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第1282号(平成27年2月5日) |
横倉会長/平成26年度 第3回都道府県医師会長協議会
「国民皆保険」を守り,地域医療体制を堅持する決意を示す

平成26年度第3回都道府県医師会長協議会が1月20日,日医会館大講堂で開催された.
当日は8県医師会から寄せられた質問・要望に対して,各担当役員がそれぞれ回答した他,日医より,「薬局等で行う薬剤師の業務に関する日医と日本薬剤師会の協議」「所得水準の高い国保組合の国庫補助見直し」等について説明を行った.
会長あいさつ
今村定臣常任理事の司会で開会.冒頭あいさつした横倉義武会長は,平成二十七年度政府予算案が閣議決定されたことに触れ,「介護報酬がマイナス改定になったことは残念」とした上で,「昨年創設された地域医療介護総合確保基金は,医療部分に関して平成二十六年度と同額の九百四億円が確保され,介護と合わせて総額約千六百億円が各都道府県の計画を基に配分されることになっており,計画策定に向けては医師会の意見をぜひ反映させて頂きたい」と要請した.
また,今後更なる社会保障費の増加が予想されることから,規制改革や成長戦略の名の下に,公的医療保険給付の範囲を狭める圧力は続いていくとの見方を示すとともに,「改革」に当たっては,「やっていい改革」と「やってはいけない改革」があり,十分な議論が必要だと政府の動きを牽制(けんせい).経済優先の名の下に改革を断行しようとするのであれば,毅然(きぜん)と反対の声を上げていくとした上で,世界的に見ても少ない負担で満足度の高い,非常に優れた国民皆保険を,地域医療提供体制を堅持する基本的な仕組みとして守り抜き,次の世代につないでいくよう努力する決意を示した.
協 議
(一)ヘルスケア産業に依存した保険者機能強化策に対する日医の考えを問う
政府のヘルスケア産業に依存した保険者機能強化策に対する日医の考えを問う山口県医師会からの質問には,道永麻里常任理事が回答した.
同常任理事は,保険者における国民の健康管理や疾病予防等に関する取り組みについては,国民,保険者,行政,医師会及び医療機関が一体となることが求められるとした上で,データヘルス計画は,医療費抑制ありきでサービスの内容と質がおろそかにならないよう第三者機関を設置し,しっかり監視していく必要があり,厚生労働省に早急な検討を申し入れているとした.
また,特に保健事業として個々のハイリスク者へのアプローチに移行する際には,地域医師会や地域のかかりつけ医との連携が最も大切であることを国の検討会でも強く主張し,合意を得ていると説明.これらが施策として反映されるよう,重ねて厚労省に求めていく意向を示した.
セルフメディケーションについては,強力な推進に懸念を示し,何より安全性が重視されるべきと指摘.更に,薬局等を中心に展開されている検体測定室については,ガイドラインを順守していない事例が認められたため,厚労省に対し衛生管理等の徹底を要請したとして理解を求めた.
(二)日医認証局「医師資格証」の拡大・運用と展望について
日医認証局「医師資格証」の拡大・運用と展望についての兵庫県医師会からの質問には,石川広己常任理事が回答.
兵庫県医師会の全県下をカバーするサーバー設置の取り組みを高く評価し支援の意向を示すとともに,厚労省が保健医療福祉分野公開鍵基盤(HPKI)認証局の普及・促進事業に補助金を出していることや,経済産業省や総務省のITを用いた医療連携の実証事業等においても,その応募条件にHPKI認証局を利用することを掲げるなど,積極的な姿勢が見られるようになったと説明した.
また,大手メーカーにおいても,我々のシステムが無視できない存在になってきており,保健医療福祉情報システム工業界(JAHIS:ジェイヒス)に対しても,「医師資格証」の情報提供を行っているとした.
今後の「医師資格証」の活用については,生涯教育との連携を計画しており,「医師資格証」を用いた講習会などの出欠管理システムを開発し,テスト提供を始めていることや,生涯教育の単位認定などとも連携するシステムについては,来年度の早い時期の完成を目指していることを紹介した.
更に,年会費に関しては,しばらくの間,現状のままとすることに理解を求め,会員への初年度年会費無料については,来年度も継続する予定であるとした.
また,「医師資格証」は組織強化の一環としての意味もあることから,非会員に対しては,まずは日医の会員になるよう声掛けを要請.多職種への拡大については,HPKIの枠組みでなく,別途,認証基盤を検討する必要があることから,現在,研究を進めているとした.
(三)NDB,DPC,KDB(国保データベース)など各種医療情報の分析に関する日医の取り組みについて
鹿児島県医師会からの各種医療情報の分析に関する日医の取り組みについての質問には,石川常任理事が回答.
日医総研では,「データ解析センター」の設置に関する検討を進めつつ,NDBやDPCの分析に関して専門家からのヒアリングなど,研究の立場からナショナルデータを扱えるレベルの運営と今後の方針について検討中であるとした他,二月十二日に開催予定の「日本における医療ビッグデータの現状と未来」をテーマとした日医総研シンポジウムへの参加を呼び掛けた.
また,データ利用は,都道府県医師会の取り組みに重要だが,NDBなど利活用に制限がかかっているため,厚労省保険局にデータ利用の促進を求めていくことや,医政局が都道府県庁に配付するデータブックに関しては,昨年来協働作業を行えるよう働き掛けていることを説明.
更に,NDB等も含め,医療提供体制や地域包括ケアシステムの構築に向けた計画等の立案・評価等に携わる人材の育成については,厚労省「第三回医療介護総合確保促進会議」で今村聡副会長が,地方自治体の職員だけでなく,医師会等の役職員に対するデータの活用などの研修会も併せて実施するよう求めたことを明らかにした.
(四)日医認定健康スポーツ医制度について
茨城県医師会は,日医認定健康スポーツ医制度に関し,(1)登録者を増やして同制度を堅持していくのか(2)新規取得者を増やすための取得要件の緩和や見直しを行うのか(3)「医師資格証」を活用した本制度の展開─について質問.
釜萢敏常任理事は,(1)について,その役割は今後も拡大するとし,同制度を「堅持」すると回答.昨年秋,日医の同制度のホームページを刷新したこと等を報告した.
(2)では,講習カリキュラム二十五科目の緩和や日医開催の講習会を各都道府県医師会のテレビ会議システムで受講可能とする等の方策を挙げ,見直しに当たっては,日本体育協会,日本整形外科学会と協議しつつ,各医師会の意見や健康スポーツ医学委員会での検討を踏まえ,方向性を探っていきたいとした.
(3)では,「医師資格証」の普及と関連システムの充実により,日医認定健康スポーツ医資格の証明や研修会受講履歴の管理などへの活用が期待できるとして,費用対効果も検討しながら進めていくとした.
更に,本制度の活性化のために,都道府県・郡市区医師会に対し,日医認定健康スポーツ医と各種スポーツ団体,保険者等との連携の橋渡しを要望.日医としては,“活躍の場”の確保に向け,厚労省等関係団体に,より一層働き掛けていきたいとした.
(五)六カ月以前の再審査の申出に対する対応について
六カ月以前の再審査の申出への対応に関する徳島県医師会の質問には,松本純一常任理事が回答.
同常任理事は,「再審査の申出期間について,昭和六十年の通知では『六カ月』という申し合わせがあるが,保険者からの再審査請求の消滅時効については,保険者の不当利得に対する還付請求となるため,法律上,民法第一六七条第一項及び第七〇三条に基づき『十年』と解釈される.起算日は,保険局長通知により『支払の行われた日の翌日』となっており,支払基金では受け付けないわけにはいかないという対応になっているが,昭和六十年に申し合わせをした『歴史的経緯』から,支払基金本部も問題意識を持っており,保険者団体に対し,再審査申出の早期提出を依頼するなどの要請を行っている」と説明した.
その上で,今回の指摘を支払基金本部に伝えたところ,早速年明けに,保険者団体に要請を行い,「昭和六十年の申し合わせは理解しており,努力していきたい」との意向が伝えられてきたことを報告.今後については,「都道府県の支払基金各支部でも,法的根拠の乏しい紳士協定であるとしても,合意事項を一方的に破ってくることに対して,事務方からの説明を求めるなどの指導をお願いしたい」と要請した.
(六)社保・国保審査委員会と医師会との調整会議のあり方について
適正な審査基準によるレセプト審査と,医療機関での適切な保険診療の実施を目的とする調整会議のあり方を問う滋賀県医師会からの質問には,松本常任理事が回答した.
同常任理事は,「社保と国保の審査委員による調整会議は,審査委員会と都道府県医師会が自主的に開催するものである.その会議で合意できたものについては,支払基金,国保連それぞれの審査に反映され,必要な情報は会員に周知されており,その方法は都道府県により異なった理解をしている」と述べた.
更に,保険者が「調整会議は医師会と審査委員会の馴れ合い」と発言することに対しては,会議の目的から,「関係ない」と突っぱねるべきと強調.保険者に言われるままに医師会を排除する審査委員会も開催目的を理解していないと指摘した.
また,同常任理事は,「検討結果を審査に反映させ,少なくとも必要な情報を会員に周知できればよいため,医師会は前面に出るのではなく,あくまでも黒子に徹して表に出ない方が社会的には妥当」との見方も示した.
(七)集団的個別指導への対応について
集団的個別指導に対して,指導大綱改正などの考えを問う広島県医師会からの質問には,松本常任理事が回答した.
同常任理事は,『指導大綱』の改正について,その改正を検討する場合には公の場で検討せざるを得ないため,現行よりも厳しいものになりかねず,地方の混乱が更に拡大する懸念があることから,抜本的な法改正ではなく,厚労省と運用の見直しで是正すべく協議を続けていると説明.
更に,診療科による類型区分については,これまでの見直しにより「内科」に「在支診の届出を行っている診療所」という区分を加えることになったと説明するとともに,「類型区分は時代にマッチしたものに改めるべき」という方針で検討を行っているとした.
集団的個別指導の問題点に関しては,(1)高点数による選定(2)集団的個別指導を受けた医療機関が翌年度実績で高点数の場合に個別指導の対象となる(3)個別指導年間八千件のノルマ消化が目的化している─があると指摘.引き続き厚労省に申し入れていくとした上で,指導は「目標数値ありき」ではないはずであり,医療費抑制を狙った『基本方針二〇〇七』の考え方が継続されているとして,引き続きその見直しを主張していく決意を示した.
(八)医療事故調査制度施行への取り組みについて
医療事故調査制度の施行後の対応,日医医療安全対策委員会の取り組みなどを問う埼玉県医師会からの質問には,今村常任理事が回答した.
同常任理事は,「制度開始後の対応の違い」について,「医療事故で患者が予期せず亡くなった場合に,全ての医療機関は必ず院内事故調査を実施し,第三者機関にも事故の事実を報告しなくてはならなくなる」と説明.
そのためには各医療機関で,院内調査をできる体制整備が必要であり,都道府県医師会には,自力で調査が難しい医療機関への支援体制を構築することが期待されるとし,具体的な事項として,「院内事故調査体制の支援」「解剖やAiの実施施設の手配」「届け出るべき医療事故に該当するかの相談機能」などを挙げた.
また,「医療安全対策委員会での取り組み」に関しては,諮問「医療事故調査制度において医師会が果たすべき役割について」に基づいて検討を進めており,その中では全ての医師会が一丸となった取り組みのあり方を検討しているとした.
更に,今後に関しては,制度の開始に向けて,各地域のブロック単位でのシンポジウム等の開催の検討を要請するとともに,日医からは早急に情報提供を行う意向を示した.
(九)薬局等で行う薬剤師の業務に関する日医と日本薬剤師会の協議について
中川俊男副会長は,薬局等で行う薬剤師の業務に関して,日薬と協議を続け,昨年十一月に,(1)検査は原則医療機関で行う(2)薬局等で自己採血検査を行う場合にも,検体測定室に関するガイドラインを遵守(じゅんしゅ)する(3)地域住民の健康は,かかりつけ医を中心に多職種が連携して支えていく(4)今回の健康情報拠点の推進事業も,地域医師会・かかりつけ医の十分な理解と適切な指導の下に行う─の四点で合意し,十二月十七日に山本信夫日薬会長同席の下,横倉会長が記者会見で公表したことを改めて報告.「日医は服薬管理はかかりつけ医の重要な役割と考えており,今後もその立場で対応していく」とした.
更に,同副会長は,「薬局・薬剤師を活用した情報拠点事業」について,来年度も実施することになっているが,日医の主張が取り入れられ,かかりつけ医との連携が追記されたと説明.「都道府県医師会においては,今回の合意内容を踏まえた対応をして欲しい」と要望した.
(十)所得水準の高い国保組合の国庫補助見直しについて
所得水準の高い国保組合への国庫補助については,松原謙二副会長が,医師国保に対する国庫補助が平成二十八年度から三十二年度までの五年間をかけて段階的に見直されることになった経緯を報告した.
その中では,(1)本件に関する社会保障審議会医療保険部会での議論においては,医師国保を維持する意義について繰り返し主張してきたこと(2)当初,財務省からは来年度からゼロ%にするとの主張があり,横倉会長を中心に強く働き掛けた結果,来年度は三二%を維持できたことなどを説明.
その上で,「平成三十二年までには時間があり,引き続き医師国保の意義について説明していきたい」と述べ,今後の活動に対する理解と協力を求めた.
その他,当日は,吉川敏一第二十九回日本医学会総会二〇一五関西登録委員長が,改めて参加登録への協力を求めた他,小森貴常任理事が昨年十二月よりスタートした日医会員向けの電子書籍サービス「日本医師会e-Library(日医Lib)」について,その使い方等を紹介した.
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