日医ニュース
日医ニュース目次 第1247号(平成25年8月20日)

勤務医のページ

北海道における“広域医療連携”システム構築へ向けた勤務医とかかりつけ医の協働
北海道医師会常任理事・静和会静和記念病院長 岡部 實裕

 国民皆保険制度が発足して五十年を経た現在,地域に根ざした医療の崩壊が叫ばれており,全国の病院の九割を占める地域中小病院も厳しい状況に追い込まれている.
 北海道においても「地域医療崩壊」は深刻である.六圏域の三次医療圏と二十一の二次医療圏で構成される広域な医療連携をどう構築していくのか等々,避けては通れない諸課題に直面している.
 地域医療に真摯(しんし)に取り組んでいる勤務医とかかりつけ医,メディカルスタッフを孤立させることなく,「広域分散型」という地域特性に向き合い,地域医療再興へどのように知恵を出し合い,勤務医とかかりつけ医が協働しているのか,広域医療連携構築へ向けた挑戦とも言える事業の一部を紹介したい.

北海道版広域地域連携脳卒中クリティカルパス「脳卒中あんしん連携ノート」

 脳卒中においては,道内十三医療圏で脳卒中連携システムが運用され徐々に定着してきたが,いずれも地域完結型であり,圏域に急性期病院がない等の事情からパスが導入されていない地域が多くみられた.
 平成二十一年,「地域医療再生基金」を活用し,道内どこでも使える「広域地域連携」パスの開発と既存の「地域完結」パスとの連携,ITを運用した連携とデータベース化を進めることを目指し,道医,三医育大学も加わり,北海道地域連携クリティカルパス運営協議会(会長:宝金清博北海道大学脳神経外科教授)が発足した.その運営委員会で,発症から在宅医療まで一連の医療提供を体系化するシステムの在り方について検討が積み重ねられ,循環型医療連携である北海道広域型脳卒中クリティカルパス『脳卒中あんしん連携ノート』が完成した.平成二十三年からの試行期間を経て,平成二十四年十月から本格運用が開始されている.
 この広域型パスの試行運用と本格運用開始に当たっては,運営委員会を代表して,板本孝治氏(手稲渓仁会病院脳神経外科部長)が道医郡市医師会長協議会に出席し,郡市医師会の連携協力を要請した.板本氏は,この道民の視点を尊重した広域ネットワークシステムを発展的に運用することにより,全道規模で脳卒中の再発率を下げることをアウトカムとしたいと語られたことが印象的であった.本年六月現在,『あんしん連携ノート』運用,データ登録を行う医療機関は全道各地域の三十一病院へと広がっている.今後,この事業がICT機能を追加・充実させ,運用の標準化を進めることにより,充実した事業として発展していくことが期待されている.

広域医療を支える航空医療:メディカルウイング“ドクタージェット”の試行

 ドクターヘリ事業は,道央ドクターヘリ(基地病院:手稲渓仁会病院),道北ドクターヘリ(旭川赤十字病院),道東ドクターヘリ(市立釧路総合病院)に加えて,道南ドクターヘリの運行開始の準備も進んでおり,全道をカバーする体制の構築へ向けて事業展開している.
 医療過疎地を多く抱える広域な北海道において,更に迅速な救命,救急医療を可能にするためにメディカルウイング(医療優先固定翼機),いわゆるドクタージェットの先駆的な試行運航が平成二十二年度からスタートした.北海道ダスキン(株)の寄付の申し出を受けて,早々に,札幌医大救急部浅井康文前教授と目黒純一道医常任理事(札幌北楡病院長)により,発起人会が立ち上げられた.同年五月には,道医に事務局を置き北海道航空医療ネットワーク研究会(HAMN)〔運営事務局:中日本航空(株)札幌営業所〕が設立され,九月には一カ月間の研究運航が実施されることになった.
 平成二十三年には北海道の地域医療再生計画(三カ年)として,十二カ月分の研究運航が可能となり,同年二カ月,二十四年度八カ月,本年度は七月六日から二カ月間の運航が実施されているが,これは奥尻島,利尻島を含めた道内十二空港をつなぐ北海道全域をカバーする航空医療ネットワークである.通年運航を実現し,最も効果を発揮するのは十五分以内に到着出来る現場であるとされるドクターヘリ事業と相補的,有機的に連携した「広域航空医療ネットワーク体制」が一刻も早く実現されることが切望される.
 北海道で医療活動に邁(まい)進されている少なからぬ医師,勤務医には,「フロンティア精神」「社会性」「創造性」の気風が脈々と流れている.住民からも理解・支持され,行政をも動かし,二次医療圏や生活圏で地域住民が求めている医療を適切に提供出来る医療資源と体制をいかに創造していくのか,われわれ,医師,勤務医は,医療連携,多職種連携を構築していく中核として,求められる社会的役割はますます大きくなっていくと思われる.誇りと夢を持って医療に携わり続けたいものである.

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