日医ニュース
日医ニュース目次 第1239号(平成25年4月20日)

第128回日本医師会定例代議員会
国民にとって最良の保健・医療・福祉の実現に向け一層努力する─横倉会長

 第128回日本医師会定例代議員会が3月31日,日医会館大講堂で開催された.
 横倉義武会長は冒頭,次のようにあいさつし,広く国民の信頼を得られるよう,国民が本当に必要とする保健・医療・福祉の実現に向け,一層努力していく意向を示した.

第128回日本医師会定例代議員会/国民にとって最良の保健・医療・福祉の実現に向け一層努力する─横倉会長(写真)会長あいさつ

 本日は,第百二十八回日本医師会定例代議員会に,ご出席を頂き,誠にありがとうございます.
 また,日医の会務運営と諸事業にわたり,日頃からご理解とご支援を頂いておりますことに対し,厚く御礼申し上げます.
 本日の定例代議員会では,平成二十五年度日本医師会事業計画並びに予算を始めとする五つの議案について,ご審議頂く予定であります.慎重にご審議の上,何卒ご承認賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.
 さて,本代議員会の開催に当たり,若干の所感を申し上げたいと存じます.
 昨年四月に選出頂きましたわれわれ執行部は,皆様方のご支援の下,一年間にわたり会務を運営して参りました.

引き続き「継続と改革」を推進する

 会長職を拝命した当初,「継続と改革」「地域から国へ」をスローガンとして,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指すことを掲げました.
 「継続」とは,医師会設立の本意である「医師会は国民の生命と健康を守るために存在する専門家集団」として,実行し続けていくことです.すなわち,誰もが,いつでも,どこでも,良質な医療を受けることの出来る日本の医療制度を堅持していくこと,そして,その裏付けとなっている国民皆保険の崩壊を招くような政策に対しては,断固反対の姿勢を貫いていくという意味であります.
 そして,「改革」とは,非常に速いスピードで進行する医学・医療の進歩によって得られる恩恵を,国民が適切に享受出来るよう,新たな仕組みを提案し,政府にその実現を求めていくことであります.
 先日,安倍晋三内閣総理大臣は,TPP交渉参加を表明しました.日米首脳会談以降,安倍総理は国会答弁において,「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっておらず,国民皆保険を揺るがすことは絶対にない」と述べています.自民党の外交・経済連携調査会「TPP交渉参加に関する決議」においても,「守り抜くべき国益」として,国民皆保険と公的薬価制度を決議しています.
 日医としては,TPP交渉参加に当たり,国民皆保険を守ることを大前提に,「公的な医療給付範囲を将来にわたり維持すること」「混合診療を全面解禁しないこと」「営利企業を医療機関経営に参入させないこと」の三条件が守られるよう,安倍総理に対し直接,渡米前及び決定直前に申し入れを行いました.その他,マスコミを通じて繰り返し主張を行っているところであり,TPP参加により国益を損なう恐れがある場合には交渉からの撤退を強く主張しているところでもあります.今後も注視し,政府与党を始め,野党に対しても理解を求めていく考えであります.
 また,国が現在進めている「社会保障・税一体改革」や「日本再生戦略」についても,国民皆保険の崩壊や保険給付範囲の縮小に繋(つな)がらないよう,引き続き,その動向を注視して参ります.
 更に,社会保険診療報酬等に対する消費税が非課税であることにより,医療機関に多大な負担が発生している,いわゆる控除対象外消費税の問題については,今後一〇%までの消費税増税に併せて,抜本的解決に向け,仕入税額控除が可能で,かつ患者負担が増大しない制度設計に改めるよう,与党・政府税制調査会に対し強く要望して参ります.
 日医としては,「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険制度による国民皆保険は堅持出来る政策か」を政策の判断基準として,国の医療政策が誤った方向に進まないよう,引き続き「継続と改革」を推進して参ります.

「地域から国へ」の仕組みづくりを

 次に,「地域から国へ」という点についてですが,厚生行政においては多くの部分で,しかも細部にわたり国がその方針を決めています.しかし,医師・看護師の不足や偏在の問題など,その事情は地域ごとに異なります.そのため,地域の医療において何が必要で何が不要かを各地域で検証し,それが政府の政策に反映され,各地域にフィードバックされる制度にしていくことが重要です.「地域から国へ」とは,こうした仕組みづくりを意図したものであります.
 一昨年に発生いたしました東日本大震災から二年が経過しましたが,被災地における復旧・復興は,決して順調ではありません.日医はJMATを組織し,被災地域を除く全都道府県医師会の先生方のご協力により,強力な医療支援活動を展開して参りました.また,被災者健康支援連絡協議会等を通じて,社会的インフラとしての医療機関の再建支援を継続して行っているところであります.
 これらの活動を通じて学びました教訓は多岐にわたりますが,最も大事なことは,地域社会の復興にとって地域医療の存在は不可欠であり,医療のないところで人々が暮らしていくことは出来ないということであります.
 すなわち,地域医療提供体制とは,地域ごとに必要とされる医療を適切に提供していく仕組みであります.従って,四月からスタートする新たな地域医療計画では,都市の大きさ,人口の大小にかかわらず,地域でつくり上げ,地域で完結出来る,その特性を生かした地域医療計画を尊重すべきであります.
 そのためには,日医としても地域の現状を十分に把握出来る仕組みが必要になります.地域ごとの実情をくみ上げ,日医として支援すべき事項を政府・行政に提示していく.それにより,患者・医療提供者の双方に望ましい医療提供体制を,地域からつくり上げていくということを進めていかなければなりません.
 また,地域における医療・介護の提供体制については,これまでも会員各位のご尽力の下に,急性期から慢性期・回復期・地域の身近な通院先・在宅医療と,切れ目のない医療が提供され,国民の健康と安心を支えて参りました.しかし,超高齢社会に突入していく中では,「医療・介護の連携」という視点が欠かせないものになっており,その視点に立って,全体的な機能強化を進めていく必要があります.
 このような状況の下で医師会に期待される役割としては,医療現場の意見を集約して行政との折衝に臨むことはもちろん,各医療職団体並びに病院団体等との連携・協力の確保,住民・患者への啓発,医師に対する生涯教育,かかりつけ医機能の充実などが考えられます.
 既に医療・介護の連携に関しては先進的な取り組みを行っている地域の医師会が多々ありますので,そのような取り組みを参考としながら,各地域において,地域に合った連携体制の構築が出来るよう,日医としても支援・協力していきたいと考えています.
 地域医療の核である,かかりつけ医機能の充実についても,質の担保と向上は医師会が担うべき役割であります.生涯教育制度や各種講習会を通じた研修を推進し,国民が安心して頼れる「かかりつけ医」の地域への定着を一層図って参ります.
 医師不足と偏在解消については,後ほど,代議員のご質問への回答時にお話ししますが,「都道府県地域医療対策センター(仮称)」を行政・大学・医師会の協力により設置し,医師の生涯におけるキャリア形成支援を行っていく機関として位置付けてはどうかと考えています.その実現に向けて,全国医学部長病院長会議等,関係団体と意見交換を行いながら,まずは都道府県ごとの整備を進めていきたいと考えています.
 来年度も医師会員の総力を挙げて,「継続と改革」「地域から国へ」をスローガンに,多面的な取り組みを通じて,一日も早く「地域医療の再興」を果たし,国民が安心して生活していける社会を取り戻せるよう,鋭意努力して参ります.

医師会の理念を分かりやすい「綱領」に

 一方,これまで医師会が担ってきた地域医療への貢献や,会員の先生方のご協力による健康福祉への地道な取り組みについては,誠に残念ながら,国民の目には医師会の活動であるということが,なかなか見えていない状況であります.
 その原因を考えた時,医師会の理念として定款に掲げられた,「医道の高揚,医学及び医術の発達並びに公衆衛生の向上を図り,もって社会福祉を増進する」という概念が,国民,あるいは医師にとっても分かりにくく,具体的な活動を想像し難いためではないかとの思いに至りました.
 これを改善するためには,理念を分かりやすく捉え直し,国民や医師に対して広く発信していくことで,医師会が決して利益追求団体ではなく,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」として,認識頂けるようになるのではないかと考えました.
 こうした思いから,日医の理念や活動目標等を分かりやすく「綱領」のような形で策定することを目指して,会内に検討の場を設け,このほど,その成案を答申頂いたところです.
 医師会員のみならず,医療界全体の大同団結に向けた大きな拠り所になることを願い,次回六月に開催する代議員会で採択をお諮りする予定ですので,ご協力の程よろしくお願い申し上げます.

公益活動をより深化させる

 結びに,日医は,北里柴三郎博士を初代会長に頂き,一九一六年に設立されました.以来,約百年もの長きにわたり,国民誰もが過不足なく,良質な医療を受けられる社会づくりに貢献したいという想いを共有しながら,国民医療の向上に誠心誠意尽くして参りました.
 その成果の現れとして,創設後五十年を超えた国民皆保険の下,わが国は世界最高の健康水準を享受していると,国際的に高い評価を得るまでに至りました.その陰には,たゆまぬ熱意をもって,医師会活動に挺身(ていしん)されてこられた多くの先達のご努力があったことは言うまでもありません.
 平成九年に開催いたしました「日本医師会設立五十周年記念式典」の中で,天皇陛下より,地域医療の担い手である医師会会員の努力に対し,「国民の医療のために尽くしてきた努力を深く多とする」旨のお言葉を賜りましたことは,全ての医師会員にとって,大きな励みであり,今でも矜持(きょうじ)として心にとどめております.
 そもそも医師は,医療の公共性を重んじ,医療を通じて社会の発展に尽くさなければなりません.個々の患者に対する診療行為はもちろんのこと,地域住民全体の健康や,地域における公衆衛生の向上・増進にも協力する責任があります.
 この責任を果たすため,社会に対して有機的な活動を行うには,多くの医師の協働をもって,地域の特性に配慮した包括的な取り組みが必要であり,このことこそが,医師会の存立使命であり,歩んできた歴史そのものであると考えます.
 そして明日,日医は公益社団法人として,新たな歴史の一歩を踏み出します.
 これを契機に,国民医療の向上を願ってきた先達の想いを引き継ぎながら,「国民医療体制の確立」「安全な医療提供の推進」「保健活動を通じた国民の健康確保」「会員医療機関の経営の安定化」等を目的とした,さまざまな公益的活動を深化させて参ります.
 その上で,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」が,国民の生命と健康を守り続ける希望として,広く国民の信頼を得られるよう,国民が本当に必要とする保健・医療・福祉の実現に向け,一層の努力をして参ります.
 代議員各位におかれましても,更なるご理解とご支援を賜りますよう,切にお願い申し上げ,あいさつとさせて頂きます.
 ご清聴,ありがとうございました.

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