日医ニュース
日医ニュース目次 第1223号(平成24年8月20日)

勤務医のひろば

「震災と総合医」
岩手県立釜石病院長 遠藤秀彦

 東日本大震災から一年半が経とうとしているが,震災と総合医について考えてみた.
 当釜石医療圏では,今回の震災で半数以上の医療機関が機能低下または失った.釜石医療圏唯一の災害拠点病院である当院も建物被害を受けたため,入院規模を定床(二百七十二床)の約二〇%に落とした状態で,入院患者の転院搬送と救急患者の受け入れを行った.要請のあった救急患者さんを全例受け入れたものの,集中管理を要する重症患者さんは,内陸の病院へ緊急搬送(ヘリ,救急車,バス等)しなければならなかった.
 当院は十九名の常勤医で当地域の救急患者さんに対応しており,医局のモットーは「急患を断らない,断れない」で,震災後もこの精神は貫いた.
 今回,医療支援に入った医師からも,「いまだに,こんな少数の医師で救急を断らずに診療しながら疲弊感もなく,病院全体が明るく雰囲気も良い.こんな所で仕事をしてみたい」といった言葉を少なからず頂いた.
 実際,震災後に当院で常勤医として勤めた医師は三名おり(一名は六カ月間で退職),ぎりぎりの人数でやりくりしている当院にとっては救世主となっている.
 少ない医師数で救急患者さんを断ることなく受け入れ,患者さんの満足する医療を提供するには,医師全員が総合医的なマインドを持つことが必要だと思っている.
 震災時の医療も救急医療中心と思われがちであるが,避難所巡回診療や心のケアなど地域に溶け込んだ全人的な医療が必要であり,今回の震災でも現場で本当に役立ったのは総合医マインドを持った医師たちであった.
 この総合医マインドを持った医師こそが災害医療のみならず,医師不足,地域偏在,診療科偏在による地域医療崩壊を防ぐ切り札になると思う.

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