日医ニュース
日医ニュース目次 第1229号(平成24年11月20日)

視点

プロフェッショナル・オートノミーについて

 世界医師会(WMA)では,プロフェッショナル・オートノミーという言葉が,かかりつけ医や総合医という概念整理の中で,改めて注目されている.
 この言葉は,基本的な医師のあり方に触れたWMAの「マドリッド宣言」の中に,医師の職業規範を表す象徴として初めて記述されたものである.しかし,この宣言の中のいくつかの記述は,時代の変遷にそぐわない部分も指摘されるようになり,見直しの機運が生じたため,二〇〇七年のWMA中間理事会において論議が始められた.
 その際には,プロフェッショナル・オートノミーという基本的な概念についても,例えば,Clinical independenceやProfessionally-led regulationなど,分かりやすい別な言い方に変えようという考えが示され,それに賛成する人たちも少なくなかった.
 そもそも,オートノミーという概念は,カント哲学の「実践理性批判」において提言されたもので,その本旨は精神に内在する自律的な動きを重視したものである.それ故に,マドリッド宣言においても,Professional AutonomyとSelf-regulationは併置して記載されていたと考えられ,その見直しには強く反対の意見を申し上げた.
 この問題に関しては,更に,カナダ医師会のDr. Jeff Blackmarが中心となって,プロフェッショナル・オートノミーの概念の重要性を考慮し,その概念を一つの独立した文書とする動きが起こり,既存のマドリッド宣言をプロフェッショナル・オートノミーとそれ以外の要素の二つに分ける案が二〇〇八年のWMA中間理事会に提出された.
 これについても各国医師会からのコメントが交錯したが,Jeffや私などの努力の結果,理念としてのオートノミーの部分については切り離すことが了承され,二〇〇八年のWMAソウル総会において新たに「ソウル宣言二〇〇八」として採択された.残りの部分について作業部会を設置し,私が座長となって,オーストラリア,ウルグアイ,デンマーク,インドの委員で検討を継続し,実践的な面を記述した「WMAマドリッド宣言改訂版二〇〇九」としてまとめ,二〇〇九年のWMAインド総会にて採択された.
 医療にさまざまな強制力が行使された際に患者の被る不利益を想像すれば,最善の医療が眼前の患者に対して,強制によらず自律的な姿勢によって遂行される重要性は,広く理解して頂くことが可能だと考えられる.
 WMAにおける激しい討議の末に生き残ったオートノミーの概念についての理解が更に深まり,改めてわが国における今後の医療のあるべき姿の合意形成に有効に活用されることを願ってやまない.

(常任理事・石井正三)

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