日医ニュース
日医ニュース目次 第1285号(平成27年3月20日)

平成26年度学校保健講習会
新たな定期健康診断の在り方を概説

平成26年度学校保健講習会/新たな定期健康診断の在り方を概説(写真) 平成二十六年度学校保健講習会が二月二十八日,日医会館大講堂で開催された.
 道永麻里常任理事の司会で開会.冒頭あいさつした横倉義武会長(今村聡副会長代読)は,「幼年期から学齢期における保健指導,健康教育は,生涯にわたる健康づくりの礎として非常に重要である」とした上で,学校保健安全法施行規則改正(平成二十六年四月)に伴い,平成二十八年度から学校保健の健康診断項目等が変更になることについて触れ,「本講習会は改正を踏まえた内容になっている.本日得られた成果を,ぜひ,地域の学校保健活動に役立てて欲しい」とした.
 講習会では,まず,松永夏来文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課学校保健対策専門官が,最近の学校健康教育行政の課題として,(一)児童生徒の健康診断,(二)「がん教育」,(三)学校におけるアレルギー疾患への対応─について解説.平成二十八年度の改正に伴う変更点を説明するとともに,改正に係る留意事項については,本年夏ごろ配布予定のマニュアルの中で示していくとした.
 また,来年度実施予定である「がんの教育総合支援事業」については,文科省の「『がん教育』の在り方に関する検討会」報告書を踏まえてモデル事業を実施し,今年度内にフレームワークを作成する予定を報告した他,学校でのアレルギー対応については,学校生活管理指導票の提出及びガイドラインの徹底等,学校医の更なる協力を求めた.
 安達知子日本産婦人科医会常任理事は,「性に関する健康教育のあり方」と題し,若年妊娠の医学的・社会的リスク及び高齢妊娠による自然流産や不妊症等さまざまな産科異常発生率を紹介.
 日本人の多くは妊娠・不妊に関する知識不足であるとして,望まない妊娠を避け,妊孕性(にんようせい)のある年齢で安全な妊娠・出産をするためにも,「妊娠の適齢期や妊娠できる期間の限界」「不妊治療の困難さや経済的・精神的負担」等,発達段階に応じた性に関する健康教育を早期に実施することが必要になるとした.
 針間克己日本精神神経学会「性同一性障害に関する委員会」委員は,「いじめ問題の背景としての性同一性障害」について,性同一性障害者は,(1)言葉や振る舞い,容姿や服装などが典型的ではない(2)会話や話題についていけない(3)恋愛の対象が異なる─等,周囲と違うことがあると説明.
 また,性同一性障害者の自殺関連事象発生年代が中学生から高校生の思春期に多いことに触れ,学校に対しては,「クラスに一人は性同一性障害者がいることを前提とした対応が望まれる」とするとともに,医療者に対しては,「相談を受けた場合は医学的なことを淡々と説明して欲しい」と述べた.
 午後からは,「新たな定期健康診断を巡って」をテーマにシンポジウムが行われた.
 まず,衞藤隆日本子ども家庭総合研究所長が,学校における健康診断に関するこれまでの経緯を概説した上で,より効果的・効率的に健康診断を実施するためにも,学校側が事前に児童生徒の健康状態を把握し,学校医に伝えることが重要であるとして,そのための保健調査の更なる充実の必要性を強調した.
 村田光範東京女子医科大学名誉教授は,座高測定が必須項目から削除されたことについて,「児童生徒の健康管理に問題はない」とした上で,身体測定を健康管理に活用するためには,個々の児童生徒の身長・体重成長曲線を継続的に管理することが必要だとして,成長曲線作成の重要性を指摘.現在では,成長曲線の異常パターンの自動判定を行うプログラムもあることから,管理・作成にはパソコンを活用して欲しいとした.
 古谷正博日本学校保健会理事・横浜市医師会長は,「四肢の状態」が必須項目となった理由として,現代の子ども達に過剰な運動や運動不足により,さまざまな運動器に関する問題が増加していることがあると指摘.「運動器検診の実施に当たっては,保健調査票等を活用し,家庭における観察内容等を事前に学校側から得た上で,学校医が診察することになることから,検診で異常が発見された場合には,専門医療機関への受診等,適切な事後処置をお願いしたい」と述べた.
 藤本保大分こども病院長は「保健調査の充実とそのあり方」と題し,日医学校保健委員会が取りまとめた中間答申(平成二十五年五月)で提言した「健康診断の効率化・精度向上のための保健調査の充実」を図るため,児童生徒の健康診断マニュアル改訂版(平成十八年発刊)を基に委員会で作成した三つのパターンの保健調査票案((1)精度の高いデータベース機能も持つ:網羅性(2)実際の健康診断で使用する:効率性(3)実際の健康診断で使用する:更なる効率性)を示し,その活用を求めた.
 柏井真理子日本眼科医会常任理事は,色覚異常は自分では気づきにくいことから,学校健診において色覚検査の項目が削除(平成十四年)されたことにより,進学・就職時に初めて異常を指摘され,混乱が生じている現状を報告.その上で,自身の色覚の特性を早く知ることで将来への適正な対応が可能になることから,学校保健安全法施行規則改正により保健調査に色覚に関する項目が新たに追加されたことを評価するとともに,検査実施の際に求められることとして,「プライバシーへの配慮」を挙げた.
 引き続き行われた総合討論では,活発な質疑応答が行われ,講習会は終了となった.

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