日医ニュース
日医ニュース目次 第1270号(平成26年8月5日)

横倉会長に聞く
「国民と共に歩む医師会」として三つの方針を会務遂行の柱に

 今号では,6月28日に開催された第132回日本医師会定例代議員会で再任された横倉義武会長に,2期目の会務遂行に当たっての3つの方針の意味や医療に係る諸問題の中で,特に会員の先生方の関心の高い消費税問題等について現時点での考えを語ってもらった.(聞き手 石川広己常任理事 7月3日会長室にて)

横倉会長に聞く/「国民と共に歩む医師会」として三つの方針を会務遂行の柱に(写真) 石川 今日は,まず,横倉会長に一期目の二年間を振り返って頂きたいのですが,その感想をお聞かせ願います.
 横倉 この二年間,「地域医療の再興」という大きな旗印を掲げて会務に取り組んできたわけですが,会員の先生方には,「それぞれの地域で地域医療をもう一度つくり上げていきましょう」というお願いをするとともに,政府にも同様な主張をし,その実現に向けた協力を強く求めてきました.
 また,いろいろな地域の医療の実情を直接見させてもらったのですが,東京の銀座のように大都会での地域医療の問題,そして北海道北見の真冬の厳寒期の地域医療の問題等,地域ごとに問題の違いがあることが改めて分かりました.
 そのような中で,地域医療の根底には,やはり患者さんに寄り添っている医師がいて,その医師によって地域医療が成り立っているのだということも改めて実感出来た二年間であったような気がします.
 石川 その他,この二年間で特に印象に残ったことを挙げるとしたら,どういったことがありますか.
 横倉 一番印象に残っていることと言えば,「日本医師会綱領」を策定出来たことが挙げられます.
 本綱領は,国民に日医という団体を理解してもらうとともに,医師の大同団結の指標とするために策定し,昨年六月開催の第百二十九回日本医師会定例代議員会において,満場一致でご承認頂いたものですが,いろいろな議論の場での発言を聞いたりしていると,その前文にある,「日本医師会は,医師としての高い倫理観と使命感を礎に,人間の尊厳が大切にされる社会の実現を目指します」というものが,国民の間に浸透し,「医師会という組織が単に政治的な圧力団体ではなく,国民の健康を守る専門家集団である」という認識が少しずつではありますが,芽生えてきたのではないかと感じています.
 今後も,この綱領を旗印として,医療界の更なる団結を図りながら,地域から積み上げていく国民医療のビジョンを広く会員や国民に発信しつつ,国民医療の向上に向けて,さまざまな公益的活動を深化させていきたいと思います.

横倉 義武会長(昭和19年生まれ,69歳)

昭和44年3月 久留米大医学部卒
昭和44年4月 久留米大医学部第2外科入局
昭和52年10月 西ドイツミュンスター大学教育病院デトモルト病院外科
昭和55年1月 久留米大医学部講師(〜昭和58年3月)
平成2年4月 医療法人弘恵会ヨコクラ病院長
平成9年4月 医療法人弘恵会ヨコクラ病院理事長(〜現在)


平成11年5月 中央社会保険医療協議会委員(〜平成14年4月)
平成22年6月 社会保障審議会医療部会委員(〜平成24年4月)


昭和63年4月 大牟田医監事(〜平成4年3月)
平成2年4月 福岡県医理事(〜平成10年3月)
平成4年4月 大牟田医理事(〜平成16年3月)
平成10年4月 福岡県医専務理事(〜平成14年3月)
平成14年4月 福岡県医副会長(〜平成18年4月)
平成18年5月 福岡県医会長(〜平成22年4月)
平成22年4月 日医副会長(〜平成24年3月)
平成24年4月 日医会長(〜現在)

会務遂行に当たっての三つの方針の意味とは

 石川 さて,先の第百三十三回臨時代議員会において,会長は所信を表明されたわけですけれども,この所信表明では二期目の会務遂行に当たって,三つの方針を強調されておられました.そのことについて,もう一度詳しくご説明願います.
 横倉 まず,第一に挙げたのは,「組織を強くする」ということです.
 日医のいわゆる組織率(全医師に対する日医会員の割合)が六〇%を切ってきたという状況の中で,やはり私どもが国の政策に対して,国民医療を守る立場から発言をしていく上では,この組織率というものがある程度ないと,なかなか社会が受け入れてくれないという思いがあり,何とかこの組織率を高めていきたいと考えています.
 また,求められる医療提供体制が日々変化していく中で,その変化や大規模災害等に迅速かつ効果的に対応出来るよう事務局機能の再編・再構築を行うとともに,医師会独自の政策提言が出来るように情報収集・分析能力の強化にも努めていく所存です.
 具体的な方策については,昨年九月に関係役職員で構成する「組織強化に向けたワーキンググループ」を会内に立ち上げ,時代に即した組織のあり方と会員獲得に向けた取り組みについて検討してきましたが,「医師資格証の発行時にかかる年会費を日医会員に限って無料にする」等,その一部については既に着手しているところです.
 今後は会内に実務を担う委員会として「医師会組織強化検討委員会(仮称)」を新設し,まずは会員情報システムを都道府県医師会との相互利用も含めて再構築する等,より実践的な議論と取り組みを引き続き行っていきたいと考えています.
 二つ目は,「地域医療を支える」ということです.
 これは,超高齢社会を迎えた日本のこれからを考えた時に,「かかりつけ医」を中心とした地域のネットワークの中で,医療・介護・福祉・生活サービス等を一体的,かつ適切に提供する地域包括ケアシステムを,地域を知り,地域と共に歩んできた各医師会と日医が連携することによって,つくり上げていくという意味です.
 将来,過疎化が進み,消滅する自治体が相当数出てくることが心配されているわけですが,やはりどんな所でも人は住んでいくわけであり,人が住むためには医療が必ず必要とされるわけです.それは,医療がまちづくりの中心になるということであり,そのことをしっかりと主張していかなければならないと考えています.
 また,今後の高齢社会においては,「かかりつけ医」の役割がますます重要になるわけですから,日医としても,引き続き,「在宅医療支援フォーラム」等を開催し,かかりつけ医機能の向上に努めていきたいと思います.
 三つ目は,「将来の医療を考える」ということです.
 団塊の世代が後期高齢者,七十五歳以上になる二〇二五年を一つのターゲットイヤーとして地域の包括ケアの推進をわれわれが中心となって進めていくわけですが,その際にはどうしても労働人口が減ってくるわけですから,われわれは生涯保健事業を推進するなど,生きがいづくり,健康づくりといったことにしっかり取り組んでいかなければならないと考えています.
 また,将来の医療を考えるに当たっては,二〇二五年,あるいはその先の人口減少社会を見据えた上で,あるべき姿の方向性を示し,その明確な目標と戦略に沿って国民医療の向上に向けた方向性を示していくことも必要となるでしょうし,次代を担う若手医師の育成機能を強化していくことにも努めていかなければなりません.
 加えて,国民と共に日本の将来を考えていくためには,国民に最も近い存在であるかかりつけ医や地域医師会とのつながりも,より強化していかなければなりませんし,そのための方策についても検討していきたいと思っています.
 石川 組織率の問題に関しては,やはり勤務医の先生方の入会というのがポイントになると思うのですけれども,その点についてはいかがでしょうか.
 横倉 今期から,「平成二十四・二十五年度定款・諸規程検討委員会」の中間答申を踏まえ,理事に勤務医枠を設け,勤務医の先生に執行部に入ってもらうことにしましたので,これにより,勤務医の先生方の意見を,日医の会務により反映出来る道筋が一つ出来たのではないかと考えています.
 私が勤務医の時もそうでしたが,勤務医の先生方の中には,どうしても医師会は遠い存在という誤解があります.決してそうではないということを勤務医の先生方にもっとご理解頂く努力を引き続き行っていかなければいけないと思っています.
 石川 二番目に触れられたまちづくりということですけれども,医療が中心となったまちづくりとは,子育てといったことにも,われわれ医師が関わっていくべきということでしょうか.
 横倉 昔の開業医の先生方の中には,子ども会のリーダーをしたり,学校保健という立場から地域の教育に関わったりと,いわゆる社会教育のリーダーを務められた先生方がたくさんいらっしゃいました.われわれ医師は医療に関わる専門家でありますが,ある意味では,教育についても,地域ぐるみの社会教育という面では非常に力を発揮出来る立場にあると思いますし,そういう立場から,まちづくりにも積極的に参加していって頂ければという思いがあります.
 石川 三つ目に掲げられた「将来の医療を考える」については,高齢の方の健康というようなお話でしたけれども,特に健康寿命を延ばすということについて,会長のお考えをもう少しお聞かせ下さい.
 横倉 今,健康寿命と平均寿命との間には十年ぐらいの差があるわけですが,出来るだけ健康寿命を延ばしていくということ,そして健やかに老いるといいますか,やはりそういうことを可能にするような医療のあり方ということも,われわれは考えていく必要があると思います.
 そのために必要なさまざまな健康に関する教育や運動,そういうことに地域のリーダーとして,関わりを持っていくことも,今後は医師の重要な仕事になるのではないかと思っており,会員の先生方には,ぜひ積極的な関わりをお願いしたいと思います.

消費税問題に関する医療界の意見,九月中にまとめる

 石川 会員の先生方が注目されている事項の中で,特に消費税問題は喫緊の課題,特に病院の方はかなり気にしておられますけれども,この消費税問題に関する現時点での会長のお考えをお聞かせ下さい.
 横倉 控除対象外消費税の問題は医療機関にとって大きな負担となっているので,早急にその改善を図らなければなりません.
 その方策については,病院団体の方々にも参加して頂いている会内の医業税制検討委員会での検討を踏まえ,現在では,(一)課税に転換して軽減税率,(二)課税に転換してゼロ税率,(三)非課税のまま全額還付,(四)非課税のまま一部還付─の四案に絞り込まれてきています.
 やはり設備投資については,課税制度にせよ,非課税制度にせよ,還付出来る方式が必要だと思いますし,消費税率が八%になるまでの間は,診療報酬で手当てされてきたわけですけれども,これはもう限界にきていることは,皆さんの共通認識になっておりますし,税制の中で解決出来るようにすべきであると考えています.
 先ほどお示しした四つの選択肢には,それぞれメリット,デメリットがあるのですが,医師会内の意見集約は八月中に,そして,最終的な医療界全体の意見集約は九月中を目途として取りまとめ,これを基に政府にその解決を強く求めていく所存です.
 石川 もう一つ,医療事故調査制度についてですが,ここ数年のうちに大きな山が来ると思うのですが,制度のポイントや今後についてはいかがでしょうか.
 横倉 医療事故の再発防止のために,医療事故のさまざまな要因について正確な情報を医療関係者の中で共有し,安全な医療の提供に活かしていくことは,この医療事故調査制度の最も重要なポイントです.
 一方,こうした医学的に正確な事故調査を実施するためには,善意で行った医療行為によって万が一にも事故が起きた場合に,その医師がいきなり刑事捜査の対象とされ,刑事罰に問われるということがあってはならないと考えます.
 医療事故を取り巻く,これら二つの課題を達成していくことが重要になると思いますし,これはあくまでも医療者個人の責任を追及するという形になってはならないと強く主張していきたいと考えています.
 医療事故調査制度の詳細は今後,いわゆる「ガイドライン研究班」で本格的に議論が始められることになりますが,今後の議論においては,特に中小医療機関における院内調査の問題や,医療事故調査等支援団体としての都道府県医師会等の役割の点などについて,日医としての問題提起や提言を積極的に行い,議論の牽引役となれるよう貢献していきたいと思います.
 石川 最後にもう一つ,昨年末の予算編成の際に,その創設が決まった「新たな財政支援制度」に対する会長のお考えをお教え頂ければと思います.
 横倉 今後の高齢社会における日本の医療提供体制の再編成を今から行っていかなければいけないという中で,その再編成に当たって,診療報酬とは別建てで,財政的な支援をするために設けられたのが,この支援制度です.
 やはり,今後の地域医療を再編成する上では,どうしてもいろいろな医療機関の機能分担が必要になってきますし,機能分担すると,連携ということが非常に重要になってくるわけでありますから,連携のツールづくり,連携方法をしっかりつくり上げていくための支援も重要になってきます.
 それともう一つは,医療従事者の教育を十分出来るような教育環境にしていかなければいけません.
 長年医師会が担ってきた看護師・准看護師の養成にしても,設備や実習先も含めて,十分とは言えず,この制度によって整備をして頂ければと思っているところです.

「日本医師会綱領」に示した理念を基に日々の診療を

 石川 さて,これからまた大変多忙な二年間が始まるわけですけれども,先生ご自身の健康法で何か工夫されていることがございましたら,お教え頂けないでしょうか.
 横倉 私の健康法の一つに毎日,ラジオ体操をするということがあります.
 石川 NHKラジオで朝六時二十五分から放送されていますが,それをお聞きになっているのですか.
 横倉 今はYouTubeでも見られますので,何時でも出来るんですよ.YouTubeを見ながらラジオ体操をする.それと,ストレッチをするということですね.それで気持ちをリフレッシュしています.それと,その日,その日でいろいろなストレスがかかるようなことがあるのですが,それを,寝る前に解消するようにしています.
 石川 ストレス解消法ということで,何か具体的に工夫しているようなことはおありですか.
 横倉 具体的には,自分の中で,まず,ストレスの原因について自分なりの解決法を心の中で考え,そしてその後はリラックスして寝るということをしています.
 石川 座禅を組むとか,そういうことではないのですね.
 横倉 膝が悪いので,座禅は組めませんよ(笑).
 石川 何か食べるものだとか,食に関しての工夫というものはありますか.
 横倉 私は肉が好きなので,ついつい肉類を多く摂ってしまうのですが,野菜を必ず少しずつ食べるようにしています.
 石川 ありがとうございました.それでは,最後に,日医会員の先生方に,先生から何か一言,メッセージをお願いします.
 横倉 会員の先生方には生命に関する倫理とか,医道に関する倫理というものをしっかり持って日々の診療に取り組んで頂きたいと思っています.
 そういった意味でも,ぜひもう一度,「日本医師会綱領」(別掲)をよく読んで頂き,日頃の診療の中で実践して頂きたいと思います.
 それと,今からの二年間は,相当大きなさまざまな社会変革が起きてくると思いますが,その変革の中で守るべきものは何かということをしっかりと考えて頂きたい.そして,やはりわれわれ医師は国民の健康・生命を守るというのが一番の仕事でありますから,ぜひそのことについてご協力をお願いしたいと思います.

日本医師会綱領

 日本医師会は,医師としての高い倫理観と使命感を礎に,人間の尊厳が大切にされる社会の実現を目指します.

  1. 日本医師会は,国民の生涯にわたる健康で文化的な明るい生活を支えます.
  2. 日本医師会は,国民とともに,安全・安心な医療提供体制を築きます.
  3. 日本医師会は,医学・医療の発展と質の向上に寄与します.
  4. 日本医師会は,国民の連帯と支え合いに基づく国民皆保険制度を守ります.

以上,誠実に実行することを約束します.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.