日医ニュース
日医ニュース目次 第1246号(平成25年8月5日)

視点

費用対効果評価導入について

 費用対効果評価導入については,平成二十四年度診療報酬改定の附帯意見を踏まえて,昨年四月二十五日の中医協総会で「費用対効果評価専門部会」の設置が決定され,同年五月二十五日より検討が開始された.
 当初,当時の厚生労働省事務局は,粒子線治療を念頭に置いて,次期平成二十六年度改定での試験的導入を目指したが,医療技術評価(HTA)という全く新しい概念を取り入れること,特に効果指標としての質調整生存年(QALY)に対して,これまでの自然科学としての議論に,社会科学を持ち込もうとする重大な問題があるにもかかわらず,拙速に議論を進めようとしていることへの批判が高まり,厚労省事務局の人事異動もあって,現在では,「次回改定ありきではないこと」を前提に議論を進めている.
 直近の平成二十五年六月二十六日を含めて,これまでに延べ十一回の部会が開催されており,少しずつ議論が進んできている.
 まず,費用対効果評価のみを導入しようとしていたことに対しては,イギリスの例を示して,費用対効果評価は経済的評価の一部であり,しかも,その前に臨床的評価,後に総意形成(総合的評価)が必要であることを主張し,そのような形で検討することになった.しかし,実証データだけでなく,仮想データも扱うことから,実際に医療技術評価を行う組織において,独立性,公平性,透明性が担保されることが必要であるとの主張に対しては,まだ明確な回答が得られていない.
 一方で,当初は医療技術評価の導入そのものに対する批判もあったが,最近では,がんに対する分子標的薬のように,効果が限定的でありながら著しく高価な薬剤などに対して,その価格を引き下げさせるためのツールとしての必要性は理解されてきている.
 更に,じっくり時間をかけて議論してきたために,その間にイギリス以外での状況が次第に明らかになってきている.特に,わが国と同様に社会保険制度を採用するドイツやフランスでの取り組みが参考になるのではないかと考えている.
 すなわち,ドイツではQALYを使用しないことを選択したが,その理由として,QALYでは高齢者が不利に扱われる可能性があり,高齢化の進むドイツでは,倫理的,方法論的な問題も含めて,社会的コンセンサスが得にくいことを挙げている.
 ドイツ以上に高齢化が進んでいるわが国においても,評価の高い既存の医療制度との整合性を取りつつ,国際的にも通用する仕組みの構築が望まれる.(常任理事・鈴木邦彦)

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