日医ニュース
日医ニュース目次 第1289号(平成27年5月20日)

勤務医のページ

勤務医の勤務環境と処遇改善
地方独立行政法人岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院副院長 今城健二

新しい時代の流れ

 わが国では一九八〇年代からの医療費抑制政策を背景に,医師不足や病院経営の悪化のため過重労働を強いられることが多くなった.医療安全に対する過度の社会的要求も高まり,勤務医の置かれた環境は悪化を続けている.
 平成十六年度から初期臨床研修義務化が実施されたが,医師養成には少なくとも十年はかかり,基幹病院での医師不足は続き,医師の偏在問題も顕在化し,自治体病院もその渦中で運営されている.
 一方では,ライフワークバランスの確立や女性医師の勤務環境改善に対応していくことが,喫緊の課題になっている.

自助努力

平成27年5月7日に開院した,
新岡山市立市民病院

 岡山市立市民病院は,四百五床(一般病床三百八十七床,結核病床十二床,感染病床六床)の急性期病院であり,三キロメートル圏内に更に五百床以上の四病院がひしめく激戦区に位置している.平成十二年より地方公営企業法の全適用になり,廃院の可能性も検討する中,紆余曲折を経て平成二十六年四月に地方独立行政法人化,平成二十七年五月には結核病床を五床減床し四百床で新築移転した(写真)
 この間,岡山大学病院との連携について協議を行い,平成二十一年度, ER型救急の確立のため,救急医学講座の協力により寄附講座を開設した.これにより,負担感の強かった救急の医療現場で救急専門医と協力して,自院の研修医・大学からの研修医の教育を行いながら救急医療を強固に行う体制を整備した.また,平成二十六年度より連携大学院として実践総合診療学講座を設置し,救急搬入のみならず,walk-inの症例に対しても対応が向上した.
 病院のシステムの構築,若手医師の教育を通じて,職員のモチベーションを維持・改善し,診療の質をあげつつ無理のない運営を行うことで,持続可能な体制に変更した.これらの改革により,救急当直は月四回から一〜二回に大幅に改善した.
 病院勤務医の負担の軽減については,医師事務作業補助者の十五対一配置を整え,短時間雇用医師の採用も進めた.育児中の女性医師の雇用も推進し,勤務時間も各医師に個別対応し,女性にとって働きやすい勤務制度を行っている.
 過重労働対策として,当直勤務後の早期帰宅を目指し,三交代勤務への布石として,当直医の準夜・深夜の交替や翌日のdutyの免除など細かいシフトを敷いた.平成二十六年度中に,部分的にシフト勤務(当直業務にシフトとして入る代わりに週日を休暇とする)を導入した.また,医療現場での暴言・暴力対策として,市内初の警察への緊急通報システムの導入や警察OBの巡回を行い,精神的ストレスの軽減を図っている.
 待遇面については,市内の基幹病院では優遇されており,独立行政法人化時にも現給保証で対応し,金額面では維持されている.

未曽有のBig Wave

 少子高齢化の時代になり,病院を取り巻く環境は大きく変貌した.平成二十六年より,医療・福祉に係る法改正が始まり,平成三十年までに三十近くの改正が行われる.二〇二五年問題への取り組みが開始され,地域包括ケア病棟が診療報酬改定で評価された.地域医療ビジョンも今年度で策定され,膨張する医療費の抑制に向けて我々が経験したことのない荒波が近くまで押し寄せてきている.
 今年は約八千人の医学部卒業生が出たが,三年後には一万人が卒業する時代が来る.地域医療連携推進法人制度(仮称)の検討も行われており,岡山市内は全国に先駆けて非営利ホールディングカンパニーの構想も検討されている.これまでの自助努力だけでは乗り切れない勤務環境や待遇面での変化が起こると考えられる.

新しい時代への対応

 激動の時代に突入しており,地域や病院ごとに置かれた周囲の環境と医療情勢が異なっている.今後は,状況の詳細な把握と緻密な戦略をもたなければ,勤務医の環境改善も成し得ないと考えられる.

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