日医ニュース
日医ニュース目次 第1226号(平成24年10月5日)

羽生田副会長に聞く
准看護師の養成堅持の考えに変わりはない

 今号では,医療関係職種担当の羽生田俊副会長に,准看護師問題及び看護師特定能力認証制度問題に対する日医の見解を説明してもらった.

羽生田副会長に聞く/准看護師の養成堅持の考えに変わりはない(写真) 准看護師は看護婦養成の応急の対策を求める社会保障制度審議会の「社会保障制度に関する勧告」を受け,一九五一年に創設されたものであり,その後は,草創期を含め,地域医師会がその養成に大きな役割を果たし,その数を増やしてきました.
 現在では,准看護師養成所の閉鎖等によって,その数は減っているものの,約一万人が養成され,就業者数は約三十七万人(平成二十二年)に上っています.
 このような状況の中で,今年の六月,神奈川県知事が唐突に県立専門学校の准看護師課程の廃止や,医師会立の准看護師養成所に対する補助金の打ち切りを表明しました.
 これは,神奈川県が外部有識者を構成員として設置した「神奈川県における看護教育のあり方検討会」の第一次報告を踏まえたものとしていますが,神奈川県でこうした問題が出てきたのは,まさに知事自身の考えによるものであることは明らかです.
 ご承知の通り,知事はテレビキャスター時代から准看護師の養成を停止すべきという主張を繰り返してきました.知事は,平成八年の厚生省(当時)「准看護婦問題調査検討会報告書」の中の「二十一世紀初頭の早い段階を目途に,看護婦養成制度の統合に努めることを提言する」という一部分を取り上げて,「准看護師の養成停止が決まったにもかかわらず,日医の反対などにより実現されずに葬り去られた」としていますが,これは全くの事実誤認です.
 そもそも,その結論が導き出された将来予測は,「二十一世紀初頭の看護職員の需給の見通しでは,最近の看護大学,看護短期大学及び看護婦養成所の定員の伸長や育児休業制度や院内保育事業の充実等による看護職員の離職率の低下により,今後の介護ニーズの増大や看護職員の勤務条件の改善を見込んでも,看護職員全体の供給数が需要数をかなり上回ると見込まれる」というものです.今から見れば,その見通しは非常に甘かったと言わざるを得ません.そのような誤った予測の下に導き出された結論部分だけを取り出して,声高に准看護師養成停止を主張するのは看護職員不足問題をミスリードするだけです.
 しかも報告書には,「看護婦養成制度の統合に努めることを提言する」としつつも,「国において広く関係者と十分な協議を重ねながら具体的な検討を行うべきである.(略)また地域医療の現場に混乱を生じさせないようにすることが不可欠であり,国において,医療機関に看護職員を提供できる体制の整備に努めるべきである」ということもしっかり書かれているのです.
 それを踏まえ,当時問題とされた奨学金等の問題は改善されていますし,平成十年には厚生省に二つの検討会が設けられ,カリキュラムの時間数や専任教員の増加,通信制の二年課程も設置されるなどして,現在に至っているのです.

准看制度を廃止すれば,看護職の確保は一層困難に

 今では,准看護師課程は,社会人が看護職を志すための貴重なコースにもなっています.准看護師制度があったからこそ看護職の道に進んだ人もたくさんいます.看護職になる道の多様性を認めないというのであれば,看護職の確保は一層困難になります.
 神奈川県の人口十万人当たりの看護職員数を見てみますと七三六・八人と全国最下位であり,全国平均の一〇八九・二人を大きく下回っています.また,第七次需給見通しにおいては,平成二十三年に全国で五万六千人の不足が見込まれていますが,そのうち神奈川県は一万四千人の不足(常勤換算ベース)となっており,その数は全体の四分の一を占めています.このような状況下で,准看護師課程の廃止や補助金カットを打ち出すのは無謀であり,知事として県民に対して無責任であると言わざるを得ません.
 知事は,看護師課程に変更するだけとおっしゃっていますが,教員の増員や建物の物理的な問題もあり,そう簡単には看護師課程に変更出来るはずがありません.そして,もし准看課程から看護師課程に変更したとしても,卒業生が出るのは三年後ですので,その間には看護職員は輩出されません.また,働きながら学ぶことも出来なくなりますので,希望する人たちは逆に神奈川県から離れていくことになるのです.
 地域医療を担っている多くの中小病院,有床診療所においては准看護師が現場を支えており,介護施設等においても同様です.神奈川県の医療現場からも,准看護師なしでは成り立たないという声が上がっているのです.
 日医としては,地域医療を支える准看護師の養成を堅持する考えに変わりはなく,今後も各地域で継続して養成出来るよう,必要な環境整備を引き続き国に働き掛けて参ります.そして,准看護師あるいは准看護師を目指す方が不安を抱いたり,尊厳を傷つけられるようなことがないよう,准看護師が地域医療を支えているという事実をもっと理解して頂くような活動もしていく所存です.

厚労省はチーム医療の原点に立ち返るべき

 次に,看護師特定能力認証制度問題の現状についてお話ししたいと思います.
 厚生労働省は,昨年十一月の「看護師特定能力認証制度骨子案」に引き続き,今年の八月には「試案」を示しました.
 試案では,(一)保助看法上に「特定行為」に関する規定を設け(詳細は省令で規定),(二)研修を受けた看護師は包括的指示の下に特定行為を実施出来,(三)一般の看護師は一定の業務実施体制の下に具体的指示を受けて実施する─としており,基本的枠組みは骨子案と同様ですが,国が直接認証するのではなく,研修内容と研修機関を国が指定し,指定研修機関の研修を修了した旨を看護師籍に登録するとともに,登録証を交付するとしていることが骨子案とは異なっています.
 日医としては,これまで,「医療安全の観点から,医師がすべきことまで,看護師に業務拡大すべきではない」「医行為を法令上に細かく規定すれば,現場が大混乱し,かえってチーム医療を阻害する恐れがある」「判断や技術的難易度が高い行為を包括的指示で実施することは危険である」等と主張してきました.
 多くの現場のニーズは,医師がすべき行為まで診療の補助として認めて欲しいということではなく,比較的安全に実施出来る行為であっても,あいまいであるがゆえに不安を感じているということです.一般の医行為の範囲を示すことで,現場の不安は解消され,業務の連携・協働は進むと考えます.その上で,比較的高度な行為については,研修を行った後に医療安全に最大限配慮した上で実施するよう,ガイドライン等で示せば良いと考えています.実際,現場では現在も研修をした上で実施しています.研修については,各種専門学会等が協力してプログラムを作成し,修了証を交付すれば十分であると考えます.
 しかしながら,推進派が求めているのは,医師が行っていることを看護師が実施出来るようにする,そして難易度の高い行為も看護師が自律的に判断して実施出来るようにするというものです.
 現在,「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ」が行った医行為分類案について,関係団体,学会への意見募集が行われていますが,縫合やドレーンの抜去等が「特定行為」とされていますし,今回意見募集の対象から外されている「更に検討が必要」な行為の中にはもっと危険な行為が含まれています.例えば,「中心静脈カテーテルの挿入」「胸腔穿刺」などです.医学を知る者が常識的に考えれば「絶対的医行為」に分類すべきものを,なぜ「更に検討が必要」として残すのか.「特定行為」に分類したいという思惑が透けて見えるようです.このような危険な行為まで看護師が実施することなど,国民や患者さんは決して望んでいません.現場の看護師からも,不安の声が上がっています.
 このように,「チーム医療の推進」からスタートした議論は,別の方向に進んでしまっています.厚労省は来年の通常国会への法案提出を考えているようですが,もう一度「チーム医療」の原点に立ち返るべきです.日医は,これからも医療安全の観点を第一に主張していきたいと思います.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.