日医ニュース
日医ニュース目次 第1247号(平成25年8月20日)

平成25年度第1回都道府県医師会長協議会
規制緩和の名の下,公的医療保険制度が崩壊へ向かわないよう注視していくことを確認

 平成25年度の第1回目となる都道府県医師会長協議会が7月23日,日医会館大講堂で開催された.
 当日は,7県医師会から寄せられた質問・要望に各担当役員から回答した他,「一般社団法人医療安全全国共同行動の設立」「日本医師会電子認証センター」について,日医から説明を行った.

平成25年度第1回都道府県医師会長協議会/規制緩和の名の下,公的医療保険制度が崩壊へ向かわないよう注視していくことを確認(写真) 三上裕司常任理事の司会で開会.冒頭,あいさつに立った横倉義武会長は,初めに,七月二十一日に行われた参議院選挙で,羽生田俊副会長が約二十五万票を集め初当選したことについて,都道府県医師会の協力と支援に対する謝意を表明.その上で,今後は,特に,TPP交渉や経済財政諮問会議等,規制緩和の名の下に,公的医療保険制度が崩壊へと向かうことのないよう注視していくとともに,羽生田副会長始め,多くの医系議員を通じ,日医の主張が政策に適切に反映されるよう一層強い働き掛けを行っていく考えを示した.
 横倉会長は,また,医師会の組織強化についても言及し,その方策には,強制力をもったものから,既存の枠組みの範囲内で行えるものまであるが,いずれの方策にも関わる課題として,会員情報の管理やシステムの再構築があると指摘.日医としても,(1)入退会や異動情報の反映に約四十七日間のタイムラグがある(2)郡市区医師会や都道府県医師会のデータと互換性がない(3)各種調査を行うための基礎情報として使用する場合,相応の加工及び情報の追加が必要─等の解決のため,情報入力の短縮化について検討を行っていく意向を示すとともに,先の定例代議員会で承認された「日本医師会綱領」の周知徹底を図るため,現在作成中の掲示用ポスターの積極的な活用を求めた.

協議

(一)高齢者の住まいに関する諸問題について

 高齢者の住まいに関する諸問題についての静岡県医師会からの質問には,高杉敬久常任理事が回答.
 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)については,一般的な賃貸住宅に近い形態であるが,一定程度は医療が提供されている状況にあるとの認識を示した上で,「社会保障審議会介護給付費分科会において実態把握を求め,昨年八月に実施された調査では,約一割のサ高住に診療所が併設されていることが確認出来た」と述べた.
 その上で,同常任理事は,中医協においても指摘されているように,サ高住に関する不適切事例もあることから,静岡県医師会が実施する多職種連携ネットワークシステムの活用などを通じ,医療機関との連携体制を構築することが望ましいとした.
 更に,同常任理事は,五月に厚生労働省に設置された「都市部の高齢化対策に関する検討会」において,都市部高齢者の地方での受け入れについても検討されていることに触れ,移住先の医療・介護提供体制に関わる問題でもあることから,厚労省を通じて申し入れを行っていく姿勢を示した.

(二)「成育基本法(小児保健法)(仮称)」の成立に向けた日医の今後の具体的な取り組み方針について

 「成育基本法(小児保健法)(仮称)」の成立に向けた日医の今後の具体的な取り組み方針に関する鹿児島県医師会からの質問には,今村定臣常任理事が回答した.
 同常任理事は,平成十六年からの「小児保健法」を巡る検討経緯を概説した上で,制定に向け,当時の政権与党である自民・公明両党の国会議員に働き掛けを続けてきたものの,民主党への政権交代後は足踏み状態であったことを説明.しかし,その後も小児保健法制定を望む声は強いことから,今期の周産期・乳幼児保健検討委員会に検討を依頼し,より幅広く対象をとらえる「成育基本法(仮称)」として検討を重ねているとした.
 その上で,同常任理事は,「安心して女性が妊娠・出産し,親が子育てを行い,子どもが地域・社会の中で健やかに成長すること,そして,次の世代を生み出す健康な成人に育っていくことが保障される社会を形成することは極めて重要な国家的課題である」として,法制定に向けて改めて強力な働き掛けを行う考えを示すとともに,その実現に向けた協力を求めた.

(三)今,なぜ「日医主導の医療基本法」なのか

 医療基本法に関する兵庫県医師会からの質問には,今村常任理事が回答した.
 同常任理事は,医療基本法の制定について,「日医会内の医事法関係検討委員会の提言を受け,各地域でのシンポジウムを通じて会員の意見を聞いている段階であり,まだ執行部としての正式な方針を決めたわけではない」と前置きした上で,日医が制定を主導する理由については,医療を取り巻く法律の体系が複雑化しており,それらに共通する根本的な理念を定めた「親法」が必要であることを説明.
 現在,医療法がその役割を果たしているために,医療法改正の度に医療現場が大きな混乱を余儀なくされているとして,「医療法はあくまで施設基準,人員配置基準を定めることに限るべきであり,医療に関わる基本的な視点は医療基本法にこそ求めるべきだ」と強調した.
 一方,医療基本法がさまざまな立場や団体からも提言されていることから,実態が「患者の権利法」になってしまうことを危惧し,「バランスのとれた医療基本法のあるべき形を,医療提供者の代表である日医から示していくことが重要である」と述べた.

(四)リフィル処方箋(せん)について

 滋賀県医師会が示したリフィル処方箋導入への懸念については,鈴木邦彦常任理事が回答した.
 同常任理事は,まず,リフィル処方箋について,アメリカでは「医師の指示した回数内で反復利用可能な処方箋」と定義されているが,わが国では,厚労省の「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書に将来的な可能性としての記載があるだけで,具体的な定義も示されず,その後は検討もされていないと説明.
 その上で,同常任理事は長期処方のリスクとして,患者の病態変化への気づきが遅れる可能性を挙げ,医療安全の立場からは好ましくないと指摘.万一,国がリフィル処方箋の導入を推進しようとすることがあれば反対していくとするとともに,今後も患者の安全・安心を最優先する立場から,この問題に取り組んでいく考えを示した.

(五)日本の医療の将来に向けて今考えること

 奈良県医師会からの,日本の医療の将来に向けた提案には,石川広己常任理事が回答.
 「TPP」「日本医学会法人化」「専門医・総合医」等,現在の医療並びに医療界を取り巻く課題に対して,国民の命と健康を守る立場から,今後も適切な提案を行っていくとするとともに,特に,日本が交渉に参加したTPPについては,日本の医療制度に大きな影響をもたらす懸念があるとして,詳細な情報収集を含め,素早い対応をしていく考えを示した.
 また,同常任理事は,わが国の公的医療保険制度の三つの柱,すなわち「国民皆保険」「現物給付」「フリーアクセスの維持」が国民医療を守るための条件であることを改めて説明.今後も引き続き,社会保障財源を十分に確保し,地域の実情に応じて手厚く配分されるよう,政府・与党に対し働き掛けていくとして,理解を求めた.

(六)生活保護における医療扶助の抑制に関して

 生活保護における医療扶助の抑制に関して,日医の見解を問う秋田県医師会からの質問には,鈴木常任理事が回答した.
 同常任理事は,まず,更なる後発医薬品の使用促進のため,「医師が後発医薬品の使用を不可としていない場合,生活保護受給者は原則後発医薬品を使用する」という今回の国の取り組みについて,昨年度から実施した「後発医薬品をいったん服用することを促す取り組み」の検証が十分ではなく,医療の差別化とも捉えられかねないこと,やむを得ず生活保護受給者となっている方々への医療の制限とも受け取られる懸念があることを厚労省に指摘したことを報告.
 また,医療扶助の適正化については,一部,医療機関への重複受診や医薬品の横流し等の不正,不適正な受給が指摘されていることから,実態を踏まえた対策が必要であるとした上で,「適正化ばかり強調されると,生活保護受給者の生活を脅かすことにもなりかねない」として,十分な配慮を求めるとともに,今後も,生活保護受給者が適切な医療行為を受ける権利の侵害につながらないよう注視していく考えを示した.

(七)安定,継続可能な保険組合の設立について

 安定,継続可能な保険組合の設立に向け,日医会内での検討を求める三重県医師会からの要望には,小森貴常任理事が回答した.
 同常任理事は,都道府県の全てに設置されている医師国民健康保険組合(医師国保)について,「都道府県医師会とも密接不可分な関係にあり,会員はもとより従業員の方々の福利厚生に極めて重要な役割を担っている」として,医師国保が果たす役割の重要性を強調.政府内で医師国保への国庫補助金定率分の廃止を含めた検討がなされていることについては懸念を表明した.
 その上で,同常任理事は,この問題に対する日医の対応として,本年度から役員の職務分掌に「医師国保」を定めたことを説明.
 要望のあった,委員会を設置しての検討についても,執行部内で十分検討する意向を示し,理解を求めた.

報告

(八)一般社団法人医療安全全国共同行動の設立について

 「医療安全全国共同行動の一般社団法人化」に関しては,高杉常任理事が,(1)この行動は,元々日本の医療を担う全国の医療機関,医療従事者,医療団体が,施設や職種,専門の壁を越えて力を合わせて安全目標の実現を目指す医療界初の共同事業として,二〇〇八年に開始されたものであること(2)この行動の一層の拡大と発展のために,今年五月に一般社団法人化され,日医も設立時に社員となっていること─等を説明.
 その上で,同常任理事は,共同行動への参加の仕方は,(1)法人の目的に賛同する団体として「会員」になる(2)行動目標の実現を目指して具体的な取り組みを行う「施設」として登録する─という二つがあることを挙げ,「医療安全を進めるためのツールとして活用して欲しい」と述べた.

(九)日本医師会電子認証センターについて

 「日本医師会電子認証センター」については,石川常任理事が説明を行った.
 同常任理事は,情報技術の進展は保健医療福祉分野においても進んでおり,ITを用いた医療に関わる情報連携が,国民の医療に対する満足度向上,医療の質の向上,医療者の負担軽減等のためにも必要になっていると指摘.その際には,セキュリティや個人情報保護の確保が最重要課題となるが,拙速なIT化によって,医療を支える資格制度という基盤を揺るがすような問題も生じかねないとした.
 このような状況に対し,日医は従前から安全・安心な保健医療福祉の環境を整備すべく取り組んできたが,新たに保健医療福祉分野の国家資格を証明する機関として「日本医師会電子認証センター」を,日医の内部付属機関として設置したことを報告.
 センターでは,国や企業の干渉を受けない日医の自律的な機能として,医師の資格を証明する電子証明書の発行事業と,認証局を活用するセキュリティを確保した医療IT基盤の整備事業を実施していくとした.

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