品等の治験及び臨床研究の普及啓発に努める.
 また,今後治験の実施を目指している地域医師会に対し,治験促進センターが得たノウハウ等を提供するとともに,効率的な治験の実施体制整備の構築を含め支援する.

20.女性医師支援センター事業(女性医師バンク)の運営

 平成十八年度より厚労省の委託事業として立ち上げられた医師再就業支援事業は,平成二十一年度,女性医師支援センター事業と名称を改め,女性医師の就業継続支援を主眼として,更なる事業の拡充を行ってきた.
 事業の中核である女性医師バンクにおいては,引き続き積極的な広報活動を行い,求職・求人登録者を増やすとともに,医師であるコーディネーターによる,従来からのきめの細かいコーディネート活動を通じて就業成立件数の増加を図る他,希望に応じて再研修実施施設の紹介や医療機関への再研修の委託なども行う.
 また,都道府県医師会における女性医師等相談窓口の設置・運営の支援や,各医師会主催の講習会等への託児サービス設置の補助,都道府県医師会等との共催による「女子医学生・研修医等をサポートするための会」の開催についても引き続き実施する.
 その他,女性医師が指導的立場に就くことを推進する施策として,女性会員が日医の組織・運営・活動に関わる理解を深め,将来日医の活動に参加していくことを目的として「『二〇二〇.三〇』推進懇話会」を開催する.

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