日医ニュース
日医ニュース目次 第1267号(平成26年6月20日)

第3回日本医療小説大賞 授賞式
久坂部羊氏の『悪医』が受賞

第3回日本医療小説大賞 授賞式/久坂部羊氏の『悪医』が受賞(写真) 第三回日本医療小説大賞(日医主催,厚生労働省後援,新潮社協力)の授賞式が五月二十七日,都内で開催され,日医からは,今村聡副会長,今村定臣・小森貴・藤川謙二・石川広己・道永麻里各常任理事が出席した.
 本賞は,国民の医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰することで,医療関係者と国民とのより良い信頼関係の構築を図り,日本の医療に対する国民の理解と共感を得るとともに,わが国の活字文化の推進に寄与することを目的として,平成二十三年度に創設したものであり,今回が三回目の授賞式となる.
 対象は,医療をテーマにした小説,あるいは医療を素材として扱っている小説(ノンフィクションは除く)で,平成二十五年一月一日から十二月三十一日までに書籍化されたものとし,本年三月二十七日に三名の選考委員(海堂尊氏,篠田節子氏,久間十義氏)により行われた選考会で受賞作品を決定した.
 今回受賞した久坂部羊氏の『悪医』は,現代医療を題材に執筆活動を行っている現役の医師である久坂部氏が,自らの外科医時代の体験を下敷きとして,がん治療を医師,患者の二つの視点から描き,現在の医療現場の問題点を浮き彫りにした作品となっている.
 当日は,冒頭,本賞の選考委員を務められ,四月三十日に逝去された渡辺淳一氏に対し,出席者全員で黙とうが捧げられた.
 その後,授賞式が開催され,主催者を代表してあいさつした横倉義武会長(今村副会長代読)は,日医が,国民の生命と健康を守るため,「国民と共に歩む専門家集団としての医師会」を目指し,その活動の旗印として,昨年度,「日本医師会綱領」を策定したことを報告.その上で,「医療の本質は医師と患者の協働作業であるが,その作業に当たって最も大切なものは,医師と患者の信頼関係である.本賞が広く世間に認知され,受賞作品が一人でも多くの国民に親しまれることによって,より良い医師と患者との関係の構築につながって欲しい」として,本賞の今後の発展に期待を寄せた.
 続いて,選考委員を代表してあいさつした篠田節子氏は,初めに,「選考は極めて困難であった」と選考経過を振り返った上で,本受賞作品については,「これまで怖くて誰も触れられなかったテーマについて,あえて医師という専門の立場から切り込んだ作品である」と評価するとともに,「末期がんに脅える患者と,生命に義務と責任を負っている医師,それぞれの葛藤の中で個人対個人の伝え合いの難しさを表現した力作で,最も本賞にふさわしい作品であると感じた」と講評を述べた.
 引き続き賞の贈呈に移り,今村副会長より久坂部氏に賞状並びに副賞の授与が行われた.
 受賞者のあいさつで久坂部氏は,「患者を助けることが医療の目的であるが,実際の医療現場では,医師が患者を思ってしたことが裏目に出ることや,患者にとって良くない治療が,患者にとっては望ましい治療であったりするなど,善と悪が混沌(こんとん)としており,常に葛藤していた」と自身の体験を語るとともに,本賞受賞については,「小説家になり初めて賞を頂いた.医療現場の医師と患者の思いを少しでも汲(く)み取るものとなれば作者として望外の喜びである」と,受賞の喜びを語った.
 その後,記念撮影が行われ,授賞式は終了となった.

久坂部 羊(くさかべ よう)氏

 医師,作家.1955年大阪府生まれ.大阪大学医学部卒.外務省の医務官として9年間海外勤務の後,高齢者を対象とした在宅訪問診療に従事し現在に至る.
 その一方で20代から同人誌「VIKING」に参加し,2003年『廃用身』で作家としてデビュー.以後,『破裂』『無痛』『神の手』『第五番』『嗤(わら)う名医』等,医療の現実を抉(えぐ)り出す衝撃作を次々に発表している.

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