日医ニュース
日医ニュース目次 第1266号(平成26年6月5日)

第10回国民医療推進協議会総会
「選択療養制度(仮称)」への反対決議を採択

 第10回国民医療推進協議会(会長:横倉義武日医会長)総会が5月14日,日医会館で開催された.当日は,規制改革会議が提言している「選択療養制度(仮称)」への反対決議が全会一致で採択された.

会長あいさつ

第10回国民医療推進協議会総会/「選択療養制度(仮称)」への反対決議を採択(写真) 今村聡副会長の司会で開会.会議の冒頭あいさつした横倉会長は,「国民の生命と健康に直結する医療への規制は,“安全で安心な最善の医療を等しく国民に提供する”という趣旨にかなった範囲でのみ許されるものであり,これを順守すべき政府の責任は極めて重大」とした上で,現在,規制改革会議が提言している「選択療養制度(仮称)」(以下,「選択療養」)は,患者が安全性・有効性のない治療法やエビデンスのない民間療法を選択させられる恐れがあることや,新たな医療が保険収載されなければ,資産や所得の多寡で受けられる医療に格差が生じ,必要な医療が受けられなくなる恐れがあることなど,多くの問題をはらんでいると指摘した.
 更に,「基本的に,人の命を預かる医療現場においては,いわゆる市場経済の原理・原則はなじまない.医療は,国民が豊かに生活していくための社会インフラであり,『命の安全保障』として考えていくべき」と主張し,「国民が必要な医療を過不足なく受けられる社会づくり」に向けた政策の実現を求めていくことこそ,本協議会の存立使命であるとして,国の政策が誤った方向へ向かわないよう,「選択療養」への反対決議を本協議会として採択することを提案.その上で同会長は,決議が採択された後は,当該決議をもって,「選択療養」の問題点等を,政府関係各方面に強く訴えていく意向を示した.

議 事

 引き続き,議事「規制改革会議が提言する選択療養制度(仮称)の件」に入り,中川俊男副会長より説明が行われた.
 同副会長は,規制改革会議が,「選択療養」の創設を提言していることに関して,「さまざまな課題については,現行の保険外併用療養費制度(評価療養・選定療養),特に評価療養の機動性を高めることで対応可能と考えており,『選択療養』の導入は到底容認出来ない」と主張し,その問題点を解説した.

安全性・有効性に疑問

 まず,規制改革会議「選択療養制度(仮称)の創設について(論点整理)」の説明の中に,安全性・有効性等を客観的に判断するプロセスがなく,事後も含めて検証の枠組みがないことを指摘.また,将来の保険導入を前提としていないことも問題であるとした.

国民皆保険の理念を堅持すべき

 同副会長は,二〇〇四年にまとめられた厚生労働大臣,規制改革担当大臣による「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」の中で,「『必要かつ適切な医療は基本的に保険診療により確保する』という国民皆保険の理念を基本に据えたものである」と整理されているとして,「保険外併用療養費制度もこの理念をしっかりと堅持して頂きたい」と主張した.

公的医療費の増加を懸念

 医療費から見た問題点としては,「選択療養」は全国統一の仕組みの下ではなく,患者個人のニーズに対応して公的医療保険財源で賄うことになるため,他の被保険者の理解が得られないと指摘.民間療法他,さまざまな医療や医薬品等が対象となり,公的医療費がかえって増加することが懸念されるとし,財務省が混合診療の全面解禁を疑問視していることにも言及した.

国民不在の議論

 更に,「医師と患者の間には,医療について情報の非対称性が存在する.特に,高度・先進的な医療であれば,患者が内容を理解することは非常に難しい」との考えを示した.
 その上で,患者団体からも,「事実上の『混合診療解禁』であり,多くの患者が最先端の医療を受けられなくなる恐れがある」として制度に反対する要望書が提出され,また,保険者三団体からも反対意見が出されていることを紹介した.

ドラッグ・ラグ

 また,ドラッグ・ラグについては,審査ラグは短縮されてきており,現在の課題は,開発(申請)ラグであるとして,メーカーは早期に申請し,国も協力して,開発(申請)ラグの解消に全力で取り組むべきとした.
 続いて,今村副会長が,「選択療養」の導入に断固反対する決議案の内容を説明し,出席者の意見を求めた.
 患者団体である全国腎臓病協議会からも趣旨に賛同する旨の意見が出され,決議(別掲)が全会一致で採択された.
 なお,後日に,採択された決議をもって,安倍晋三内閣総理大臣,麻生太郎副総理兼財務大臣,田村憲久厚生労働大臣,菅義偉内閣官房長官らに上申を行った.

決 議

 誰もが必要かつ充分な医療を安全に受けられることこそ,すべての国民の願いである.
 新しい医療の提供にあたっては,安全性・有効性を客観的に判断することが必要不可欠であり,さらに,受ける医療に格差が生じないよう,将来の保険収載が大前提である.
 よって,本協議会の総意として,規制改革会議が提言する「選択療養制度(仮称)」の導入については,断固反対する.

以上,決議する.

平成26年5月14日

国民医療推進協議会


国民医療推進協議会とは

 国民医療推進協議会は平成16年10月,「国民の健康の増進と福祉の向上を図るため,医療・介護・保健及び福祉行政の拡充強化を目指し,積極的に諸活動を推進すること」を目的に,日医が各医療関係者団体等に呼び掛け,発足した.これまでの活動としては,混合診療の導入反対,患者負担増反対等,国民皆保険制度を守るための活動や,禁煙推進運動などを行ってきた.
 現在は,日医始め医療関係者団体等40団体で構成.協議会長は,日医の横倉会長が務めている.


選択療養制度(仮称)とは

 現行の保険外併用療養費制度(評価療養・選定療養)の中に新たな制度として加えようとしているもので,一定の手続き・ルールの枠内で,患者と医師の希望に応じ,患者が同意すれば極めて短期間のうちに,保険外併用療養費の支給を認めるようにするという制度.規制改革会議から本年3月に提言され,安倍内閣では,本制度を6月に策定予定の「成長戦略」に盛り込む意向を示している.
 日医では,規制改革会議のヒアリングや記者会見等を通じてその問題点を指摘してきているが,健康保険組合連合会(健保連)や患者団体等からも,その導入に反対する意向が示されている.

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