日医ニュース
日医ニュース目次 第1260号(平成26年3月5日)

日本医師会市民公開講座
「難聴の最新情報〜よりよい『聞こえ』のために〜」をテーマに

日本医師会市民公開講座/「難聴の最新情報〜よりよい『聞こえ』のために〜」をテーマに(写真) 日本医師会市民公開講座が二月十五日,「難聴の最新情報〜よりよい『聞こえ』のために〜」をテーマに,日医会館大講堂で開催された(参加者:百五十五名).
 小森貴常任理事の総合司会で開会.冒頭,あいさつを行った横倉義武会長は,難聴について,人間関係を築く上で非常に重要なコミュニケーションがうまくいかず,聴覚障害者にさまざまな困難をもたらすものであるが,誰でも,年を重ねるとともに耳の聞こえが悪くなることから,全ての人が共有すべき問題であると指摘.東日本大震災によって,災害発生時の情報・コミュニケーション支援の必要性も浮き彫りにされたとし,「聴覚障害者の方々が安心して暮らせる社会の構築のために,地域住民の取り組みだけでなく,国,地方公共団体及び医療従事者や関係団体等の連携した対策が必要である」と強調した.
 続いて,好本惠氏の司会の下,伊藤真人自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児耳鼻咽喉科教授,細井裕司奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科教授,小森常任理事の三人によるシンポジウムが,VTRを交えて行われた.

難聴の原因に応じた治療を

 伊藤教授は,難聴について,(一)耳垢・中耳炎などによって,外耳や中耳を通る音が伝わりにくい「伝音難聴」,(二)加齢・騒音・ストレスなどによって,音を感知する内耳や脳の聴神経に障害が起きて信号が伝わりにくくなる「感音難聴」,(三)伝音難聴と感音難聴の要素が合わさった「混合性難聴」─の三つに分けられることを説明.
 伝音難聴の多くは鼓室形成術やアブミ骨手術,鼓膜チューブ挿入術などの手術によって改善が期待出来るとした.一方,感音難聴では,突発性難聴のように急に発症したものについては薬物療法が用いられ,ゆっくり進行する原因不明の感音難聴や加齢変化による難聴には補聴器が用いられてきたが,最近では重度の感音難聴に人工内耳の埋め込み術が行われており,目覚ましい改善が見られるとした.

補聴器を買う前に医師の診断を

 細井教授は,加齢性難聴では,小さい音が聞こえないだけでなく,高い音が聞こえないために音がこもって聞こえ,「音は聞こえても言葉がはっきりしない」という症状につながると解説.補聴器は単に音を大きくするのではなく,高い音の聞こえ方を補正するものであるとし,認定補聴器技能者による微妙な調整が必須だとした.ただし,難聴は治療によって聴力が改善することもあるため,補聴器を買う前に,まず,耳鼻咽喉科で聞こえの診断をしてもらうことが重要であることを強調した.
 また,聴覚経路については今まで,空気を伝って鼓膜を振動させる「気導」と,振動が頭蓋骨を通って直接聴覚神経に伝わる「骨導」しか知られていなかったが,第三の聴覚経路として「軟骨伝導」を発見したことを紹介.耳掃除をした際に感じる音が軟骨伝導音であり,このメカニズムを用いて,新しい補聴器や携帯電話を開発中であるとした.

話し掛け方に配慮と工夫を

 小森常任理事は,難聴は三十代から始まり,六十代から急増,七十代では五割以上,八十代では約八割もの人が加齢性難聴になることを紹介.WHO(世界保健機関)が二〇〇八年に日常生活に支障を来す障害について調査したところ,難聴が一番であったことを取り上げ,音の聞こえが悪くなることで,スムーズな会話が出来なくなり,閉じこもりがちになったり,うつ病の原因にもなり得ると述べた.
 その上で,家族など,周囲の人たちの理解と配慮が大切であることを強調するとともに,聞こえが悪い人に話し掛ける時のポイントとして,「前方に回って,注意を促してから話す」「補聴器をしていると十分音が大きく聞こえているので,大き過ぎない声で,ゆっくり,はっきり話す」「単語に区切って話す」「口の動きが見えるようにする」などの工夫を挙げた.
 なお,当日の模様は,四月にNHK Eテレ「テレビシンポジウム」で放映される予定である.

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